在庫削減の今
2012年3月 / 274号 / 発行:2012年3月1日
目次
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巻頭言
マクロのIEとミクロのIEを両輪として
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特集テーマのねらい(特集記事)
在庫削減の今
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論壇(特集記事)
需給マネジメントにおける在庫適正化の実践
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ケース・スタディ(特集記事)
「イタコナ」思想による在庫削減活動
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ケース・スタディ(特集記事)
過剰在庫を原因とした棚卸改善の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
台車生産方式でリードタイムを短縮する
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ケース・スタディ(特集記事)
段ボールケースにおける在庫削減に向けた取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
長もの型製品における「先入れ先出し」に拘ったモノづくり
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プリズム(特集記事)
在庫削減に貢献するERP「IFS Applications」
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プリズム(特集記事)
出荷・在庫の変動からみえる震災後の製造業活動
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連載講座
アセアンのクロスボーダー輸送[Ⅰ]
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会社探訪
徹底した内製化によるモノづくり-河村化工㈱ 滋賀工場-
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現場改善
PDSをベースにした人材育成とグローバル展開
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ビットバレーサロン
明るく楽しい現場からしかいいものは生まれない
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レポート
大学教育における現場実習型実践教育プログラム
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コラム(69)
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協会ニュース
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新刊紹介
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
はじめに
作れば売れる高度成長期を経て、安定期、低成長期と言われている現在、トヨタのJIT生産方式は言うに及ばず、各企業は作りすぎのムダを省くための重要な施策として在庫削減に努めています。在庫削減の目的は、部材、半製品、製品におよぶ生産・販売活動の全工程にわたって在庫にメスを入れ、各々の資産回転率を向上させることにより、極力資金効率を高めることにあります。副次的な効果としては、倉庫費用の削減、不良在庫の廃棄損低減などが挙げられます。
特集テーマのねらい
今号の特集は「在庫削減の今」として、在庫の削減に関わる活動の最新の事例を取り上げることとしました。その対象として、例えば、生産部門では工程ごと、あるいは工程間での活動というように、資材、生産、販売部門でのいずれか、あるいは相互の連携に関する活動を基本としています。
今回は、在庫(あるいは棚卸)削減の進め方として、
- 段取り替え短縮によるリードタイム短縮
- 多能工化
- バッチ処理から小ロット化さらに一個流しへの転換
- 設備のスリム化
- さらに進化した形の無停滞生産
などの取り組みを紹介していただきました。
さらに、その取り組みのなかでの工夫点、苦労した点、例えば、部門間での調整、特急注文対応、品質への課題などを可能な限り記述いただき、その成果をどのような指標を用いて評価しているかについても触れていただくこととしました。一方、なぜ在庫が発生するかをみると、調達を含む工程間の授受、生産と販売などの間の主に需給関係における量と時間のバランスが課題であり、この適正化をいかにして進めるかについても、踏み込んだ論議を紹介いただきました。
記事について
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論壇
早稲田大学理工学術院の光國光七郎教授に「需給マネジメントにおける在庫適正化の実践」というタイトルで、SCM本来のねらいに立ち返って「カップリングポイント在庫計画理論」に基づく在庫削減とキャッシュフロー改善の実践方法について、明快かつ論理的な論述をしていただきました。生産現場でトヨタ生産方式を採用していることを想定した上で、同理論による在庫計画を実践するとし、在庫の存在を見越し在庫(戦略在庫)、需要変動防止在庫、ロットサイズ在庫、輸送在庫、工程仕掛在庫、納期対応在庫の6種類に分類し、需要特性と供給側の特性を整理した上で、それぞれの在庫がなぜそこにあるかの原因を認識し、改善活動を推進するという内容です。
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ケース・スタディ
- ①パナソニック/御牧信行氏に「イタコナ」思想による在庫削減活動と題し、改善事例を紹介していただきました。同社では、板金やプリント基板をさす「イタ」と樹脂などの部材をさす「コナ」という素材までさかのぼり、製造方法・製造根拠を明らかにし、理論的原価を追求することを「イタコナ」思想と呼んでおり、この考え方を在庫削減活動に展開するという事例です。この活動は単に在庫を削減するだけではなく、競争力のあるビジネスプロセスの構築活動と位置づけています。まず在庫の見える化を徹底し、次に「あるべきモノづくり」を検討し、理論在庫を算出し、さらに理論在庫を実現するための種々の活動を進め、このサイクルを回しています。その際の在庫ファクターを回転在庫、安全在庫、戦略在庫に区分し、各々の特性に応じた評価を行っています。この活動を展開するにあたって、ステップごとに衆知を集め全員の改善活動としている事例です。
- ②NECアクセステクニカ/寺田幸彦氏に、同社が2000年に立ち上げた生産革新活動の経緯を述べていただいた上で、'07年以降の特にプリント基板へのデバイス実装工程(PKG工程)での改善活動を紹介していただきました。これまで同社は、生産革新活動を展開してきましたが、さらにPKG工程の改善に取り組み、仕掛りの実態を分析し各工程の稼動条件を入力することで棚卸量を計算する簡単なツールの開発や、設備点検サイクルの見直しによる手待ちの改善、引き取りかんばんのリライタブルかんばん方式化への工夫、SMTの1個流し化への取り組みなどにより、棚卸回転日数をさらに短縮した事例です。
- ③山形共和電業/阿部朗氏に、同社における「8マン台車」と名付けた台車生産方式によるリードタイム短縮を通じ、仕掛在庫の削減へ向けた活動を記述していただきました。まとめ調達、まとめ生産の方が効率的とされていた発想を転換し、部品材料などは小口配送に変更、生産現場ではひとつの取り組みとして、自作の台車(生産LTを8日と定めたために8マン台車)を開発しました。8マン台車で生産する対象の条件を設定した上で、使用される部品のすべて、生産に関する情報を搭載し、これまで培ってきた多能工化をさらに活用することで一個流しをも可能とした内容です。
- ④レンゴー/池田和幸氏に、「段ボールケースにおける在庫削減に向けた取り組み」と題し、製造計画時での生産性向上やロス率低減、ムダな在庫を持たない取り組みなどの事例を紹介していただきました。同社の製品は、その大半がオーダーメイドであり、かつ小ロットであることが多い上に、同社が名づけた環境にやさしい「軽薄炭少」という新素材の導入など、在庫増要因を多く抱えています。混乱なく管理を行うために、パソコンを活用したコンピュータシステムを独自に開発し、納期を起点とした製造計画から配車計画までを作成、運用しています。ただし、例外処理や倉庫での在庫管理などは、コンピュータシステムに頼ることなく、自らの目で確認することで在庫削減の一端を担っていることも述べられています。
- ⑤住友電気工業/奥谷浩人氏、奥野康輔氏に、先入れ先出しと低コスト化を同時追求した生産システムの構築事例を執筆していただきました。同社で生産している製品のうち、長い線状の材料を径方向に加工、組み立てていく「長もの型」製品を例にとり、工程ごとの出来高管理からキャッシュフローを意識した生産システムへの変更、上工程からの押し込み型生産から後工程引き取り型の採用、その経過と成果を示す見える化ツールの活用、また技能五輪の手法を応用した作業時間・作業手順の標準化の推進などの活動を通じ、LT短縮に成果を上げている事例です。
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プリズム
- ①NEC/若曽根雅之氏には、在庫削減に貢献するERPとして同社が市場に提供しているIFS社のERPパッケージIFS Applicationsについて、同社グループ企業で適用し、成果を上げた事例を紹介していただきました。IFS Applicationsは完全受注生産から見込み生産に至るまでの種々の生産形態に対応可能であり、適用事例として、かんばんとERPの連携について解説していただきました。
- ②みずほ総合研究所/市川雄介氏に、「出荷・在庫の変動からみえる震災後の製造業活動」として、震災前('11年2月)を基準に、縦軸に在庫、横軸に出荷量を取り、景気が回復している状態であれ出荷・在庫ともに増加することを前提に'11年11月までのデータをプロットし、各業界の動向と特長と各業種の置かれた状況を解説していただきました。
おわりに
本号の特集記事で共通しているのは、在庫削減の活動が単に生産現場の活動にとどまらず、会社トップから最前線のオペレータに至るまでの事業体における階層全員の活動であることです。また、調達から生産・販売、物流、協力会社を含んだビジネスフロー全体での展開およびその双方の連携により成果を上げようとしていることがあげられます。光國教授のご指摘のように、SCMの本来の機能を発揮することが棚卸資産回転率の向上・在庫削減の大原則であるのであれば、全員・全組織の取り組みは、むしろ当然のことであるのを改めて知らしめた特集になったと考えています。
岡 清彦/企画担当編集委員
【論壇】需給マネジメントにおける在庫適正化の実践
早稲田大学理工学術院の光國光七郎教授に「需給マネジメントにおける在庫適正化の実践」というタイトルで、SCM本来のねらいに立ち返って「カップリングポイント在庫計画理論」に基づく在庫削減とキャッシュフロー改善の実践方法について、明快かつ論理的な論述をしていただきました。生産現場でトヨタ生産方式を採用していることを想定した上で、同理論による在庫計画を実践するとし、在庫の存在を見越し在庫(戦略在庫)、需要変動防止在庫、ロットサイズ在庫、輸送在庫、工程仕掛在庫、納期対応在庫の6種類に分類し、需要特性と供給側の特性を整理した上で、それぞれの在庫がなぜそこにあるかの原因を認識し、改善活動を推進するという内容です。
【ケース・スタディ】「イタコナ」思想による在庫削減活動
パナソニック/御牧信行氏に「イタコナ」思想による在庫削減活動と題し、改善事例を紹介していただきました。同社では、板金やプリント基板をさす「イタ」と樹脂などの部材をさす「コナ」という素材までさかのぼり、製造方法・製造根拠を明らかにし、理論的原価を追求することを「イタコナ」思想と呼んでおり、この考え方を在庫削減活動に展開するという事例です。この活動は単に在庫を削減するだけではなく、競争力のあるビジネスプロセスの構築活動と位置づけています。まず在庫の見える化を徹底し、次に「あるべきモノづくり」を検討し、理論在庫を算出し、さらに理論在庫を実現するための種々の活動を進め、このサイクルを回しています。その際の在庫ファクターを回転在庫、安全在庫、戦略在庫に区分し、各々の特性に応じた評価を行っています。この活動を展開するにあたって、ステップごとに衆知を集め全員の改善活動としている事例です。
【ケース・スタディ】過剰在庫を原因とした棚卸改善の取り組み
NECアクセステクニカ/寺田幸彦氏に、同社が2000年に立ち上げた生産革新活動の経緯を述べていただいた上で、’07年以降の特にプリント基板へのデバイス実装工程(PKG工程)での改善活動を紹介していただきました。これまで同社は、生産革新活動を展開してきましたが、さらにPKG工程の改善に取り組み、仕掛りの実態を分析し各工程の稼動条件を入力することで棚卸量を計算する簡単なツールの開発や、設備点検サイクルの見直しによる手待ちの改善、引き取りかんばんのリライタブルかんばん方式化への工夫、SMTの1個流し化への取り組みなどにより、棚卸回転日数をさらに短縮した事例です。
【ケース・スタディ】台車生産方式でリードタイムを短縮する
山形共和電業/阿部朗氏に、同社における「8マン台車」と名付けた台車生産方式によるリードタイム短縮を通じ、仕掛在庫の削減へ向けた活動を記述していただきました。まとめ調達、まとめ生産の方が効率的とされていた発想を転換し、部品材料などは小口配送に変更、生産現場ではひとつの取り組みとして、自作の台車(生産LTを8日と定めたために8マン台車)を開発しました。8マン台車で生産する対象の条件を設定した上で、使用される部品のすべて、生産に関する情報を搭載し、これまで培ってきた多能工化をさらに活用することで一個流しをも可能とした内容です。
【ケース・スタディ】段ボールケースにおける在庫削減に向けた取り組み
レンゴー/池田和幸氏に、「段ボールケースにおける在庫削減に向けた取り組み」と題し、製造計画時での生産性向上やロス率低減、ムダな在庫を持たない取り組みなどの事例を紹介していただきました。同社の製品は、その大半がオーダーメイドであり、かつ小ロットであることが多い上に、同社が名づけた環境にやさしい「軽薄炭少」という新素材の導入など、在庫増要因を多く抱えています。混乱なく管理を行うために、パソコンを活用したコンピュータシステムを独自に開発し、納期を起点とした製造計画から配車計画までを作成、運用しています。ただし、例外処理や倉庫での在庫管理などは、コンピュータシステムに頼ることなく、自らの目で確認することで在庫削減の一端を担っていることも述べられています。
【ケース・スタディ】長もの型製品における「先入れ先出し」に拘ったモノづくり
住友電気工業/奥谷浩人氏、奥野康輔氏に、先入れ先出しと低コスト化を同時追求した生産システムの構築事例を執筆していただきました。同社で生産している製品のうち、長い線状の材料を径方向に加工、組み立てていく「長もの型」製品を例にとり、工程ごとの出来高管理からキャッシュフローを意識した生産システムへの変更、上工程からの押し込み型生産から後工程引き取り型の採用、その経過と成果を示す見える化ツールの活用、また技能五輪の手法を応用した作業時間・作業手順の標準化の推進などの活動を通じ、LT短縮に成果を上げている事例です。
【プリズム】在庫削減に貢献するERP「IFS Applications」
NEC/若曽根雅之氏には、在庫削減に貢献するERPとして同社が市場に提供しているIFS社のERPパッケージIFS Applicationsについて、同社グループ企業で適用し、成果を上げた事例を紹介していただきました。IFS Applicationsは完全受注生産から見込み生産に至るまでの種々の生産形態に対応可能であり、適用事例として、かんばんとERPの連携について解説していただきました。
【プリズム】出荷・在庫の変動からみえる震災後の製造業活動
みずほ総合研究所/市川雄介氏に、「出荷・在庫の変動からみえる震災後の製造業活動」として、震災前(’11年2月)を基準に、縦軸に在庫、横軸に出荷量を取り、景気が回復している状態であれ出荷・在庫ともに増加することを前提に’11年11月までのデータをプロットし、各業界の動向と特長と各業種の置かれた状況を解説していただきました。