モノと情報の一致に貢献するIT
2005年3月 / 239号 / 発行:2005年3月1日
目次
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巻頭言
モノづくり革新におけるIT活用
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特集テーマのねらい(特集記事)
モノと情報の一致に貢献するIT
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論壇(特集記事)
モノと情報の一致に貢献するIT
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ケース・スタディ(特集記事)
ロジスティクス・データウェアハウスの構築とその活用
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ケース・スタディ(特集記事)
少量多品種需要への即応をめざした情報制御による異機種混流モノづくりの構築
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ケース・スタディ(特集記事)
工程シミュレーションを活用した製造工程の最適化
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ケース・スタディ(特集記事)
加工食品メーカーの生産・品質管理とトレーサビリティ
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ケース・スタディ(特集記事)
画像処理によるキズ・割れなどの欠陥検査装置
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インタビュー(特集記事)
老舗めっき会社におけるITの活用
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プリズム(特集記事)
お客様の“心”と「DAMVO」
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プリズム(特集記事)
グローバル時代のSCM改革
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プリズム(特集記事)
IE教育もIT教育もMind重視
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連載講座
職場のメンタルヘルス[Ⅲ]
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会社探訪
“水と空気”を考えた夢づくりとものづくり-有光工業(株)-
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現場改善
組織的・継続的改善活動の展開による職場力の向上
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ビットバレーサロン
マルチスキル人(びと)の実践育成法
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コラム(34)
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アメリカ便り(3)
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協会ニュース
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新刊紹介
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
特集の背景
今製造業は、国内モノづくり力の復興にかける戦いと、中国を中心とする海外生産の足固め強化・拡張に大きく二分される局面で各社しのぎを削っている状況下にあり、1990年代以降急速に発展したITのモノづくり分野への影響は、一時伸び悩みの傾向を見せたとは言え、間違いなくモノづくりに対する考え方、生産システムを大きく変えつつ、着実に進歩し続けていると言えます。しかしその一方で、ITを活用したが期待したほどの効果を挙げていないという事例も多く散見されます。これには、「IT導入前にもっと物と情報の流れをきちんと整備しておくべきだ」とする考え方と、「今日のグローバル化・スピード化の時代のなかでは、ITを問題発見のツールと位置づけ、導入後に改善をしていく方が効率的である」という考え方の両論に分かれている感がします。最近、流通科学大学の田村正紀先生が、この10年間ITの活用面で欧米などの世界とかなり差をつけられた背景にある、「IT導入・活用をめぐる7つの大罪(①ソロバンの玉のないIT投資、②本部統制型の機能内垂直導入、③SEの独我型開発、④機能横断型のシステム不在、⑤基幹系とウェアハウス系の混在、⑥業務遂行力なき情報化、⑦情報化社員教育の遅れ)の是正が必要」と指摘している内容は、総括面で概ね的を得ていると思われます。先の両論でどちらが正しくまたは何が適切かということは、言い切り難いものがありますが、今日、一段とITの活用法に多様性が生まれ、そこにIEとの対応関係の複雑化が内在していることも確かである気がします。
特集の切り口
こうした問題意識に立って、本特集号では「最近のモノづくりを支える多様なIT活用法」と言う観点から、国内・海外生産を含めたモノづくりの現場、資材調達、流通ロジスティクスの分野における変革状況に焦点を当て、各分野での取り組み方の違いやITがどう活用されているか、またこのテーマに対するIEの貢献と課題とは何かについて、具体的に探って見ることにしました。IT技術を駆使して、あるいはIEとITを適切に使い分け融合させることで、いかに物の流れと情報の流れを同期または一致させ、スピーディで精度の高い運用ができるか、または、物の流れと先行したり逆行したりと複雑に関わり合っている各種モノづくり情報のなかから、必要な情報だけをいかに工夫して有効に使うかなどの差別化技術が、従来の技術では到達し得なかった新しいモノづくり革新やスピード経営の実現を可能にし、企業の生き残りを決めるひとつの重要なファクターになって行くものと考えられます。
今回執筆頂いた方々には、
(1) 設計・試作・生産管理業務などへのIT導入による、業務の改革やスピードアップ化、品質の作り込み実現例
(2) 現場改善・品質向上化のツールとしてのIT活用化や、画期的システム構築による生産改革例
(3) SCMを含む、部材調達・ロジスティクス改革でのIT化による、リードタイム短縮、在庫削減、トレーサビリティ管理実現などの例を中心に、IT導入失敗を乗り越えてうまく行った工夫点や物と情報の乖離防止策・課題改善に対する取り組みなども織り交ぜた、具体的な事例紹介をお願いしました。
記事について
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論壇
今回の論壇については、本特集のテーマと同じく「モノと情報の一致に貢献するIT」と題し、流通科学大学の辻新六先生に執筆頂きました。全体が“ITは単なる道具に過ぎないが、偉大なツールでもある”という熱き思いで満たされ、そもそもITを導入する究極の目的とは何なのか、生産部門にとって重要な3種類の情報の意味や役割をきちんと把握した上でIT導入を図ることが大前提であるとの指摘は新鮮で興味深いものです。そして、偉大なツールとしてのITをモノと情報の一致実現のためにどう使い・どう活かすかという具体論では、常に情報を必要な「時」と「場所」を付随させて取り扱われなければ、モノ自体の価値をかえって減少させる点や、モノと情報の不一致を招く、人や機械の情報操作に関する間違いと遅れなどについて、論じて頂いています。
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ケース・スタディ
- ①東洋紡績の清水義夫氏には、SCM改革によるロジスティクスコスト削減の一環として、PCサーバを主体としたロジスティクス・データウェアハウスの構築事例を紹介頂きました。日々のトランザクションデータ、在庫・入庫データなどの約2000万件に及ぶ情報から、在庫情報の的確な把握、生産と販売の連携状況の把握、物流動線と呼ばれる運送実態の把握などを、各種グラフの活用などにより可視化することで、正に手にとるような状況把握と迅速な対策化に役立て、保管費用や運送費用を削減した内容について、詳しく執筆して頂いています。
- ②オムロンの正木勝巳氏、中村行右氏、石川裕一氏には、少量多品種(1,000種以上)対応の混流1個流し生産化を実現するために、モノと情報の流れを完全に一致させて、今どの工程でどの機種が生産されているかがリアルタイムで把握できる、加工・組立設備の情報制御システムの適用事例を紹介頂きました。情報制御だけでなく機能モジュール化と工程モジュール化の設計改善や生産ラインの1個流し化・段取り時間削減対策、タクト同期化とインライン化などの改善も並行して推進することにより、リードタイムの1/10化や在庫半減などの大きな成果が得られた経緯も、詳しく執筆頂いています。
- ③三菱マテリアルの増根昭洋氏には、既存の機械加工ラインの改善に、工程シミュレーションを活用して製造工程の最適化を図った事例を、紹介頂きました。シミュレータの活用は、短時間で定量的な成果を出すことに役立つ反面、現実に即した工程モデルの作成が大事なことや活用実施手順の具体的な紹介を交えながら、実際に適用して大きな成果を上げた内容を、具体的に紹介して頂いています。
- ④キユーピーの高山勇氏には、加工食品メーカーにおける品質管理の一環として、配合事故未然防止システム、工程抜け防止管理システムおよび原料管理まで遡ったトレーサビリティシステムの具体的な構築事例を紹介頂きました。女性やパートタイマーが多い職場で、「ヒューマンエラーの回避」と「人に優しいシステム」をいかに両立させるか様々な工夫・改善をこらし、しっかりと現場に定着して大きな成果を上げている様子を、詳しく執筆して頂いています。
- ⑤GMBの清水信一氏、川口孝輔氏には、自動車部品の全数欠陥検査の自動化に成功した高速画像処理システムの開発・適用について、複数の事例を紹介頂きました。特に、目視でさえ難しいとされるセラミックスのキズや割れに対する人間の脳の画像情報処理を、ITのアルゴリズムに置き換える上で苦労された点を中心に執筆して頂いています。
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インタビュー
老舗めっき会社であるヒキフネの鈴木昌史取締役には、インタビューをお願いしました。機械化が難しく技能と経験がものを書うというめっき業界で積極的に人材育成に取り組む一方で、顧客納期回答で信頼性を改善した工程進捗管理のIT化と不具合情報の蓄積と活用のIT化で、社員一丸となった不良を出さないための品質管理への取り組みについて、詳しく紹介頂きました。
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プリズム
- ①東武酉貨店の佐藤治夫氏には、百貨店の売り場運営で重要な様々なお客様の“心の変化”を定量的に分析して、次の商品展開にいかに早く活かすかを支援できるシステム「DAMVO」の開発経緯を紹介して頂きました。
- ②日立製作所の光圀光七郎氏には、グローバル時代のSCM改革のための在庫削減策として、需要と供給の問題からくる在庫発生の二大要因に対応できる、カップリングポイント在庫計画論について紹介して頂きました。
- ③金沢工業大学の三原一郎先生には、「IE教育もIT教育もMind重視」というテーマで、最近の学生教育上の課題を通して、個性あるMindを育むことにIEやITツールをどう活かすべきかについて執筆して頂きました。
関根 次雄/企画担当編集委員
【論壇】モノと情報の一致に貢献するIT
今回の論壇については、本特集のテーマと同じく「モノと情報の一致に貢献するIT」と題し、流通科学大学の辻新六先生に執筆頂きました。全体が“ITは単なる道具に過ぎないが、偉大なツールでもある”という熱き思いで満たされ、そもそもITを導入する究極の目的とは何なのか、生産部門にとって重要な3種類の情報の意味や役割をきちんと把握した上でIT導入を図ることが大前提であるとの指摘は新鮮で興味深いものです。そして、偉大なツールとしてのITをモノと情報の一致実現のためにどう使い・どう活かすかという具体論では、常に情報を必要な「時」と「場所」を付随させて取り扱われなければ、モノ自体の価値をかえって減少させる点や、モノと情報の不一致を招く、人や機械の情報操作に関する間違いと遅れなどについて、論じて頂いています。
【ケース・スタディ】ロジスティクス・データウェアハウスの構築とその活用
東洋紡績の清水義夫氏には、SCM改革によるロジスティクスコスト削減の一環として、PCサーバを主体としたロジスティクス・データウェアハウスの構築事例を紹介頂きました。日々のトランザクションデータ、在庫・入庫データなどの約2000万件に及ぶ情報から、在庫情報の的確な把握、生産と販売の連携状況の把握、物流動線と呼ばれる運送実態の把握などを、各種グラフの活用などにより可視化することで、正に手にとるような状況把握と迅速な対策化に役立て、保管費用や運送費用を削減した内容について、詳しく執筆して頂いています。
【ケース・スタディ】少量多品種需要への即応をめざした情報制御による異機種混流モノづくりの構築
オムロンの正木勝巳氏、中村行右氏、石川裕一氏には、少量多品種(1,000種以上)対応の混流1個流し生産化を実現するために、モノと情報の流れを完全に一致させて、今どの工程でどの機種が生産されているかがリアルタイムで把握できる、加工・組立設備の情報制御システムの適用事例を紹介頂きました。情報制御だけでなく機能モジュール化と工程モジュール化の設計改善や生産ラインの1個流し化・段取り時間削減対策、タクト同期化とインライン化などの改善も並行して推進することにより、リードタイムの1/10化や在庫半減などの大きな成果が得られた経緯も、詳しく執筆頂いています。
【ケース・スタディ】工程シミュレーションを活用した製造工程の最適化
三菱マテリアルの増根昭洋氏には、既存の機械加工ラインの改善に、工程シミュレーションを活用して製造工程の最適化を図った事例を、紹介頂きました。シミュレータの活用は、短時間で定量的な成果を出すことに役立つ反面、現実に即した工程モデルの作成が大事なことや活用実施手順の具体的な紹介を交えながら、実際に適用して大きな成果を上げた内容を、具体的に紹介して頂いています。
【ケース・スタディ】加工食品メーカーの生産・品質管理とトレーサビリティ
キユーピーの高山勇氏には、加工食品メーカーにおける品質管理の一環として、配合事故未然防止システム、工程抜け防止管理システムおよび原料管理まで遡ったトレーサビリティシステムの具体的な構築事例を紹介頂きました。女性やパートタイマーが多い職場で、「ヒューマンエラーの回避」と「人に優しいシステム」をいかに両立させるか様々な工夫・改善をこらし、しっかりと現場に定着して大きな成果を上げている様子を、詳しく執筆して頂いています。
【ケース・スタディ】画像処理によるキズ・割れなどの欠陥検査装置
GMBの清水信一氏、川口孝輔氏には、自動車部品の全数欠陥検査の自動化に成功した高速画像処理システムの開発・適用について、複数の事例を紹介頂きました。特に、目視でさえ難しいとされるセラミックスのキズや割れに対する人間の脳の画像情報処理を、ITのアルゴリズムに置き換える上で苦労された点を中心に執筆して頂いています。
【インタビュー】老舗めっき会社におけるITの活用
老舗めっき会社であるヒキフネの鈴木昌史取締役には、インタビューをお願いしました。機械化が難しく技能と経験がものを書うというめっき業界で積極的に人材育成に取り組む一方で、顧客納期回答で信頼性を改善した工程進捗管理のIT化と不具合情報の蓄積と活用のIT化で、社員一丸となった不良を出さないための品質管理への取り組みについて、詳しく紹介頂きました。
【プリズム】お客様の『心』と『DAMVO』
東武酉貨店の佐藤治夫氏には、百貨店の売り場運営で重要な様々なお客様の“心の変化”を定量的に分析して、次の商品展開にいかに早く活かすかを支援できるシステム「DAMVO」の開発経緯を紹介して頂きました。
【プリズム】グローバル時代のSCM改革
日立製作所の光圀光七郎氏には、グローバル時代のSCM改革のための在庫削減策として、需要と供給の問題からくる在庫発生の二大要因に対応できる、カップリングポイント在庫計画論について紹介して頂きました。
【プリズム】IE教育もIT教育もMind重視
金沢工業大学の三原一郎先生には、「IE教育もIT教育もMind重視」というテーマで、最近の学生教育上の課題を通して、個性あるMindを育むことにIEやITツールをどう活かすべきかについて執筆して頂きました。