セル生産方式の課題と展望
1999年8月 / 212号 / 発行: 1999年10月1日
目次
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会長あいさつ
21世紀に向けてのIEの発展
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巻頭言
セル生産方式の課題と展望
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特集テーマのねらい(特集記事)
セル生産方式の課題と展望
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論壇(特集記事)
セル生産方式に関するIE的考察
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ケース・スタディ(特集記事)
簡易AGVによるユニット組立ラインの再構築
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ケース・スタディ(特集記事)
1個作り設備の導入
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ケース・スタディ(特集記事)
「自己完結ライン」への取り組みによるBPRを指向した現場改革
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ケース・スタディ(特集記事)
安く経営するWSMの導入
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ケース・スタディ(特集記事)
市場と呼吸する1人生産方式の構築
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ケース・スタディ(特集記事)
世界一の顕微鏡工場をめざしたセル生産方式
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研究ノート(特集記事)
セル生産システムの一考察
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座談会(特集記事)
新たなるセル生産方式への模索
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講座
生産情報システムの環境・設計・改善[Ⅰ]
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シリーズ現場改善(特集記事)
グローバル製造の展開における現場改善
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企画広告
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コラム(7)
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メキシコ便り(3)
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ジャスト・イン・タイム
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新製品紹介
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新刊紹介
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編集後記
本特集を組むにあたって
多品種少量に効率よく対応し、同時に作業者の働きがいも向上させる生産方式として“セル生産方式”が多くの企業で導入されている。本特集では、この“セル生産方式”を取り上げることとなった。セル生産方式について新聞や雑誌の記事を見ると、従来のコンベアを用いた工程分業形態に比べて、大幅な生産性向上、リードタイム短縮、スペース削減、モラール向上など、セル生産のメリットが強調されているものが多い。一方で、大きな効果を生み出した理由、セル方式を定着させうまく運用する上での工夫、今後の展望などを掘り下げ詳しく述ベた文献は意外に少ない。
本特集を組むにあたり、この点が編集委員会でも大きな問題となった。セル生産方式の効果だけを強調したものではなく、IE的な視野からセル生産方式の特徴や課題を明確にした特集をどのように作り出すかである。議論を重ねた結果、本特集では編集委員がセル生産方式の現場を訪ね、担当者と議論をさせていただく。そしてセル生産方式を、コンベア生産方式と比較するのではなく、各企業がセル生産方式を展開するにあたり工夫されている点や現在抱えている問題点などを明確に紹介していただくことを通じて、セル生産方式の特徴や課題を述べることとした。したがって、本特集は特色のあるセル生産方式の記事を集め、それら全体で上記の課題に答えるものとなっている。
以下に、どのようなことを議論し記事をまとめていったか、また個々の記事の特色を簡単に述べ、特集のねらいを述べさせていただく。
セル生産方式への素朴な疑問
初めに、セル生産方式についての雑誌や記事を見直してみた。前述したように、そこには従来のコンベアを用いた生産方式から、セル生産方式へと移行することで、大きな効果が得られたと報告されているものが大半であった。しかし、このような大きな効果が生まれることに疑問を感じた。
なぜならば、その理由が述べられていない記事があること、仮に理由が述べられていたとしても、コンベア生産方式と比較する場合の考察の対象範囲や前提が明確でないものが多いからである。具体的には、以下のような疑問点が生じた。
- (1) セル方式は、1人生産方式、U字方式、自己完結方式、屋台、1個作り方式など、その特徴を示した言葉で言われている。どれが、その本質なのか?
- (2) セル方式は、簡単に構築できるのか?
- (3) セル生産では、製品の変更に伴いすべてのラインを変更しなければならない、これは負担にならないのか?
- (4) 部品の納入から製品の出荷までのハンドリングを含めると、効率的な方法か?
- (5) セル生産方式のスペース生産性はよいか?
- (6) 一貫した流れのなかに設備によるロット生産が含まれていたり、多品種少量の受注情報が完全に入らないなかでも、この方式を進めるべきか?
- (7) 製品の構成や変種、変量といった条件だけに対しセル生産方式は選択されるべきか?
- (8) セル生産方式以外でも、働き甲斐が見出せないのか?
- (9) セル方式では、人に負うところが大きく、新たな工法や設備化、情報化が進みにくいのではないか?
セル生産方式の生い立ち
セル生産方式の始りは、「グループ・テクノロジー(group technology)」あるいは、「コンベア方式への批判」と思われる。
前者のグループ・テクノロジーとは多品種少量生産を効率的に行うための手法ならびに考え方であり、類似部品(たとえば、形状が似たもの、寸法が似たもの、加工方法が似たもの)を集約してグループとし、工程設計を合理化し、各グループに適切な機械と治工具を割り当て、段取時間、工程間運搬、加工待ちを減少し、無秩序に生産する場合より大きいロット数で、大量生産方式に近い効果を与え、生産性を向上しようとするものである。
後者の「コンベア生産方式への批判」は、コンベアでの7つの無駄で代表されることがらであり、いくつかの記事が掲載されている。
これらのことは、セル方式を考え直すきっかけともなる。グループ・テクノロジーは、多品種少量品をひとまとめにしてセル化するのではなく、適した単位でセル化することを示唆してくれる。
また、コンベア方式の原点はフォード生産方式である。フォード生産方式以前は、“職人さん”がスキルを発揮し手作りでひとつひとつの品物を作っていた。それが大量生産時代になり、“人”の作業を「専門的分業化」、「細分化」、「単純化」するフォード方式により効率化を図った。そして、多品種少量時代となり“人”の「多工程持ち化」、「多能工化」を行うセル方式となり、ある意味で昔の人の活かされ方に戻ったようにもみえる。このように“人”に着目すると、歴史は繰り返しており、フォード方式とセル方式の両極を「行き過ぎ」や環境の変化で行きつ戻りつしているようにもみえる。
このようなことを念頭におき、2で示した疑問を持ち、これらをセル生産方式を実際に担当されている方々にぶつけることにした。
セル生産方式の特徴と課題
セル方式を活用している現場は、コンベアを廃し移行したところがほとんどであった。しかし、コンベア方式との比較では、2で述べたように考察の範囲を明確にして効果を聞いてみると、記事に示されているような大きな効果までは得られないという意見が大半であった。逆に、記事にあるような大きな効果がでるのは、コンベア方式があまりに非効率だったのではないかという意見が聞かれた。
それでは、なぜこれらの企業はセル方式を進めるのかということになる。セル方式を着実に取り入れ効果を出している企業は、独自の視野でセル方式を利用しているというのが、取材を通しての答えであった。共通点をあげるならば、以下のことである。
現代では多品種少量や変種変量といった需要、顧客志向、さらには製品のライフ・サイクルの短期化という環境変化が生じている。そこでは今までとは異なるフレキシビリティを持ったラインの構築が求められ、その手段としてセル方式が模索されているのである。そして、このフレキシビリティを実現するためには、様々な生産要素のなかで最もフレキシビリティを持つ“人”を活かすことが必要不可欠となる。
生々しい言葉も含め、取材を通して“人”について聞かれた声を紹介する。
「セルは人である。」「生き残りのためには、人を活かしセルを活用していくことが必要である。」「セルをやってついて行けない人は、やめていった。」「セルを構築する際に、最も大変だったのは立ち作業にすることだった。」「人が多能工化され、活かされなきゃセルなんてやっても意味がない。
このような共通点があるが、以下に本特集の構成にそって、各企業の取り組みを紹介してゆく。
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論壇
セル生産方式のメリットやデメリットはコンベア生産方式と比較されることが多い。しかし、このような比較の元では、セル方式に内在する真の問題を把握することはできない。セル方式をひとつの生産方式として単独に考察の対象としてとりあげ改善してゆくことが重要である。以上のような問題意識のもと、セルの語源や定義を考察した上で、IE的な観点からセル方式の条件について整理・検討し、今後セル方式を展開し、改善を進めてゆく上で参考となるポイントを論じられている。 -
ケース・スタディ
- ①コンベア方式(量産方式)とセル方式(非量産方式)の棲み分け/愛知機械工業(株)・日本ケミコン(株)
コンベア方式をセル方式に変えると、大きな効果が得られるのか? この疑問に対するひとつの答えを示唆してくれるケースである。すなわち、コンベア方式は効率が悪いのではなく変種変量のなかで使用することに無理があることに着眼されている。そこで、品種を分類し、コンベア方式は量産に特化し儲け頭になるように蘇らせている。一方、それ以外の変動を吸収するためにセル方式を位置付けている。
愛知機械工業のケースでは、簡易AGVを用いたセル方式の構築、また部品供給を含めたセルや大量かつ変量に適応するためのセルなどが提案されている。日本ケミコンのケースでは、従来では大量品を自動化ラインにより生産していたものを、受注量の変化により切り分けし、1個作り設備を導入し多品種少量用の自動化のセル方式を構築されている。 - ②間接業務も含めた自己完結を目指したセル方式/(株)山武・オムロン(株)
生産現場に顧客の需要情報が流れ、それに基づいたフレキシブルな生産を行うことでセル方式は効果を発揮する。そのためには間接業務(管理業務)をセル方式に取り込む必要がある。これが実現されると「計画~調達~製造~出荷」を自己完結で行う、セル方式となる。
両ケースには、セル化も含めた直接業務の改善が着実に行われた元で次の間接業務への拡大を進めたこと、間接業務までも含めることで作業者はより顧客と向き合うことになり働き甲斐が増すことが示されている。さらに、山武のケースでは、情報機器の活用の前段階で間接業務に関する情報を見えるかたちに整理することの重要性や、間接業務における人材育成について述べられている。オムロンのケースでは、コストを明確に意識し、間接業務を含めたセル方式をWSM(ワーク・ショップ・マネージメント)と呼び、WSMを導入する経緯や意義について論じられている。 - ③情報機器を活用した搬送一体型セル方式の構築/松下精工(株)
セル方式を導入すると、生産する場所がいくつも分かれることになり、部品供給はその分手間がかかることになる。しかし、このケースでは、部品や完成品の“搬送具”と“作業台”をかねた「キャリアー」と呼ばれる天井吊り下げ式のフックコンベアを用いて、搬送と生産が一体となったセル方式が提案されている。さらに、セル毎の出来高や品質などの集計、的確な作業指示を送るなど、情報機器をうまく活用されている。 - ④人を活かしたセル方式/オリンパス光学工業(株)
セル生産方式は、コンベア方式に比べ明らかに人が多能工化される。多能工化は日本ならではの人の使い方であり、プラス面でみれば人の活性化につながり、マイナス面でみれば労働強化や差別化につながる。このことからも、セル方式を実現するには人を大切にし、人を活かすことが最も重要である。この人を活かすことについて工場をあげて取り組んでおられるケースである。
また、本工場では最も部品点数や種類数が多く高精度を必要とするものからセル化されている。これは人の多能工化を考えると逆のように思われるが、このことが品質向上に大きな役割を果たすことが紹介されている。
- ①コンベア方式(量産方式)とセル方式(非量産方式)の棲み分け/愛知機械工業(株)・日本ケミコン(株)
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研究ノート/(株)日立製作所
本研究ノートは、セル生産方式の向上と展開には、生産技術的側面からの考察が必要であるというところから出発しており、本特集のねらいと合致している。
本稿のなかでは、組み立てセルを対象としてセルシステムの設計方法が提案されている。設計は、「対象製品に適合するセル生産形態の設計」と「セルへの部品供給を中心とした物流方式の設計」の両者を考察の対象とし、代表的なモデルを提案されているところに特徴がある。さらに、セル方式における新人など非熟練者の育成や支援について、作業習熟と関連付け、IT技術を駆使したツールを提案されている。 -
現場改善/(株)島津製作所
セル方式の導入は工場や現場を大きく変えるきっかけともなる。特に、重要なことは“人”の活かされ方である。本ケースでは、セル方式の導入をきっかけとして、改善を現場に定着させた事例を紹介していただいている。また、このような改善の土壌は海外では困難と思われがちであるが、それを実現されているケースである。 -
座談会
最後に、座談会では、テーマを「新たなるセル生産方式への模索」とし、大学や企業の枠を超えて議論していただいた。これらの内容は、セル導入を検討している企業、新たなるセル方式を模索されている企業に示唆をあたえるものとなっている。
【論壇】セル生産方式に関するIE的考察
【ケース・スタディ】簡易AGVによるユニット組立ラインの再構築/【ケース・スタディ】1個作り設備の導入
コンベア方式(量産方式)とセル方式(非量産方式)の棲み分け
コンベア方式をセル方式に変えると、大きな効果が得られるのか? この疑問に対するひとつの答えを示唆してくれるケースである。すなわち、コンベア方式は効率が悪いのではなく変種変量のなかで使用することに無理があることに着眼されている。そこで、品種を分類し、コンベア方式は量産に特化し儲け頭になるように蘇らせている。一方、それ以外の変動を吸収するためにセル方式を位置付けている。
愛知機械工業のケースでは、簡易AGVを用いたセル方式の構築、また部品供給を含めたセルや大量かつ変量に適応するためのセルなどが提案されている。日本ケミコンのケースでは、従来では大量品を自動化ラインにより生産していたものを、受注量の変化により切り分けし、1個作り設備を導入し多品種少量用の自動化のセル方式を構築されている。
【ケース・スタディ】『自己完結ライン』への取り組みによるBPRを指向した現場改革/【ケース・スタディ】安く経営するWSMの導入
間接業務も含めた自己完結を目指したセル方式
生産現場に顧客の需要情報が流れ、それに基づいたフレキシブルな生産を行うことでセル方式は効果を発揮する。そのためには間接業務(管理業務)をセル方式に取り込む必要がある。これが実現されると「計画~調達~製造~出荷」を自己完結で行う、セル方式となる。
両ケースには、セル化も含めた直接業務の改善が着実に行われた元で次の間接業務への拡大を進めたこと、間接業務までも含めることで作業者はより顧客と向き合うことになり働き甲斐が増すことが示されている。さらに、山武のケースでは、情報機器の活用の前段階で間接業務に関する情報を見えるかたちに整理することの重要性や、間接業務における人材育成について述べられている。オムロンのケースでは、コストを明確に意識し、間接業務を含めたセル方式をWSM(ワーク・ショップ・マネージメント)と呼び、WSMを導入する経緯や意義について論じられている。
【ケース・スタディ】市場と呼吸する1人生産方式の構築
情報機器を活用した搬送一体型セル方式の構築
セル方式を導入すると、生産する場所がいくつも分かれることになり、部品供給はその分手間がかかることになる。しかし、このケースでは、部品や完成品の“搬送具”と“作業台”をかねた「キャリアー」と呼ばれる天井吊り下げ式のフックコンベアを用いて、搬送と生産が一体となったセル方式が提案されている。さらに、セル毎の出来高や品質などの集計、的確な作業指示を送るなど、情報機器をうまく活用されている。
【ケース・スタディ】世界一の顕微鏡工場をめざしたセル生産方式
人を活かしたセル方式
セル生産方式は、コンベア方式に比べ明らかに人が多能工化される。多能工化は日本ならではの人の使い方であり、プラス面でみれば人の活性化につながり、マイナス面でみれば労働強化や差別化につながる。このことからも、セル方式を実現するには人を大切にし、人を活かすことが最も重要である。この人を活かすことについて工場をあげて取り組んでおられるケースである。
また、本工場では最も部品点数や種類数が多く高精度を必要とするものからセル化されている。これは人の多能工化を考えると逆のように思われるが、このことが品質向上に大きな役割を果たすことが紹介されている。
【研究ノート】セル生産システムの一考察
本研究ノートは、セル生産方式の向上と展開には、生産技術的側面からの考察が必要であるというところから出発しており、本特集のねらいと合致している。
本稿のなかでは、組み立てセルを対象としてセルシステムの設計方法が提案されている。設計は、「対象製品に適合するセル生産形態の設計」と「セルへの部品供給を中心とした物流方式の設計」の両者を考察の対象とし、代表的なモデルを提案されているところに特徴がある。さらに、セル方式における新人など非熟練者の育成や支援について、作業習熟と関連付け、IT技術を駆使したツールを提案されている。