少量多品種生産への対応
2004年3月 / 234号 / 発行:2004年3月1日
目次
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巻頭言
これからのIEの使命
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特集テーマのねらい(特集記事)
少量多品種生産への対応
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論壇(特集記事)
日本製造業の21世紀戦略
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ケース・スタディ(特集記事)
変種変量に対応するための習熟期間短縮活動
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ケース・スタディ(特集記事)
大型建設機械の少量多品種生産への対応
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ケース・スタディ(特集記事)
プリンター・コンフィグレーションに対応したダイレクト生産・供給システムの構築
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ケース・スタディ(特集記事)
物流IT改革による調達・生産・現場搬入の一貫管理体制の構築
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ケース・スタディ(特集記事)
海外生産拠点におけるSCMと物流改善
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プリズム(特集記事)
少量市場への生産・販売対応
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プリズム(特集記事)
人に近づく産業ロボット
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プリズム(特集記事)
CTO(Configure To Order)によるパソコン多品種少量生産の実現
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プリズム(特集記事)
多品種少量生産への考察
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連載講座
生産性評価法[Ⅲ]
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会社探訪
「人間と機械の調和」をめざした高度なハイテク機器の創出-オムロン(株) 草津事業所-
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現場改善
機械加工産業のムダ取り実践
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ビットバレーサロン
IE改革電脳硬件工場(上)
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講演
中小生産企業の国内での生き残りに向けて
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研究ノート
時間軸を入れた収益性評価法の一考察
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コラム(29)
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タイ便り(1)
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協会ニュース
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新刊紹介
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
少量多品種生産の背景
1990年代初頭から続いている景気低迷のなか、自動車産業やデジタル家電分野などに業績復調のきざしが見え始めている。しかし多くの国内製造業は、未だ苦境を脱したとは言えない状況にある。その要因としては、特に箱モノ、白モノと呼ばれる電気製品に代表されるような組立型産業にみられる中国の台頭、ITの発展とともに変化しつつあるビジネスモデルヘの対応の遅れ、そして需給バランスが回復せずデフレ状態が続いていることなどが指摘されている。このような環境下でも堅実な業績を挙げている企業、組織がある。これらの企業、組織のいくつかは、多様化している顧客の要求に応えるべく、また自らの持つ経営資源を最も有効に活用するために少量多品種生産を指向している。小誌は、これまで例えば、セル生産、一個流し、混流生産、パーツバリエーションの工夫、モジュール化などの事例紹介を通じて、少量多品種生産に関し主に生産ラインにスポットを当てた特集を幾度か取り上げてきた。これらの事例の中心は、生産現場の改善・改革のプロセスと、その成果の紹介であった。
本特集の着眼点
しかし、市場あるいは顧客に対する貢献という視点からすると、必ずしも生産現場、生産ラインの改善・改革のみで成果が得られるわけではない。すなわち、生産体制と密接な関係を持つ、例えば、部品調達、設計開発、物流、販売、また教育を含む管理などの仕組みが大きく影響するであろうことが推察できる。そこで本特集は、いわゆる少量多品種生産体制をより有効に展開可能にするための、上流・下流およびその周辺の分野における諸活動に視点を合わせ、それぞれの分野の役割と重要性についていくつかの事例を紹介することとした。少量多品種生産のための上流・下流、周辺の諸活動の論議をさらに推し進めていくと、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)にたどり付くケースもあり得る。しかし、本特集では、単にSCMの全容を紹介して頂くのではなく、SCMを展開するなかで少量多品種生産や周辺の活動の位置づけ、運営上の工夫などについて述べて頂くこととした。
記事構成
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論壇
武蔵大学の松島桂樹先生に「日本製造業の21世紀戦略――顧客志向の少量多品種生産」と題し、今後、日本企業が強みとすべき日本型ビジネスモデルのあり方について考察を頂いた。「失われた10年」を経た後の日本産業の置かれた環境を踏まえた上で、統合(Integration)をキーワードに日本の生産システムの歴史と特長を述べた後、2000年と2002年に日本IE協会が主催した海外視察研究会の調査結果を基に米国製造業のSCMを中心としたビジネスモデルと日本製造業のそれとを比較して頂いている。そこから、顧客満足を礎に置き日本製造業の特長である「統合」が単に一企業内に留まるものではなく、お互いのコアコンピテンスを活かした企業間の緊密なコラボレーションに今後の日本に適合したシナリオのひとつを見出せるとの指摘をされている。 -
ケース・スタディ
- ①村田製作所/「変種変量に対応するための習熟期間短縮活動」
同社が生産している電子部品は、市場(携帯電話等)の短サイクル化が進んでおり、同社の製品もまた変種変量対応が必要となっている。その方策として、生産変動に合わせて作業者数を増減させる方法を採用している。その際、作業者の技能を短期間で習熟させるため「訓練の実施」「改善の実施・訓練ツールの作成」「作業の標準化」「訓練の標準化」の4つの取り組みを体系化し、そのサイクルを回すことを特長として成果を上げていることを執筆頂いた。 - ②コマツ/「大型建設機械の少量多品種生産への対応」
コマツ真岡工場は、中・大型機種を月当たり約150台生産しているが、機種別には130機種以上であり、典型的な少量多品種生産になっている。同社は「開発に重点を置く」という方針に従い、生産技術、購買部門の経験者からなる「サイマルエンジニアリング部」を設置して開発の仕組み改革に取り組んでいる。生産面では溶接工程から組立工程までを全体最適で評価する生産管理シミュレーションの導入、部品情報・工程情報・生産計画情報を掛け合わせたシステムによる部品準備作業の改善、部品塗装組立方式の改善などを進めるとともに、開発面では3D設計のなかにコスト査定ツールと作業標準を組み込み、関連部門がコンカレントに業務を行うことにより開発期間の大幅な短縮に成果を上げた事例を紹介頂いた。 - ③リコー/「プリンター・コンフィグレーションに対応したダイレクト生産・供給システムの構築」
本事例の特長は、販売・生産・物流などの各部門、さらにお客様先での「困りごと」を解決するという視点で改善を進めながら、市場環境に適した生産・販売システムであるダイレクトビジネスモデルを構築している点である。製品特性に応じてセル生産を初めとする生産方式の改善や部品調達上での仕組み改善を進めるなか、それまで複数の外部拠点で行っていた顧客の仕様に合わせたキッティングを工場内で行うことで多段階輸送を廃し、顧客へのダイレクト出荷を可能にしたこと、受注から請回収までに発生する情報をシームレスでつなぎ、営業情報を工場内の関連部門で共有可能にしたことのほか、木目細かい改善の積み重ねが行われていることを述べて頂いた。 - ④松下ロジスティクス、日本オーチス・エレベータ/「物流IT改革による調達・生産・現場搬入の一貫管理体制の構築」
エレベータメーカである日本オーチス・エレベータ社は、搬入先の工事工程のズレによって発生する在庫滞留を回避するため、出荷要求があってからモノを買う・モノをつくる、カンバン方式とセル生産を推進してきた。しかし、エレベータの搬入については、物流上、製品特有の制約条件があり、課題となっていた。これを解決するため、工場から搬入現場までの物流を工事工程の一部として捉え、松下ロジスティクス社と共同でIT化を含め生産・販売・物流を一貫的に管理するシステム構築を行った事例を紹介して頂いた。 - ⑤日立グローバルストレージテクノロジーズ/「海外生産拠点におけるSCMと物流改善」
主に技術革新の激しさに起因する短ライフサイクルが特長である小型HDDを、日本とは社会インフラの異なるフィリピンで生産するためのSCMおよび調達物流を中心とした改善事例である。計画業務、生産ライン、調達物流上の課題に対し原理原則に従った改善を進めるとともに、ITによる緻密な管理体制を構築している。特に、クリーンブースのセル化、ライン物流の一方向化などの改善に加え、地域の事情に合わせたミルクラン(ベンダーを巡回して部品調達を行う方式)に関する工夫などを執筆頂いた。
- ①村田製作所/「変種変量に対応するための習熟期間短縮活動」
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プリズム
- ①沢根スプリング
「少量市場への生産・販売対応…ばねの通信販売」 - ②デンソーウェーブ
「人に近づく産業ロボット多品種生産対応の課題――セル生産対応の組立ロボットの課題と現状」 - ③日立製作所
「CTO(Configre To Order)によるパソコン多品種少量生産の実現」 - ④オフィスフードラクティブ3000
「多品種少量生産への考察――食品製造・販売のマーケティング現場の視点から」
- ①沢根スプリング
本特集の各事例に共通していえることは、上流・下流および周辺での諸活動が、単独で展開されるものではなく、お互いに連携、連環関係にあって機能している点、しかもそれは1か所に留まることなく、絶えず進化する要素を持っている点にあると考えられる。その意味で、直接生産に携わっている方のみならず、幅広い読者の参考になれば幸いである。
岡 清彦/企画担当編集委員
【論壇】日本製造業の21世紀戦略
武蔵大学の松島桂樹先生に「日本製造業の21世紀戦略――顧客志向の少量多品種生産」と題し、今後、日本企業が強みとすべき日本型ビジネスモデルのあり方について考察を頂いた。「失われた10年」を経た後の日本産業の置かれた環境を踏まえた上で、統合(Integration)をキーワードに日本の生産システムの歴史と特長を述べた後、2000年と2002年に日本IE協会が主催した海外視察研究会の調査結果を基に米国製造業のSCMを中心としたビジネスモデルと日本製造業のそれとを比較して頂いている。そこから、顧客満足を礎に置き日本製造業の特長である「統合」が単に一企業内に留まるものではなく、お互いのコアコンピテンスを活かした企業間の緊密なコラボレーションに今後の日本に適合したシナリオのひとつを見出せるとの指摘をされている。
【ケース・スタディ】変種変量に対応するための習熟期間短縮活動
村田製作所が生産している電子部品は、市場(携帯電話等)の短サイクル化が進んでおり、同社の製品もまた変種変量対応が必要となっている。その方策として、生産変動に合わせて作業者数を増減させる方法を採用している。その際、作業者の技能を短期間で習熟させるため「訓練の実施」「改善の実施・訓練ツールの作成」「作業の標準化」「訓練の標準化」の4つの取り組みを体系化し、そのサイクルを回すことを特長として成果を上げていることを執筆頂いた。
【ケース・スタディ】大型建設機械の少量多品種生産への対応
コマツ真岡工場は、中・大型機種を月当たり約150台生産しているが、機種別には130機種以上であり、典型的な少量多品種生産になっている。同社は「開発に重点を置く」という方針に従い、生産技術、購買部門の経験者からなる「サイマルエンジニアリング部」を設置して開発の仕組み改革に取り組んでいる。生産面では溶接工程から組立工程までを全体最適で評価する生産管理シミュレーションの導入、部品情報・工程情報・生産計画情報を掛け合わせたシステムによる部品準備作業の改善、部品塗装組立方式の改善などを進めるとともに、開発面では3D設計のなかにコスト査定ツールと作業標準を組み込み、関連部門がコンカレントに業務を行うことにより開発期間の大幅な短縮に成果を上げた事例を紹介頂いた。
【ケース・スタディ】プリンター・コンフィグレーションに対応したダイレクト生産・供給システムの構築
本事例の特長は、販売・生産・物流などの各部門、さらにお客様先での「困りごと」を解決するという視点で改善を進めながら、市場環境に適した生産・販売システムであるダイレクトビジネスモデルを構築している点である。製品特性に応じてセル生産を初めとする生産方式の改善や部品調達上での仕組み改善を進めるなか、それまで複数の外部拠点で行っていた顧客の仕様に合わせたキッティングを工場内で行うことで多段階輸送を廃し、顧客へのダイレクト出荷を可能にしたこと、受注から請回収までに発生する情報をシームレスでつなぎ、営業情報を工場内の関連部門で共有可能にしたことのほか、木目細かい改善の積み重ねが行われていることを述べて頂いた。
【ケース・スタディ】物流IT改革による調達・生産・現場搬入の一貫管理体制の構築
エレベータメーカである日本オーチス・エレベータ社は、搬入先の工事工程のズレによって発生する在庫滞留を回避するため、出荷要求があってからモノを買う・モノをつくる、カンバン方式とセル生産を推進してきた。しかし、エレベータの搬入については、物流上、製品特有の制約条件があり、課題となっていた。これを解決するため、工場から搬入現場までの物流を工事工程の一部として捉え、松下ロジスティクス社と共同でIT化を含め生産・販売・物流を一貫的に管理するシステム構築を行った事例を紹介して頂いた。
【ケース・スタディ】海外生産拠点におけるSCMと物流改善
主に技術革新の激しさに起因する短ライフサイクルが特長である小型HDDを、日本とは社会インフラの異なるフィリピンで生産するためのSCMおよび調達物流を中心とした改善事例である。計画業務、生産ライン、調達物流上の課題に対し原理原則に従った改善を進めるとともに、ITによる緻密な管理体制を構築している。特に、クリーンブースのセル化、ライン物流の一方向化などの改善に加え、地域の事情に合わせたミルクラン(ベンダーを巡回して部品調達を行う方式)に関する工夫などを執筆頂いた。
【プリズム】少量市場への生産・販売対応/【プリズム】人に近づく産業ロボット/【プリズム】CTO(Configure To Order)によるパソコン多品種少量生産の実現/【プリズム】多品種少量生産への考察
それぞれの事業の立場から、少量多品種生産に関連したユニークな情報提供を頂いた。