間接業務の改善と経営革新
2000年8月 / 216号 / 発行:2000年8月1日
目次
-
巻頭言
製造業の復権をめざして
-
特集テーマのねらい(特集記事)
間接業務の改善と経営革新
-
論壇(特集記事)
SCMの観点からの間接業務の革新
-
論壇(特集記事)
ホワイトカラーの生産性向上
-
ケース・スタディ(特集記事)
「夢・革新50」工場間接部門の活人化と効率化
-
ケース・スタディ(特集記事)
新生産管理システム(SPEED)による情報の共有化と間接業務の改善
-
ケース・スタディ(特集記事)
情報を活かしたリアルタイム製造管理システム
-
ケース・スタディ(特集記事)
フラット化したシステムでスピーディな業務
-
ケース・スタディ(特集記事)
生産現場の情報と管理のスリム化による間接業務の効率化
-
研究論文
問題の所有者と問題の所有権という概念を用いた理想的ライン中心主義の提案
-
研究論文
生産現場におけるタッピンねじ締め作業の実態と作業性を向上させるための作業方法の提案
-
講座
生産情報システムの環境・設計・改善[Ⅴ]
-
会社探訪
独自の工夫を詰め込んだ工場改善-カヤバ工業(株)-
-
現場改善
生産・物流・情報リードタイムの短縮
-
コラム(11)
-
ドイツ便り(1)
-
ジャスト・イン・タイム
-
新製品紹介
-
新刊紹介
-
編集後記
はじめに
現在、各企業は管理・間接部門の効率化とIT、SCMそしてナレッジマネジメントなどを取り入れた経営革新を強力に推進している。しかし、ホワイトカラーの失業が話題を集めている米国に比べて日本では間接部門のスリム化が遅れていると言われている。また、現場の合理化尺度である「労働費用率」に比べて、間接部門を含めた尺度である「労働配分率」があまり低くなっていない。そして、成功事例の紹介も多いとは言えないのが現状である。しかし、間接部門の改善と経営革新は一体として取り組まれ、その推進には、業務、コアコピタンスやナレッジそのものの見直しや再定義が行われている。また本特集では、そのなかで役立っているIE的な発想やIEの技法・手法についての事例を検討する。
環境の変化
1990年代以後、それまで企業の収益を支えてきた日本的生産システム、すなわち、良いもの、安価に、早く、大量に生産することを目指した生産システムの改善・改革だけでは、各企業はもはや大きな収益を生み出せない状況になっている。生産技術の発展と標準化が進み、高品質な製品が日本にしかできない状況ではなくなっている。また同様に、生産拠点は人件費・材料・部品が安く調達できる地域であれば世界のどこでもかまわない。さらに、拡大した貿易と物流システムによって地球が小さくなり輸送期間も大幅に短縮されている。一方、経済のグローバル化とともに世界に広がった顧客からは「早く、新しいものをタイムリーに供給すること」を求められ、これまで資産であった在庫は、逆に企業のリスクとなって経営を圧迫している。さらに金融のグローバル化とともに国際会計基準が適用され、キャッシュフローが企業評価の重要な要素になり、その面からも経営戦略の転換が迫られている。
管理・間接部門の役割
このように、市場変化の加速やグローバル・オペレーションの拡大、さらには、IT技術の高度化により、アジルな経営が要求され管理の仕組みや間接部門の業務が大きく変化している。また、製品開発のスピードアップ、マス・カスタマイゼーションや受注対応生産(MTO)などを可能にするため、製品企画・開発のプロセス、流通在庫の管理、補充計画など商品供給戦略や需要予測の方法など、企業の戦略策定や計画立案部門の役割が変化してきている。さらにIT技術の発展によって、ERPやインターネットの活用などそれらに使用されるツールが変化し、管理・間接部門の業務が人手中心のバッチ処理からリアルタイムの一括処理に変化し、従来のデータ・ハンドリング、夜間コンピュータで処理されたデータの解析や加工なども不要になってきている。その結果、管理・間接部門の業務は評価・選択という、まさに戦略そのものの立案や企画業務へと変化している。一方、業界や学会あるいは企業内各部門の情報を収集・整理し社内関係部門へ伝達していた本社スタッフの業務も、インターネットと検索エンジンの普及により、社内の誰でもがどこからでも同時に情報を得られる状況が実現されるようになって見直しが進み、いわゆる、本社スタッフのスリム化・高付加価値化が求められている。最近注目を浴びているナレッジ・マネジメントはこれら社内のノウハウの蓄積・活用や社外技術情報の活用に対応したものということができる。
スリム化の推進
一方で、実際の企業では「間接業務を改善・改革して企業体質を強化するためには、少数精鋭、すなわち少数にすれば精鋭になる」というこれまでのやり方で対応しているケースも多い。このような対応がなされる理由は、次のことに起因すると考えられる。第1は、どうしても組織や人的資源といった側面からのアプローチがわかりやすいこと。第2は、厳しい経営環境のなかで短期的な成果を早期に生み出すことが求められていること。第3は、改善・改革の対象とすべき部門が、生産計画部門・資材部門・経理部門などラインの管理・間接業務だけでなく、経営企画部門や本社管理部門の役割見直しを含めた業務全般の見直し・再構築へと広がるべきであるという先入観に対して、こうした部門での業務はその内容が把握しにくい。しかしこのような従来型のやり方では、企業の体力まで弱体化することになり、真に時代の要求に合った業務のあり方に向けて改善・改革していくことはできない。改善・改革には、トップの意識だけでなく、しっかりとした論理とツールが必要であり、地道に推進して行かなければならない。すなわち改革にあたっては、自社の置かれている環境把握と目指すべき明確な方向に加えて、現状の業務を正確に分析して問題点や改善の着想を考えていくIEの考え方と手法を、有効に活用されるべきである。
特集のねらい
そこで今回の特集は、間接部門の役割ならびに業務見直しの背景と、業務改革を進めるなかで開発したり活用されてきた改革・改善技法に焦点をあて、IEが間接業務の改善・改革にどのように役立つかを中心に考え、今後のIE活用の方向性を探ることにした。当然、情報技術の活用も技法のひとつとして対象となるが、この特集では可能な限りシステムの背後にある考え方に光を当てて、システムが必要になった背景や企業にとって果す役割などを、中心に記載して頂くことにした。具体的には、対象とする問題が極めて広範囲におよぶと考えられるが、全社・全業務の改革について記載することは誌面や執筆者の問題もあり困難なことから、テーマの選定にあたっては、切り口をあまり狭い範囲に特定せず自由に選んで執筆していただくことにし、しかも執筆にあたっては、読者の参考になるようあまり間口を広げず背景や特徴を説明していただくようお願いした。
記事について
-
論壇
論壇は、圓川隆夫先生と行本明説氏にお願いした。圓川先生は、情報技術による管理可能範囲の広がり、ものづくりシステムの範囲・境界の広がり、競争に打ち勝つためのフレキシビリティの拡大、間接業務のアウトソーシング、自己評価システムとしてのSCMスコアカード、インターフェース・コスト把握に役立つ活動基準原価など幅広い観点から間接業務が間接業務でなくなる状況を解説していただいた。行本氏には、ホワイトカラーの生産性を向上させるための分析手法として、氏が長年携わってこられた「タイム・マネジメント」の観点から、仕事に投下する人的資源としての時間を、①自分がやるか、他人と共同でやるか、②事前にわかっているか、わかっていないか、③ルーチンワークかそうでないか、の3つの切り口で分析することによって効率化する方法、仕事の進め方、専門知識の三層構造のマネジメント・モデル、仕事を業務処理と情報処理に区分して改善する方法を紹介していただいた。 -
ケース・スタディ
積水化学工業(接着フィルムなど化学品製造工場)の工場間接部門全体の効率化活動、正興電機の産業用制御機器用生産管理システム、東芝生産技術開発センタの開発したエレメカ組立・検査ライン用管理サポート・ツール、サンコールの小物スプリング用検査システムおよびテネックスのエアクリーナ・オイル燃料フィルタ生産ラインのリードタイム短縮についての事例を紹介した。それぞれ地道な取り組みによって管理・間接部門の効率化や管理そのものの廃止など成果を得たものであり、特集として期待した「経営革新」という形では纏め切れなかったが、いろいろな視点が必要であることが理解できた。なかでも、業務を機能レベルで再評価することの必要性およびコンテンツとしてのIT技術とその使い方の重要性が理解できた。
内藤 猛美/編集委員
【論壇】SCMの観点からの間接業務の革新
圓川先生は、情報技術による管理可能範囲の広がり、ものづくりシステムの範囲・境界の広がり、競争に打ち勝つためのフレキシビリティの拡大、間接業務のアウトソーシング、自己評価システムとしてのSCMスコアカード、インターフェース・コスト把握に役立つ活動基準原価など幅広い観点から間接業務が間接業務でなくなる状況を解説していただいた。
【論壇】ホワイトカラーの生産性向上
行本氏には、ホワイトカラーの生産性を向上させるための分析手法として、氏が長年携わってこられた「タイム・マネジメント」の観点から、仕事に投下する人的資源としての時間を、①自分がやるか、他人と共同でやるか、②事前にわかっているか、わかっていないか、③ルーチンワークかそうでないか、の3つの切り口で分析することによって効率化する方法、仕事の進め方、専門知識の三層構造のマネジメント・モデル、仕事を業務処理と情報処理に区分して改善する方法を紹介していただいた。
【ケース・スタディ】『夢・革新50』工場間接部門の活人化と効率化/【ケース・スタディ】新生産管理システム(SPEED)による情報の共有化と 間接業務の改善/【ケース・スタディ】情報を活かしたリアルタイム製造管理システム/【ケース・スタディ】フラット化したシステムでスピーディな業務/【ケース・スタディ】生産現場の情報 と管理のスリム化による 間接業務の効率化
積水化学工業(接着フィルムなど化学品製造工場)の工場間接部門全体の効率化活動、正興電機の産業用制御機器用生産管理システム、東芝生産技術開発センタの開発したエレメカ組立・検査ライン用管理サポート・ツール、サンコールの小物スプリング用検査システムおよびテネックスのエアクリーナ・オイル燃料フィルタ生産ラインのリードタイム短縮についての事例を紹介した。それぞれ地道な取り組みによって管理・間接部門の効率化や管理そのものの廃止など成果を得たものであり、特集として期待した「経営革新」という形では纏め切れなかったが、いろいろな視点が必要であることが理解できた。なかでも、業務を機能レベルで再評価することの必要性およびコンテンツとしてのIT技術とその使い方の重要性が理解できた。