国内生産の強化
2007年5月 / 250号 / 発行:2007年5月1日
目次
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巻頭言
「モノづくり日本の強み」を企業戦略へ
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特集テーマのねらい(特集記事)
国内生産の強化
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論壇(特集記事)
国内生産を支えるモノづくりの考え方
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ケース・スタディ(特集記事)
半導体における国内生産の強化
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ケース・スタディ(特集記事)
1/3以下にこだわったシンプル・スリム設備づくりへの挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
効率を求めたものづくりへの工数生産性向上活動
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ケース・スタディ(特集記事)
受注生産品におけるモノづくり改革
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ケース・スタディ(特集記事)
生産革新活動を支える「見える化」の提案とキーパーツ内製化・自動化の推進
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レポート(特集記事)
国内生産の強化に向けた立地動向
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テクニカル・ノート(特集記事)
農業の工学化について
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プリズム(特集記事)
わが国自動車産業の市場動向展望
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プリズム(特集記事)
国内工場回帰を見る眼
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連載講座
外部社員の上手な活用方法[Ⅱ]
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会社探訪
PC製造のビジネス・モデルを牽引-日本通運(株)-
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現場改善
創造力を育む自作の改善
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ビットバレーサロン
青木流「モノづくり・人づくり」への挑戦
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コラム(45)
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中国語でコミュニケーション(8)
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協会ニュース
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新刊紹介
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編集後記
特集の背景
マスコミでは「国内回帰」という言葉が好んで使われ、「新工場建設」といった景気の良い文字が新聞をにぎわしています。しかし、現実には海外拠点を減らして日本の工場を増やしているという例は少なくその意味では「国内回帰」という言葉は、現在の製造業の状態を的確に表しているとは言えないのではないかと感じています。個々の事例を見てみると、日本の景気回復基調に乗った国内事業の再評価によるものが主流であって、国内生産と海外生産の役割分担から最適な国際分業体制を構築するという観点から、国内生産の強化に対する投資が行われているのではないでしょうか。そこでこの特集では、グローバルな競争を視野に入れた生産戦略のなかで、国内の生産システムの何が問題で、それを解決するためにどのような取り組みが行われているのかをまとめました。
特集の切り口
減少が続いていた国内設備投資が2003年度から増加に転じ、特に2004年度は大きく増加していることが報告されています[1]。また、その投資動機として、以下のような特徴が指摘されています[2]。
- ①薄型ディスプレイや自動車から川上の部材、製造装置への波及の拡がり
- ②化学などの原燃料多様化や省エネ型設備導入などによる資源価格高騰への対応
- ③環境問題や安心・安全への配慮を重視する姿勢(CSR関連投資)
- ④鉄鋼の高炉改修や自動車の混流生産対応など、既存設備の機能高度化を図る動き
記事について
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論壇
今回は、シチズン平和時計の海野氏に「国内生産を支えるモノづくりの考え方」という論題でまとめていただきました。シチズン平和時計では、腕時計事業を中心としたモノづくりを、あくまで「国内で」つくることにこだわり続ける企業です。そのこだわりを実現するために必要なことは「省エネ・省スペース・ローコストのモノづくり」と「多能工化によるモノづくり」というきわめてベーシックなものであり、広い視野で冷静に現場を見ることにより、国内でのモノづくりをさらに掘り下げ進化させ、自らやるべきことを人に任せずにやり続けていくことが必要であると、厳しいご指摘をされています。
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ケース・スタディ
ケース・スタディでは5件の事例を紹介しています。各社に共通することは、IEの基本である「品質は前提条件、コストと納期でいかに勝負するか」というものです。そのため「自動化」が現在の選択肢のひとつのようです。また、いかに現場の意識を高めていくかも重要な課題のようです。やはり、現場を変えるのは人であるということでしょうか。
- ①東芝の事例では、昨今大型投資が盛んに行われている半導体関連の話題として、四日市工場の取り組みを取り上げました。半導体は、高額な製造装置を導入してラインを構築する装置産業であります。そこで、いかに早く立ち上げ競争力を維持するかが大きな課題です。そのために、従来の生産ラインで得た知恵を精査し、人に依存した部分をなるべく自動化することによって、コスト削減とともに、装置の高稼働を維持することをねらった事例となっています。
- ②アイシン精機の事例では、国際価格で勝つための大幅な低コスト化を実現する「1/3以下にこだわったシンプル・スリム設備づくりへの挑戦」をご紹介いただきました。単なる改善ではなく、1/3といった思い切った数値目標をおくことによって、従来にない発想で改革を導いていくというものです。
- ③安川電機の事例では、国内生産維持のために掲げられた「工数生産性倍増」という目標に対して、現場が悪戦苦闘する様子が生々しく語られています。「1人の力は小さいが1人の力しか大きな成果は生まれない」という言葉が示すとおり、モノづくりにおける人の重要性を改めて考えさせられました。
- ④日立プラントテクノロジーの事例は、「見える化によるリードタイム短縮」の取り組みです。大型の産業機械といった分野では、競争のポイントが短納期となっています。しかし、受注生産で変種変量を余儀なくされる工場においては、特定の製品に関する部分的な改善のみにとどまりやすいという問題があります。そのため、ITを活用した工作機械の稼動状況把握システムを導入することによって、全体最適を実現しています。
- ⑤三菱電機の事例では生産財を提供する立場から「生産革新活動を支える見える化の推進」と国内生産強化にむけた「キーパーツ内製化と自動化の推進」をご紹介いただきました。特に後者の自動化については、「少子高齢化社会」や「高い労務費・地価・エネルギーコスト」が特徴である日本国内で、多品種変量生産を実現するためには必要不可欠であると主張されています。
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レポート
日本立地センターの德増氏に、最近の工業立地動向について、その特徴を解説していただきました。工場の立地件数は2006年にバブル外以後の立地件数を越えています。それを牽引するのは、米国やBRICs市場の景気拡大から自動車を中心とする分野とデジタル家電関連です。それらの地域別の特徴や立地要因の変化などがまとめられています。特に今後、高付加価値型、人材立地型、スピード対応型など、多面的な要素を含んだ立地動向が主流となっていくことがまとめられています。 -
テクニカル・ノート
製造業以上にグローバル化が進む日本の農業において、低コスト競争や高齢化・後継者不足といった課題を解決するために、IE的視点から農業の工業化をめざした取り組みをフラワーヒルズの堀内氏に紹介していただきました。従来、農業者が経営を科学的に実施するという発想がないところに、標準時間・作業分析・要因管理・経済計算といった、いわゆるIEの手法を活用することによって大きな成果をあげ、今後より採算性の高い経営に切り替わっていく可能性を示唆しています。 -
プリズム
特集テーマに関連する情報として、2件のプリズムを執筆いただきました。- ①日本総合研究所の枩村氏には、現在、設備投資意欲がかなり高いと指摘されている自動車産業の市場動向について、まとめていただきました。ポイントは、「市場規模は拡大を続ける」「外需への依存度が高まる」「国内・海外市場ともに車種構成が変化する」というものです。そのため、今後ますますグローバルな生産・調達体制の再構築が求められていると結ばれています。
- ②東京大学の新宅純二郎氏には、「国内工場回帰を見る眼」というテーマで、日本国内にあることに意義が高い工場は4つのパターンがあることを紹介していただきました。
まとめ
モノづくりのグローバル化は、今後ますます進展していくと感じられます。そのなかにあって、単に国内に工場がなくなるのは困るといった感情的な話ではなく、広い視野で分析した上で、国内生産の何を残して、どのようにして競争力を維持していくべきかを議論すべき時期にきているのではないでしょうか。大変難しい問題ではありますが、今回の特集で紹介させていただいた前向きな企業事例を参考に、まだまだ国内でやるべきことがあるのだと感じていただければ幸いです。
[1]「『国内回帰』とは何か?――企業アンケート調査にみる我が国製造業の最近の動向――」
http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2005/1114/676.html
[2]「2006年度の設備投資計画の特徴」
http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/plant_invest/200608_plant.pdf
斎藤 文/企画担当編集委員
【論壇】国内生産を支えるモノづくりの考え方
今回は、シチズン平和時計の海野氏に「国内生産を支えるモノづくりの考え方」という論題でまとめていただきました。シチズン平和時計では、腕時計事業を中心としたモノづくりを、あくまで「国内で」つくることにこだわり続ける企業です。そのこだわりを実現するために必要なことは「省エネ・省スペース・ローコストのモノづくり」と「多能工化によるモノづくり」というきわめてベーシックなものであり、広い視野で冷静に現場を見ることにより、国内でのモノづくりをさらに掘り下げ進化させ、自らやるべきことを人に任せずにやり続けていくことが必要であると、厳しいご指摘をされています。
【ケース・スタディ】半導体における国内生産の強化
東芝の事例では、昨今大型投資が盛んに行われている半導体関連の話題として、四日市工場の取り組みを取り上げました。半導体は、高額な製造装置を導入してラインを構築する装置産業であります。そこで、いかに早く立ち上げ競争力を維持するかが大きな課題です。そのために、従来の生産ラインで得た知恵を精査し、人に依存した部分をなるべく自動化することによって、コスト削減とともに、装置の高稼働を維持することをねらった事例となっています。
【ケース・スタディ】1/3以下にこだわったシンプル・スリム設備づくりへの挑戦
アイシン精機の事例では、国際価格で勝つための大幅な低コスト化を実現する「1/3以下にこだわったシンプル・スリム設備づくりへの挑戦」をご紹介いただきました。単なる改善ではなく、1/3といった思い切った数値目標をおくことによって、従来にない発想で改革を導いていくというものです。
【ケース・スタディ】効率を求めたものづくりへの工数生産性向上活動
安川電機の事例では、国内生産維持のために掲げられた「工数生産性倍増」という目標に対して、現場が悪戦苦闘する様子が生々しく語られています。「1人の力は小さいが1人の力しか大きな成果は生まれない」という言葉が示すとおり、モノづくりにおける人の重要性を改めて考えさせられました。
【ケース・スタディ】受注生産品におけるモノづくり改革
日立プラントテクノロジーの事例は、「見える化によるリードタイム短縮」の取り組みです。大型の産業機械といった分野では、競争のポイントが短納期となっています。しかし、受注生産で変種変量を余儀なくされる工場においては、特定の製品に関する部分的な改善のみにとどまりやすいという問題があります。そのため、ITを活用した工作機械の稼動状況把握システムを導入することによって、全体最適を実現しています。
【ケース・スタディ】生産革新活動を支える「見える化」の提案とキーパーツ内製化・自動化の推進
三菱電機の事例では生産財を提供する立場から「生産革新活動を支える見える化の推進」と国内生産強化にむけた「キーパーツ内製化と自動化の推進」をご紹介いただきました。特に後者の自動化については、「少子高齢化社会」や「高い労務費・地価・エネルギーコスト」が特徴である日本国内で、多品種変量生産を実現するためには必要不可欠であると主張されています。
【レポート】国内生産の強化に向けた立地動向
日本立地センターの德増氏に、最近の工業立地動向について、その特徴を解説していただきました。工場の立地件数は2006年にバブル外以後の立地件数を越えています。それを牽引するのは、米国やBRICs市場の景気拡大から自動車を中心とする分野とデジタル家電関連です。それらの地域別の特徴や立地要因の変化などがまとめられています。特に今後、高付加価値型、人材立地型、スピード対応型など、多面的な要素を含んだ立地動向が主流となっていくことがまとめられています。
【テクニカル・ノート】農業の工学化について
製造業以上にグローバル化が進む日本の農業において、低コスト競争や高齢化・後継者不足といった課題を解決するために、IE的視点から農業の工業化をめざした取り組みをフラワーヒルズの堀内氏に紹介していただきました。従来、農業者が経営を科学的に実施するという発想がないところに、標準時間・作業分析・要因管理・経済計算といった、いわゆるIEの手法を活用することによって大きな成果をあげ、今後より採算性の高い経営に切り替わっていく可能性を示唆しています。
【プリズム】わが国自動車産業の市場動向展望
日本総合研究所の枩村氏には、現在、設備投資意欲がかなり高いと指摘されている自動車産業の市場動向について、まとめていただきました。ポイントは、「市場規模は拡大を続ける」「外需への依存度が高まる」「国内・海外市場ともに車種構成が変化する」というものです。そのため、今後ますますグローバルな生産・調達体制の再構築が求められていると結ばれています。
【プリズム】国内工場回帰を見る眼
東京大学の新宅純二郎氏には、「国内工場回帰を見る眼」というテーマで、日本国内にあることに意義が高い工場は4つのパターンがあることを紹介していただきました。