コストアップに対応する生産革新
2009年3月 / 259号 / 発行:2009年3月1日
目次
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巻頭言
コストアップに打ち勝つ生産革新
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特集テーマのねらい(特集記事)
コストアップに対応する生産革新
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論壇(特集記事)
生産革新が組織活性化につながる条件を考える
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ケース・スタディ(特集記事)
九州事業所における生産革新の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
視える生産をめざして事業部を変える
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ケース・スタディ(特集記事)
コストアップに打ち勝つ生産革新
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ケース・スタディ(特集記事)
コストアップに対応するモノづくりと生産革新
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ケース・スタディ(特集記事)
見える化を機軸とした継続的改善活動
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プリズム(特集記事)
サブプライムローンを切ってみます
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会社探訪
全員参加による総合改善活動-オムロン京都太陽(株)・京都太陽の家-
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現場改善
元気のある工場の5つのマインド
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現場改善
わが社のものつくり
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ビットバレーサロン
現場でできる物流改善(下)
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レポート
2008年度全国IE年次大会
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レポート
インド・モノづくり事情
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コラム(54)
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協会ニュース
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新刊紹介
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
背景
現在、業種を問わず経済環境の変化への対応と今後の危機感が強まっている。昨年(2008年)当初は、石油製品、金属材料、食料品などの原材料費高騰や、原油、電気、ガスなどのエネルギー価格の上昇が頻繁にニュース・新聞で報道され、製造業では原価アップの大きな要因となっていた。また、製造原価の上昇により、収益に影響を生じている企業が少なくなかった。そして、昨年半ば、経済状況が大きなうねりに巻き込まれた。サブプライム問題に端を発した世界的経済不況により、景気復活の見込みがまったく見えない状況に陥った。トヨタ自動車の業績大幅修正のニュースは、国内企業の危機の深刻さを裏づけている。それにも増してショッキングだったのが、強いアメリカの象徴であったビック3の経営危機問題である。この地球規模の不況をどう打破するのかという命題は、単に個々の企業問題に止まらず、国際的な最重要政治課題に持ち上がっている。このような急激な環境変化のなかに置かれて、継続してIE活動により生産性を向上させてきた企業の各現場の担当者は、先が見えない現状への対応に頭を抱えているのではないだろうか? しかし、過去を振り返ってみると、日本の製造業は幾度となく直面した危機に対して技術力、組織力を発揮し、乗り越えてきている。そして、その経験により、競争力を一層強化していった。各企業で積み上げてきたモノづくり力を発揮することにより、生産性を向上させ、新たな付加価値をつける取り組みを進めている。また、このような状況の時こそ、強靭な基礎体力を作り上げる機会と捉え、着実な現場改善をより一層強化し、コストアップに対応している企業もある。
特集のねらい
本号では「コストアップに対応する生産革新」と題し、コストアップ要因に立ち向かい、様々な切り口から対応策を練り上げ実行している、もしくは、すでにその成果をあげている企業の事例を特集する。材料費や燃料費の高騰などによるコストアップ要因に対して、各企業で対応策を実現し、成果をあげた事例について特集する。今まで地道に活動を続けてきた原価低減活動の成果が実を結び、さらなる活動の活性化を続けている企業の事例、自社のモノづくりの優位性を高める取り組みにより、付加価値向上を実現した企業の事例、設備改善などで省エネ化とエネルギー費用を大幅に削減した事例などを紹介する。
記事について
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論壇
関西生産性本部の西村氏より、「生産革新が組織活性化につながる条件を考える」という題で論じていただいた。100年に一度という企業経営環境の激動期のなか、日本企業は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われたモノづくりの基本、その精神の伝承が今、忘れられてはいないか? 日本のモノづくりスピリットの誇りを忘れてはいないだろうか? このような気づきから、今一度、生産革新・改善活動の基本に立ち戻る必要性をまとめていただいた。生産革新が頓挫するとき、経営者・経営幹部、改善リーダー、一般従業員それぞれの立場において、どのような要因で崩れていくのか? また、活性化している現場には、活動創生期、発展期、成熟期のそれぞれのフェーズで、どのような特徴があるのかを具体的な例で記されている。今のような時期にこそ、生産改革活動が重要であり、将来の勝ち負けを分かつことになる。技法に頼る改善のプロより、「すぐやる」「徹底してやる」「仲間を育てる」ことが大切であることを、今一度確認して欲しいとの強い訴えを、書いていただいた。 -
ケース・スタディ
- ①味の素の渡辺氏に書いていただいたのは、アミノ酸発酵の技術により生産活動する国内唯一の工場の生き残りをかけた生産革新事例である。’90年代の急激な円高により国内工場は競争力を失い、工場閉鎖の危機を迎え、自ら課した高い目標に向かって一丸となって取り組んだ事例を紹介していただいた。工場を閉鎖し、海外工場に生産を移す検討をされた事業所を、生産革新でコスト削減を実現し、存続させるに至るまでの改革の事例がダイナミックに書かれている。また、その経験をさらに現在の改革に移し、推進していく内容が後半にまとめられている。具体的な事例としては、エネルギーコストを抑えるためのエネルギー使用量の低減の取り組みが紹介されている。
- ②村田機械の大森氏からは、工作機械部門の改革についてまとめていただいた。受注仕様による特殊性が強い製品のため、標準化が難しく、流れが作れなかった従来の生産方法を変革していったストーリーが紹介されている。今までの「力任せ生産」の限界を悟り、工機生産革新プロジェクトをキックオフさせ、製造部門から、最終的には設計/技術部門、工場出荷まで全フェーズに展開していった経過が書かれている。赤札作戦の5S活動から始まり、1台流れを作り、状況を「視える化」していく。そして、部品の追従/供給について現場だけでなく、ラインに指示を出すスタッフ部門も含め改革してきた内容がまとめられている。現場の基礎的な土台作りから着実に積み重ねられた改善ストーリーが、力強く書かれている。
- ③TOTOの岸本氏・藤田氏からは、自社の取り組みを焼成工程の不良発生防止と生産革新活動の事例という2つの切り口からまとめていただいた。紹介されている事業所は、TPM活動で数々の受賞を重ねた実績もあり、力強い論稿をいただいた。PM分析に基づき対策を実施し、成果をあげた焼成工程の不良削減の事例を具体的に書いていただいた。また、生産革新活動については、人を活かすこと、スピード(機動力)という2つのキーワードで活動を推進し、重点施策としてセル生産、見える化、セルフマネジメント、(設備の)自前作りと、施策別に分かりやすくまとめていただいた活動の推進が、大変参考になる。全従業員1,200人の考える脳をフル活用しようという意図での取り組みが、印象に残る。
- ④パナソニックの白土氏には、モバイルPCの人気機種「Let's note」シリーズの事業およびモノづくりの差別化について、まとめていただいた。コストアップに対する生産革新として重要なことは、差別化の創出であるという考えから、製品性能についての差別化およびモノづくりの差別化の両面から書いていただいた。前半は商品そのものの差別化と事業について解説していただき、後半は「Let's note」のモノづくり戦略について書いていただいた。パソコン業界の従来のモノづくりの主流である「デルモデル」とは違った、「垂直統合の部分」「すり合わせ」のモノづくりを創出し、「デルモデル」では困難な部分で差別化を図るという戦略に基づき独自な生産モデルを追及し、実現していった事例が書かれている。
- ⑤住友金属工業の塩野谷氏・栢谷氏には、継続的な改善活動において「見える化」をクローズアップさせて取り組んだ事例を紹介していただいた。「見える化」というコンセプトを活用し、改善活動を活性化させていった事例が書かれている。記事中には様々なテーマの「見える化」展開事例が書かれている。作業分析・標準作業設定、在庫管理、生産計画の「見える化」、さらには、プロジェクト活動の「見える化」についても、どのように展開したのかまとめていただいた。
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プリズム
政策研究大学院大学の橋本久義先生には、「サブプライムローンを切ってみます」という題で、現在の金融危機についての解説と今後の展望、そして、日本という国の幾度となく不況をくぐり抜けてきた逞しさを書いていただいた。
おわりに
今日のような急降下する景気のなかでは、はたして正攻法なIEや地道な改善は通用するのか。こんな疑問を抱く人も少なくないと思う。しかし、今回の特集で紹介していただいた事例からは、このような苦難にも真正面から真摯に取り組む姿が非常に力強く映り、この未曾有の経済危機に、しっかりと足場を固めて立ち向かっていく勇気がひしひしと感じられる。日本の製造業はやはり足腰が強い、そして、この不況に鍛えた体はもっと強くなる。企画担当として、本号で、読者の方々に少しでも自信と勇気を取り戻していただければ幸いです。
加山 一郎/企画担当編集委員
【論壇】生産革新が組織活性化につながる条件を考える
関西生産性本部の西村氏より、「生産革新が組織活性化につながる条件を考える」という題で論じていただいた。100年に一度という企業経営環境の激動期のなか、日本企業は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われたモノづくりの基本、その精神の伝承が今、忘れられてはいないか? 日本のモノづくりスピリットの誇りを忘れてはいないだろうか? このような気づきから、今一度、生産革新・改善活動の基本に立ち戻る必要性をまとめていただいた。生産革新が頓挫するとき、経営者・経営幹部、改善リーダー、一般従業員それぞれの立場において、どのような要因で崩れていくのか? また、活性化している現場には、活動創生期、発展期、成熟期のそれぞれのフェーズで、どのような特徴があるのかを具体的な例で記されている。今のような時期にこそ、生産改革活動が重要であり、将来の勝ち負けを分かつことになる。技法に頼る改善のプロより、「すぐやる」「徹底してやる」「仲間を育てる」ことが大切であることを、今一度確認して欲しいとの強い訴えを、書いていただいた。
【ケース・スタディ】九州事業所における生産革新の取り組み
味の素の渡辺氏に書いていただいたのは、アミノ酸発酵の技術により生産活動する国内唯一の工場の生き残りをかけた生産革新事例である。’90年代の急激な円高により国内工場は競争力を失い、工場閉鎖の危機を迎え、自ら課した高い目標に向かって一丸となって取り組んだ事例を紹介していただいた。工場を閉鎖し、海外工場に生産を移す検討をされた事業所を、生産革新でコスト削減を実現し、存続させるに至るまでの改革の事例がダイナミックに書かれている。また、その経験をさらに現在の改革に移し、推進していく内容が後半にまとめられている。具体的な事例としては、エネルギーコストを抑えるためのエネルギー使用量の低減の取り組みが紹介されている。
【ケース・スタディ】視える生産をめざして事業部を変える
村田機械の大森氏からは、工作機械部門の改革についてまとめていただいた。受注仕様による特殊性が強い製品のため、標準化が難しく、流れが作れなかった従来の生産方法を変革していったストーリーが紹介されている。今までの「力任せ生産」の限界を悟り、工機生産革新プロジェクトをキックオフさせ、製造部門から、最終的には設計/技術部門、工場出荷まで全フェーズに展開していった経過が書かれている。赤札作戦の5S活動から始まり、1台流れを作り、状況を「視える化」していく。そして、部品の追従/供給について現場だけでなく、ラインに指示を出すスタッフ部門も含め改革してきた内容がまとめられている。現場の基礎的な土台作りから着実に積み重ねられた改善ストーリーが、力強く書かれている。
【ケース・スタディ】コストアップに打ち勝つ生産革新
TOTOの岸本氏・藤田氏からは、自社の取り組みを焼成工程の不良発生防止と生産革新活動の事例という2つの切り口からまとめていただいた。紹介されている事業所は、TPM活動で数々の受賞を重ねた実績もあり、力強い論稿をいただいた。PM分析に基づき対策を実施し、成果をあげた焼成工程の不良削減の事例を具体的に書いていただいた。また、生産革新活動については、人を活かすこと、スピード(機動力)という2つのキーワードで活動を推進し、重点施策としてセル生産、見える化、セルフマネジメント、(設備の)自前作りと、施策別に分かりやすくまとめていただいた活動の推進が、大変参考になる。全従業員1,200人の考える脳をフル活用しようという意図での取り組みが、印象に残る。
【ケース・スタディ】コストアップに対応するモノづくりと生産革新
パナソニックの白土氏には、モバイルPCの人気機種「Let’s note」シリーズの事業およびモノづくりの差別化について、まとめていただいた。コストアップに対する生産革新として重要なことは、差別化の創出であるという考えから、製品性能についての差別化およびモノづくりの差別化の両面から書いていただいた。前半は商品そのものの差別化と事業について解説していただき、後半は「Let’s note」のモノづくり戦略について書いていただいた。パソコン業界の従来のモノづくりの主流である「デルモデル」とは違った、「垂直統合の部分」「すり合わせ」のモノづくりを創出し、「デルモデル」では困難な部分で差別化を図るという戦略に基づき独自な生産モデルを追及し、実現していった事例が書かれている。
【ケース・スタディ】見える化を機軸とした継続的改善活動
住友金属工業の塩野谷氏・栢谷氏には、継続的な改善活動において「見える化」をクローズアップさせて取り組んだ事例を紹介していただいた。「見える化」というコンセプトを活用し、改善活動を活性化させていった事例が書かれている。記事中には様々なテーマの「見える化」展開事例が書かれている。作業分析・標準作業設定、在庫管理、生産計画の「見える化」、さらには、プロジェクト活動の「見える化」についても、どのように展開したのかまとめていただいた。
【プリズム】サブプライムローンを切ってみます
政策研究大学院大学の橋本久義先生には、「サブプライムローンを切ってみます」という題で、現在の金融危機についての解説と今後の展望、そして、日本という国の幾度となく不況をくぐり抜けてきた逞しさを書いていただいた。