生産グローバリゼーションへの取り組み
2002年12月 / 228号 / 発行:2002年12月1日
目次
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巻頭言
2010年ビジョンとモノづくり・人づくり
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特集テーマのねらい(特集記事)
生産グローバリゼーションへの取り組み
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論壇(特集記事)
「現代オランダ型」から見た日本企業の国際化
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ケース・スタディ(特集記事)
海外生産と日本でのモノづくり
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ケース・スタディ(特集記事)
アジア戦略と国内生産対応
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ケース・スタディ(特集記事)
大連生産とIErの役割
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ケース・スタディ(特集記事)
中国進出を機に行った生産性倍増とその維持活動の事例
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テクニカル・ノート(特集記事)
大連で経験した現地化への試みと教育面から見た中国人活用論
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プリズム(特集記事)
各国ビザ取得事情
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プリズム(特集記事)
東南アジア(ASEAN)の関税・通関事情
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プリズム(特集記事)
タイ一貫物流体制の構築
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ケース・スタディ
グローバル試作システム”W-IPS”への対応
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連載講座
品質工学の概要と具体例[Ⅱ]
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会社探訪
モノづくりと中国合弁事業の実際-(株)INAX-
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現場改善
製造現場と共通スタッフ部門が一体となった生産革新活動
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コラム(23)
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ヨーロッパ便り(1)
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協会ニュース
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新刊紹介
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編集後記
本特集の出発点
近年、製造人件費の安さを理由に、中国をはじめアジア諸国に企業の生産拠点をシフトする事例が急速に増えてきており、シフトする工程も比較的軽度の加工工程や組立工程から、重度の加工工程のシフトまで裾野が広がりつつある。また、将来的にも国内の生産能力を削減し、製品生産の拠点を国外に求めることを計画・検討する企業は極めて多くなってきている。しかしながら、その一方で、海外の生産拠点が当初の計画通りに立ち上がらなかったり、最悪の場合として海外拠点からの撤退を余儀なくされているケースも見受けられる。このような事態を避けるためには、どのようなことを考える必要があるのだろうか? また、ものづくりの観点からIErは、どのような役割を果たすべきなのだろうか? こんなことを検討してみようという議論が、本特集の出発点である。
特集テーマの切り口について
日本企業は製品製造における本格的な海外展開を、円高と貿易摩擦を回避するために、米国へ進出することから始めたケースが多いのであろう。これは、マーケットのあるところで生産するという考えに基づいたものと言え、しかも親会社が米国に拠点進出するに伴って関連する企業も進出した例も多い。日本の工業製品は価格と品質の面から国際的な競争力をもち、日本をベースに生産は拡大基調であった。米国内でも多くの企業が事業に成功し、市場を一層拡大、強固なものにしていったと言える。米国への進出にあたっては、労使関係など文化や価値観の相違から生まれる問題を回避することと、品質管理や高い生産性を持つ日本的生産システムをいかにして海外拠点に展開するかが最重要課題であったであろう。その後、欧州やアジアに海外拠点展開をするようになり、その進出の仕方も新たに海外工場を建設するケースや、現地会社と合併するケースや買収するケースなど、様々なものが見受けられるようになってきた。さらに、アジア特に中国への進出が急増してきており、海外拠点のあり方がマーケットのあるところで生産するという考えだけではなくなってきているのも事実である。つまり、その特徴は製造人件費の安さに注目し、価格競争で他社に勝つため生産拠点としての位置づけとなっている面がある。1社が進出し、安い製品を供給すれば、当然同業他社も価格競争のために進出することになるので、最終的に他社との競合に勝ち、マーケットシェアの拡大や新規開拓をしなければ、必然的に国内生産拠点の空洞化を招くことになる。実際、国内拠点の運営と役割は大きな課題となってきている。また最近、日本企業の生産グローバリゼーションという面では、海外企業との合併や業務提携も加速の一途を辿っている。この場合は、海外企業との企業文化の交わりやシステムの融合といったことが課題といえる。これらの背景を踏まえて、本特集では海外進出の意思決定段階で、海外生産をする製品と拠点を決定するための判断材料と決定要素は実際どんなことなのか、どのような経営判断に基づき進出を決定したのかを事例を通じて考えてみたい。また、海外生産を実施した場合、海外拠点の生産システム運営は日本のシステム(広義の意味でのシステム〉を少なからず移転することになろうが、どの範囲まで海外に移転する必要があるのであろうか。現地の自立化ということの捉え方も企業によって差があるであろうし、海外拠点にシステムを移転することによって日本のシステムに不足している部分が見えてくることもあろう。この点についても、事例を通じて考えてみたい。実際に日本のシステムを移転する場合、IErもしくは現場監督者が、現地指導や教育にあたることも多いと思われる。その時にコミュニケーションや教育などの面で予想される障害や、それを乗り越えるための工夫や知恵はどのようなことがあるのかについても記述いただくことにした。さらに、いくつかの事例では、コスト判断により生産拠点を海外に移した場合、裏腹の関係にある国内製造拠点の空洞化問題に対する取り組みや指針についても、企業としての考え方を併せて記述いただくことで、急速に変化しながら進みつつある生産グローバリゼーションヘの取り組みを横断的に整理する特集とした。
記事について
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論壇
論壇では名古屋大学の竹内先生に、日本企業の国際化について「現代オランダ型」という視点で、国際戦略の必要性を中心に解説いただいた。オランダは国としても、人材の面からも非常にグローバル化が進んでおり、海外に出た人は現地の生活をありのままに受け入れ、仕事でも能力を発揮する。日本人および日本企業が海外進出した場合をみると、特に中国では戦略が欧米進出的で一面的なため、中国企業の多様性を見落とし、市場拡大の機会を損失している例があるという。 -
ケース・スタディ
- ①トヨタ自動車の渋井氏には、トヨタ社で初めて単独進出し、その後海外進出の基礎となったTMMKでのTPSの実践について紹介いただいた。TPSは、ものづくりの原点を人におき、そのために導入段階で実施したコミュニケーション施策や、異常管理による改善の仕組みづくりの考え方と事例について紹介いただいた。
- ②東海ゴム工業の松本、泉両氏には、アジアを中心とした海外戦略と国内空洞化対策の考え方を紹介いただいた。コスト面から今後ますますアジア特に中国での生産移転は加速され、さらに、設備・金型の設計・製作事業の現地化や現地企業との合併など多面的に拡げられるということである。ものづくりとしては「品質世界No.1」を目標とした活動を国内から指導することでグローバルに推進し、それを通じて、国内で技能の重要性が再認識されるように変化しつつあることが興味深い。
- ③山武の平岡氏には、コスト戦略で進出した中国の大連工場で、ものづくりの実力向上を狙いとしてJIT生産方式を導入し、実際に現地主導で改善を実施し、成果をあげるまでの取り組みと、それを通じて中国の自立化を図っていった活動について、実際の改善事例を含めて紹介していただいた。
- ④日本IBMの石川、佐々木両氏には、中国工場での生産性倍増の取り組みについて、紹介いただいた。生産性倍増を達成するために、古典的IE手法と言われることもある作業測定法や動作分析を用いて、非常に詳細な分析を行い、大脳生理学と対照することで問題解決を図ったという事例は新鮮な印象である。
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テクニカル・ノート
みずほコーポレート銀行の渡辺、広瀬両氏には、中国での支店運営現地化の経験を基に、人材としての中国人の資質を中国教育制度と照合し解説いただいた上に、人事管理上の注意点について記述いただいた。中国の人材は、日本人と比較しても非常に質が高く、若い人が豊富であり、人事管理の面からは、明確なルールの制定と信賞必罰な評価、これらを支えるための職員教育が重要ということである。中国事業展開にあたっては、大変参考になる記事であろう。なお特集の狙いとは視点を異にしているが、中京情報システムの水越氏には、豊田紡織に導入したアプリケーションシステム・パッケージについて紹介いただいた。このアプリケーションシステムは、トヨタ系列10社17拠点で稼動中であり、試作部品の内示・受注データの情報管理を基にした受注管理・売上管理・支給品管理を一貫して情報管理するアプリケーションシステムということである。全体を通して整理すると、海外拠点展開にあたって日本の生産システム運営を移管し、将来的には現地で自立的に改善が行われることを目指して、海外拠点にシステムを輸出するという事例が中心である。また、その過程で日本はより高度な技術開発拠点として位置付け、海外に輸出するシステムを発展させるために、技能向上を含めたものづくりの実力向上を図っていくというのが一般的な海外戦略ということであろう。しかし、海外拠点と日本の役割を割り切った上に、明確に分担し、成果を出している事例も紹介した。今後、ますます生産のグローバリゼーションは進化していくであろうし、そのためには論壇で提言いただいたように国際戦略の面からも多面的な捉え方が必要と考えられる。そこで重要なのは、古くから指摘されている三現主義と言い換えることもできるのではないかと思われる。
萩原 常康/編集委員
【論壇】『現代オランダ型』から見た日本企業の国際化
論壇では名古屋大学の竹内先生に、日本企業の国際化について「現代オランダ型」という視点で、国際戦略の必要性を中心に解説いただいた。オランダは国としても、人材の面からも非常にグローバル化が進んでおり、海外に出た人は現地の生活をありのままに受け入れ、仕事でも能力を発揮する。日本人および日本企業が海外進出した場合をみると、特に中国では戦略が欧米進出的で一面的なため、中国企業の多様性を見落とし、市場拡大の機会を損失している例があるという。
【ケース・スタディ】海外生産と日本でのモノづくり
トヨタ自動車の渋井氏には、トヨタ社で初めて単独進出し、その後海外進出の基礎となったTMMKでのTPSの実践について紹介いただいた。TPSは、ものづくりの原点を人におき、そのために導入段階で実施したコミュニケーション施策や、異常管理による改善の仕組みづくりの考え方と事例について紹介いただいた。
【ケース・スタディ】アジア戦略と国内生産対応
東海ゴム工業の松本、泉両氏には、アジアを中心とした海外戦略と国内空洞化対策の考え方を紹介いただいた。コスト面から今後ますますアジア特に中国での生産移転は加速され、さらに、設備・金型の設計・製作事業の現地化や現地企業との合併など多面的に拡げられるということである。ものづくりとしては「品質世界No.1」を目標とした活動を国内から指導することでグローバルに推進し、それを通じて、国内で技能の重要性が再認識されるように変化しつつあることが興味深い。
【ケース・スタディ】大連生産とIErの役割
山武の平岡氏には、コスト戦略で進出した中国の大連工場で、ものづくりの実力向上を狙いとしてJIT生産方式を導入し、実際に現地主導で改善を実施し、成果をあげるまでの取り組みと、それを通じて中国の自立化を図っていった活動について、実際の改善事例を含めて紹介していただいた。
【ケース・スタディ】中国進出を機に行った生産性倍増とその維持活動の事例
日本IBMの石川、佐々木両氏には、中国工場での生産性倍増の取り組みについて、紹介いただいた。生産性倍増を達成するために、古典的IE手法と言われることもある作業測定法や動作分析を用いて、非常に詳細な分析を行い、大脳生理学と対照することで問題解決を図ったという事例は新鮮な印象である。
【テクニカル・ノート】大連で経験した現地化への試みと教育面から見た中国人活用論
みずほコーポレート銀行の渡辺、広瀬両氏には、中国での支店運営現地化の経験を基に、人材としての中国人の資質を中国教育制度と照合し解説いただいた上に、人事管理上の注意点について記述いただいた。中国の人材は、日本人と比較しても非常に質が高く、若い人が豊富であり、人事管理の面からは、明確なルールの制定と信賞必罰な評価、これらを支えるための職員教育が重要ということである。中国事業展開にあたっては、大変参考になる記事であろう。