守る標準から改善に活かす標準へ
2009年10月 / 262号 / 発行:2009年10月1日
目次
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巻頭言
ものづくりへの展望
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特集テーマのねらい(特集記事)
守る標準から改善に活かす標準へ
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論壇(特集記事)
標準化について考える
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ケース・スタディ(特集記事)
活力を生む現場改善の仕掛けと仕組み
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ケース・スタディ(特集記事)
全員で良いものを造る活動の展開
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ケース・スタディ(特集記事)
金型・成形工場におけるデジタルエンジニアリングと標準化事例
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ケース・スタディ(特集記事)
Kenkijinスピリットを伝える作業標準化への取り組み
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プリズム(特集記事)
旅館サービスの標準化
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プリズム(特集記事)
OJTで新人を育てる教育システム
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プリズム(特集記事)
標準化とその人材育成
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連載講座
生産システムの革命[Ⅱ]
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現場改善
継続した「改善/改革」活動を実現するための仕掛け作り
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コラム(57)
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協会ニュース
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新刊紹介
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編集後記
はじめに
標準化の始まりは、テイラーによる科学的管理法である。20世紀初頭までのアメリカの経営や労使関係は、いくつかの問題を抱えていた。経験や習慣に基づいたその場しのぎの「成り行き経営」が一般的であり、一貫した管理がなされておらず、労働者にそのしわ寄せが回ることがあった。また、生産現場では、内部請負制が、非効率的な生産や組織的怠業の蔓延といった問題を引き起こしていた。テイラーは、管理について客観的な基準を作ることで、こうした状況を打破して労使協調体制を構築し、その結果として生産性の向上や、労働者の賃金の上昇に繋がって、労使が共存共栄できると考えた。テイラーは、生産工程における作業を要素動作に分解し、その各動作にかかる時間をストップウォッチを用いて計測して標準的作業時間を算出し、「時間研究」を考案した。“A Fair Day's Pay for a Fair Day's Work(公正な1日の仕事量)”という言葉に代表されるように、労働者の仕事量に対し公正な基準を作ることにより、労働意欲を高めることを考えた。後にテイラーと親交のあったギルブレス夫妻は、個々の動作を観察・分析し、作業目的に照らして無駄な動作を排除して最適な動作を追求する「動作研究」を確立した。また、動作研究を重視し、最適化された動作に基づいて時間研究を行うべきであると主張した。一方、現在ではビジネスのグローバル化が進み、「グローバル標準」という言葉に代表されるように、国際的な範囲で標準化が進んでいる。またISOなどにより、企業では様々な標準化の資料が求められるようになった。しかし、これらの標準化は、莫大な時間を費やすわりには、形式だけを整える風潮になりつつある。さらに、現在の不況や請負法の改正などにともない、労使の関係についても様々な検討が必要と思われる。このような状況を踏まえ、本特集のねらいは、形式的になったり、管理強化につながる標準化活動に警鐘を鳴らし、本来の目的に合った改善につながる標準化や新しい標準化の活動について紹介することである。
特集記事の内容
本特集では、標準化についてそのねらいや特色と具体例を紹介していただくために以下の点に留意し、①標準化の定義、②標準化のための測定方法や工夫、③標準化の活用事例について、記事をまとめていただいている。
- (1) 標準化により、現場や作業者に労働意欲の向上は生じているのだろうか? 標準化は、作業者の労働意欲向上のために使われているのだろうか?
- (2) 標準化は最適化された動作について、適正に行われているのだろうか? 改善の視点が含まれ、用いられているのだろうか?
- (3) 莫大な時間のかかる標準化であるが、簡便な測定方法は存在するのだろうか?
特集記事
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論壇
東京大学の飯塚悦功氏には、標準化の本質的な意味について解説をしていただき、標準や標準化が目的達成のための重要な概念であり方法論であることを論じていただいている。具体的には、標準化の目的は「統一・単純化」にあり、それらは業務実施計画の達成、知識の再利用による省思考、技術基盤の構築、さらには、改善や独創性の基盤に繋がることを身近な例も含め解説していただいている。さらに、標準化を阻害する因子とその対応法や、国際的な標準化についての基本スタンスについても解説していただいている。本論壇で、標準や標準化についての深い意味や、様々な有意義な視点や切り口を示していただいている。 -
ケース・スタディ
- ①ブリヂストンの外舘晃氏、内田健裕氏には、現場力を向上させるために、標準化をベースとしたスルラク生産活動を紹介していただいている。標準を作る権限を現場に与えることで、現場自ら思考・行動する精神を醸成し、真に全員力で現場を改善する活動が行われている。標準を明らかにすることで、標準に照らして現状の問題を認識し、それを改善して新たな標準にしていく「標準化型改善」、あるべき姿を描いて、それと今の標準との差を改善する「目標型改善」を行っている。さらに、活動の推進体制として、プロジェクトチームの編成、動画を用いた作業標準とそれらを作り、守り、改善する活動、またそれらを支える情報システムや業務フローの標準化についても紹介していただいている。
- ②セキソーの大海幹男氏には、世界同一品質を実現するために、もの造りの「技術」まで深く踏み込んだ標準化について紹介をしていただいた。ワークに直接接触して作用するすべてのものを「ワークヘッド」、良い物しか造らないあるべき条件のことを「良品条件」として注目している。そして、ワークの姿勢から始まり、位置決めと、ことのワークヘッドにこだわり、良品条件を見極め、ワークヘッドと良品条件のメインテナンスまでを一貫して行い工程設計している。そして、これらの物づくりを確実に行うための人材育成や教育法、さらに世界同一水準をめざした工法まで含めたマスター化やコード化についても紹介していただいた。
- ③出形カシオの佐竹喜悦氏には、標準化が実務をベースとしてデジタル化することで格段に容易になること、生産工程を根本から見直す効果があることを紹介していただいた。具体的には、図面をすべて廃止し、3次元情報(3D・CAD/CAM、3D画像など)を用いる、いわゆるデジタルエンジニアリング技術により、金型生産の自動化システムと成型工場の自動化を実現している。3次元データを開発の上流から下流まで一貫して徹底的に用いることで、加工や成型といった製造工程のみならず、スケジュール、工具管理、発注、納期管理、搬送、品質、ポカヨケ、作業指示まで自動で行われている。
- ④日立建機の先崎正文氏、産業能率大学の斎藤文氏には、「人を活かし、人を育てる」という視点をベースに、長年の経験によって蓄積された熟練作業者のカンやコッを標準化した事例を紹介していただいた。具体的には、管理検査箇所と計画寸法指示箇所を書き入れた「設計図面」、「QC工程表」、「作業標準書」を「日立建機流作業標準」として再構築している。特に作業標準書の作成においては、現場が主体的に作成し、スタッフ部門はデジタル化などの後方支援と位置づけて進められている。そして、デジタルカメラを駆使し、安全注意点や品質確認事項を含めた作業標準書の具体例、それらをオフラインで組立方法を習得するシステムを紹介していただいた。
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プリズム
- ①船井総合研究所の立石今日子氏には、いつ行ってもお客が期待するサービスが提供される、そんな安心できる旅館、すなわち標準化された対応ができる旅館への取り組みについて紹介していただいた。スタッフの接客に標準レベルを設け、行動にガイドラインを設けて、クレーム数を激減させた事例を紹介していただいている。
- ②京都大学医学部附属病院の山田美恵子氏には、高い実戦能力と指導力をもつ新卒看護師教育担当者(クリニカルコーチ)を各部署に配置し、新卒看護師を教育するシステムについて紹介していただいた。作成した標準業務手順書に従い、根拠からきちんと学び、安全な看護の提供に繋がる第一歩と考え、クリニカルコーチによる標準業務手順書に基づいた集合研修、集合研修と連携したOJTの教育システムを紹介いただいた。
- ③経済産業省の斉藤和則氏には、「標準化」と標準の作成などに携わる「標準化人材」の育成について紹介していただいた。国際標準化とそのルール作りについて解説していただき、日本が主体的に国際標準化をめざすには、アジア太平洋地域との連携を一層強化する必要があること、一方で日本のものづくり技術においては、有能な技術者や技能者の高齢化に対応してものづくり技術や評価方法の標準化が求められている。
おわりに
標準化は、いろいろな業種で様々に広がりを見せ、同時に新たな活用法も生まれてきている。標準化は、現場の力を強め、労働意欲を増し、改善を生みだす重要な着眼点であり、また、標準化を行うためのデジタル技術も大きく進歩してきている。モノづくりを行う現場で、再度自社の標準化のねらい、しくみ、活用法を見直し、IEにおける改善のための重要な柱として用いてはいかがだろうか。
篠田 心治/企画担当編集委員
【論壇】標準化について考える
東京大学の飯塚悦功氏には、標準化の本質的な意味について解説をしていただき、標準や標準化が目的達成のための重要な概念であり方法論であることを論じていただいている。具体的には、標準化の目的は「統一・単純化」にあり、それらは業務実施計画の達成、知識の再利用による省思考、技術基盤の構築、さらには、改善や独創性の基盤に繋がることを身近な例も含め解説していただいている。さらに、標準化を阻害する因子とその対応法や、国際的な標準化についての基本スタンスについても解説していただいている。本論壇で、標準や標準化についての深い意味や、様々な有意義な視点や切り口を示していただいている。
【ケース・スタディ】活力を生む現場改善の仕掛けと仕組み
ブリヂストンの外舘晃氏、内田健裕氏には、現場力を向上させるために、標準化をベースとしたスルラク生産活動を紹介していただいている。標準を作る権限を現場に与えることで、現場自ら思考・行動する精神を醸成し、真に全員力で現場を改善する活動が行われている。標準を明らかにすることで、標準に照らして現状の問題を認識し、それを改善して新たな標準にしていく「標準化型改善」、あるべき姿を描いて、それと今の標準との差を改善する「目標型改善」を行っている。さらに、活動の推進体制として、プロジェクトチームの編成、動画を用いた作業標準とそれらを作り、守り、改善する活動、またそれらを支える情報システムや業務フローの標準化についても紹介していただいている。
【ケース・スタディ】全員で良いものを造る活動の展開
セキソーの大海幹男氏には、世界同一品質を実現するために、もの造りの「技術」まで深く踏み込んだ標準化について紹介をしていただいた。ワークに直接接触して作用するすべてのものを「ワークヘッド」、良い物しか造らないあるべき条件のことを「良品条件」として注目している。そして、ワークの姿勢から始まり、位置決めと、ことのワークヘッドにこだわり、良品条件を見極め、ワークヘッドと良品条件のメインテナンスまでを一貫して行い工程設計している。そして、これらの物づくりを確実に行うための人材育成や教育法、さらに世界同一水準をめざした工法まで含めたマスター化やコード化についても紹介していただいた。
【ケース・スタディ】金型・成形工場におけるデジタルエンジニアリングと標準化事例
出形カシオの佐竹喜悦氏には、標準化が実務をベースとしてデジタル化することで格段に容易になること、生産工程を根本から見直す効果があることを紹介していただいた。具体的には、図面をすべて廃止し、3次元情報(3D・CAD/CAM、3D画像など)を用いる、いわゆるデジタルエンジニアリング技術により、金型生産の自動化システムと成型工場の自動化を実現している。3次元データを開発の上流から下流まで一貫して徹底的に用いることで、加工や成型といった製造工程のみならず、スケジュール、工具管理、発注、納期管理、搬送、品質、ポカヨケ、作業指示まで自動で行われている。
【ケース・スタディ】Kenkijinスピリットを伝える作業標準化への取り組み
日立建機の先崎正文氏、産業能率大学の斎藤文氏には、「人を活かし、人を育てる」という視点をベースに、長年の経験によって蓄積された熟練作業者のカンやコッを標準化した事例を紹介していただいた。具体的には、管理検査箇所と計画寸法指示箇所を書き入れた「設計図面」、「QC工程表」、「作業標準書」を「日立建機流作業標準」として再構築している。特に作業標準書の作成においては、現場が主体的に作成し、スタッフ部門はデジタル化などの後方支援と位置づけて進められている。そして、デジタルカメラを駆使し、安全注意点や品質確認事項を含めた作業標準書の具体例、それらをオフラインで組立方法を習得するシステムを紹介していただいた。
【プリズム】旅館サービスの標準化
船井総合研究所の立石今日子氏には、いつ行ってもお客が期待するサービスが提供される、そんな安心できる旅館、すなわち標準化された対応ができる旅館への取り組みについて紹介していただいた。スタッフの接客に標準レベルを設け、行動にガイドラインを設けて、クレーム数を激減させた事例を紹介していただいている。
【プリズム】OJTで新人を育てる教育システム
京都大学医学部附属病院の山田美恵子氏には、高い実戦能力と指導力をもつ新卒看護師教育担当者(クリニカルコーチ)を各部署に配置し、新卒看護師を教育するシステムについて紹介していただいた。作成した標準業務手順書に従い、根拠からきちんと学び、安全な看護の提供に繋がる第一歩と考え、クリニカルコーチによる標準業務手順書に基づいた集合研修、集合研修と連携したOJTの教育システムを紹介いただいた。
【プリズム】標準化とその人材育成
経済産業省の斉藤和則氏には、「標準化」と標準の作成などに携わる「標準化人材」の育成について紹介していただいた。国際標準化とそのルール作りについて解説していただき、日本が主体的に国際標準化をめざすには、アジア太平洋地域との連携を一層強化する必要があること、一方で日本のものづくり技術においては、有能な技術者や技能者の高齢化に対応してものづくり技術や評価方法の標準化が求められている。