リードタイムと標準時間
2012年10月 / 277号 / 発行:2012年10月1日
目次
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巻頭言
もの作りのグローバル展開に向けて
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特集テーマのねらい(特集記事)
リードタイムと標準時間
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論壇(特集記事)
NPW:お客さま1人1人の笑顔を見られるモノづくりをめざして
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ケース・スタディ(特集記事)
売上代金請求業務の改善
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ケース・スタディ(特集記事)
作業時間低減とリードタイム短縮
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ケース・スタディ(特集記事)
リードタイム短縮・コスト削減への取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
エネルギーインフラ製品におけるJIT改善活動
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ケース・スタディ(特集記事)
建設現場と工期短縮
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プリズム(特集記事)
IEを推進するツール 動作分析ソフトウェアOTRS
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プリズム(特集記事)
FLEXSCHEによる生産リードタイム短縮と製品在庫量のコントロール
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連載講座
アセアンのクロスボーダー輸送[Ⅳ]
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会社探訪
農業ビジネスと5S-グリンリーフ(株) 赤城高原農場-
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ビットバレーサロン
注目されるインドビジネス(下)
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レポート
第53回 全国IE年次大会
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レポート
大野耐一氏生誕100周年記念講演会を聴講して
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コラム(72)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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編集後記
特集の背景
円高や原材料価格の高騰、そして新興国との競争激化が続き、日本の生産企業を取り巻く経営環境には、依然として明るい兆しが認められない。この閉塞的状態を打破するためには、事業のQCDを従来以上に強化すること、つまり、当たり前品質要素だけでなく魅力的品質要素を保有する新成長事業を伸ばし(Q)、独創的な視点に基づいた総合リードタイム短縮により市場環境変化への対応力を強化し(D)、サイクルタイム縮減により瞬発力を強化し、標準時間の低減(C)により贅肉を省いたリーンな生産体制を確立することが必要となる。リードタイムと標準時間の両者を短縮することで、日本の製造企業はモノづくり力を高め、その存在感を示してきた。これからもモノづくりの現場では、市場対応力と瞬発力を具備すべく、リードタイムと標準時間を有益な指標に据え、現場力を継続的に高め続けることが重要である。
特集の着眼点
本特集ではIEの原点に回帰し、リードタイムと標準時間(サイクルタイムを含む)の短縮に着目した企業の改善活動にスポットをあてている。1970年代後半よりIEの分野では、JIT生産方式の浸透により、作り過ぎのムダが注目され、リードタイム短縮の概念がクローズアップされている。今やそのリードタイム短縮こそが、企業存続の生命線となっている。実際、日本の改善技術の強みは、このリードタイムという指標を有効に活用し、組織的に経営体の全体最適へ取り組めたことに存在すると考えられる。
本号では特に、次のようなポイントに着眼し、改善実施事例を紹介している。
- 作り過ぎのムダの排除、工程連結・流れ化に着目し、製造リードタイムの短縮を実現した改善事例
- 多品種多頻度生産を促進し、納入リードタイムを短縮するため、徹底した段取り改善を推進している事例
- リードタイムを局面別(開発・調達・品揃え・製造・納入・据付など)に区分し、目標設定・改善推進に結び付けている事例
- 非有価作業(付加価値を生まない運搬や監視などの作業)を削減する改善実施事例
- PSI(生産・出荷・在庫)情報の見える化により、変化対応力を強化している事例やツールの紹介
- リードタイムや標準時間をうまく経営指標・改善目標として活用している事例
- 決められた目標を遵守できるように工夫している事例
- 標準化の推進により、作業のバラツキを抑える改善事例
記事構成
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論壇
今回の論壇は、「NPW:お客さま1人1人の笑顔の見られるモノづくりをめざして」について、日産自動車の市川氏に寄稿いただいた。お客様の価値を起点とした改善の推進、それを支える同期生産の追求という日産生産方式(NPW)の真髄を読み取ることができる。同期生産が全社で共有化されてから15年が経過するが、クロスファンクショナルな活動が進み、チームワークによる相乗効果も大きい。グローバルな切磋琢磨が生まれ、海外拠点も進化しつつあるなか、「国内工場は常に高い目標に挑戦し続け、常にトップであり続けたい」という執筆者のモノづくりに対する思いに共感する次第である。 -
ケース・スタディ
- ①NECの宇山氏からは、「売上代金請求業務の改善」について寄稿いただいた。売上代金請求業務を集約統合し請求センターとして立ち上げ、各拠点で別々の作業形態をとっていた業務を標準化し、請求書発行から回収までのリードタイム短縮を実現。営業部門との業務重複の排除、個人差の多かった伝票作成業務の標準化、チーム制運用による作業者間業務連携強化など、事務作業にもリードタイム改善の視点が適用拡大されており参考となる。業務マニュアルを自主的に作成していくチームの姿に、自律的組織の理想的なあり方が見えている。
- ②東芝エレベータの仲野氏からは、「作業時間低減とリードタイム短縮」について寄稿いただいた。シックスシグマのDMAIC手法とIE手法とを融合させた生産性向上への取り組みは、課題の真因追求に非常に有効である。巻上機組立改善では、組立・試験・塗装の工程連結による停滞時間の削減や運搬作業改善を中心に、また据付作業改善ではリードタイム短縮のため、作業時間のバラツキに注目し、建物側条件に左右されない製品構造に変更したことや、動線分析により移動・運搬頻度を調査し改善に繋げたことが紹介されており、大変参考となる。
- ③川崎重工業の中村氏には、「リードタイム短縮・コスト削減への取り組み」について執筆いただいた。モーターサイクル事業で培った標準化をキーとするKPS(川崎生産方式)を改良・発展させ、航空機のような個別受注生産に導入した事例を紹介いただいた。個人別生産管理版の活用・生産ピッチに合わせ機体を常時移動させるムービングラインの構築(製造部門の手作り)、作業者の多能化による手待ち時間の削減とラインバランスの向上、作業台の屋台化などにより、作業エリアを拡張せず面積生産性を2倍化し、リードタイムを半減した事例は大変参考となる。
- ④三菱電機の北原氏、竹内氏、宮岡氏、森合氏からは「エネルギーインフラ製品におけるJIT改善活動」を執筆いただいた。生産リードタイムを短縮するために品揃えリードタイムに着眼し、データマイニングにより需要予測精度をアップさせ、設計完了前に部品発注を実施できるようにしている。キーパーツである基板製造においては、多品種生産に対応するための段取り作業時間の短縮、付加価値を生まない作業(読図・部品挿入位置探し)の徹底した排除や部品挿入要領のIT機器によるナビゲートを実施。また個別受注生産では、珍しいタクト生産方式を検査作業に導入していることにも注目したい。
- ⑤鹿島建設の松崎氏からは、「建設現場と工期短縮」について執筆いただいた。建設業では積極的にIEに取り組んでいるが、本改善事例でも作業効率化と、施主や近隣からも要望の強い工期短縮について体系的なIE的アプローチを実施している。掘削・基礎工事・上棟の最短化や外構工事の早期着手に着目し、天候の影響など不確定要素の多い工事環境にも拘らず、2年を切る工期を実現した。途中、東日本大震災発生時の安全確保や、その後の部品調達への対応も関係者を含めた総合力で苦難を乗り越えており、大規模作業プロジェクト管理による工期短縮に有益な知見となる。
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プリズム
今回の特集テーマに関連して、生産スケジューラと、作業スピード分析に関する2つのツールを紹介いただいた。- ①ブロードリーフの大岡氏からは、「IEを推進するツール 動作分析ソフトウェアOTRS」を寄稿いただいた。本ツールは、撮影動画をベースとした作業改善用のツールであり、作業員への標準作業の教育や作業指示書の作成にも活用できる。観測と分析が容易であり、動作要素に任意のレーティング値を設定し、それを基にスピードを変化させて再生できるので、より正確な標準時間を策定可能であり、山積み機能も整備されている。
- ②フレクシェの浦野氏からは、「FLEXSCHEによる生産リードタイム短縮と製品在庫量のコントロール」を寄稿いただいた。見込み生産のスケジューリングにおいても、時間軸上に需給バランスの推移を可視化し、製品在庫量の巧みなコントロール(アクセル&ブレーキ)を可能とする。リスケジュール機能が向上しており、課題の発見と対応を迅速に実施できることが特長である。
製造業再生の道
本特集の改善事例では、製造現場での作業だけでなく、建設作業、機材据付作業、事務作業への適用例も取り上げられている。読者企業の改善活動展開において、有益な知見となれば幸いである。厳しい経営環境ではあるが、どんな状況に追い込まれようとも、日本の進むべき道は、やはりモノづくりをさらに磨きあげていくことにあるだろう。リードタイムと標準時間の短縮に地道に取り組み、成長戦略をモノづくり技術が下支えていくことこそ、製造業再生の道へ繋がるものと改めて認識している。
江頭 誠/企画担当編集委員
【論壇】NPW:お客さま1人1人の笑顔を見られるモノづくりをめざして
今回の論壇は、「NPW:お客さま1人1人の笑顔の見られるモノづくりをめざして」について、日産自動車の市川氏に寄稿いただいた。お客様の価値を起点とした改善の推進、それを支える同期生産の追求という日産生産方式(NPW)の真髄を読み取ることができる。同期生産が全社で共有化されてから15年が経過するが、クロスファンクショナルな活動が進み、チームワークによる相乗効果も大きい。グローバルな切磋琢磨が生まれ、海外拠点も進化しつつあるなか、「国内工場は常に高い目標に挑戦し続け、常にトップであり続けたい」という執筆者のモノづくりに対する思いに共感する次第である。
【ケース・スタディ】売上代金請求業務の改善
NECの宇山氏からは、「売上代金請求業務の改善」について寄稿いただいた。売上代金請求業務を集約統合し請求センターとして立ち上げ、各拠点で別々の作業形態をとっていた業務を標準化し、請求書発行から回収までのリードタイム短縮を実現。営業部門との業務重複の排除、個人差の多かった伝票作成業務の標準化、チーム制運用による作業者間業務連携強化など、事務作業にもリードタイム改善の視点が適用拡大されており参考となる。業務マニュアルを自主的に作成していくチームの姿に、自律的組織の理想的なあり方が見えている。
【ケース・スタディ】作業時間低減とリードタイム短縮
東芝エレベータの仲野氏からは、「作業時間低減とリードタイム短縮」について寄稿いただいた。シックスシグマのDMAIC手法とIE手法とを融合させた生産性向上への取り組みは、課題の真因追求に非常に有効である。巻上機組立改善では、組立・試験・塗装の工程連結による停滞時間の削減や運搬作業改善を中心に、また据付作業改善ではリードタイム短縮のため、作業時間のバラツキに注目し、建物側条件に左右されない製品構造に変更したことや、動線分析により移動・運搬頻度を調査し改善に繋げたことが紹介されており、大変参考となる。
【ケース・スタディ】リードタイム短縮・コスト削減への取り組み
川崎重工業の中村氏には、「リードタイム短縮・コスト削減への取り組み」について執筆いただいた。モーターサイクル事業で培った標準化をキーとするKPS(川崎生産方式)を改良・発展させ、航空機のような個別受注生産に導入した事例を紹介いただいた。個人別生産管理版の活用・生産ピッチに合わせ機体を常時移動させるムービングラインの構築(製造部門の手作り)、作業者の多能化による手待ち時間の削減とラインバランスの向上、作業台の屋台化などにより、作業エリアを拡張せず面積生産性を2倍化し、リードタイムを半減した事例は大変参考となる。
【ケース・スタディ】エネルギーインフラ製品におけるJIT改善活動
三菱電機の北原氏、竹内氏、宮岡氏、森合氏からは「エネルギーインフラ製品におけるJIT改善活動」を執筆いただいた。生産リードタイムを短縮するために品揃えリードタイムに着眼し、データマイニングにより需要予測精度をアップさせ、設計完了前に部品発注を実施できるようにしている。キーパーツである基板製造においては、多品種生産に対応するための段取り作業時間の短縮、付加価値を生まない作業(読図・部品挿入位置探し)の徹底した排除や部品挿入要領のIT機器によるナビゲートを実施。また個別受注生産では、珍しいタクト生産方式を検査作業に導入していることにも注目したい。
【ケース・スタディ】建設現場と工期短縮
鹿島建設の松崎氏からは、「建設現場と工期短縮」について執筆いただいた。建設業では積極的にIEに取り組んでいるが、本改善事例でも作業効率化と、施主や近隣からも要望の強い工期短縮について体系的なIE的アプローチを実施している。掘削・基礎工事・上棟の最短化や外構工事の早期着手に着目し、天候の影響など不確定要素の多い工事環境にも拘らず、2年を切る工期を実現した。途中、東日本大震災発生時の安全確保や、その後の部品調達への対応も関係者を含めた総合力で苦難を乗り越えており、大規模作業プロジェクト管理による工期短縮に有益な知見となる。
【プリズム】IEを推進するツール 動作分析ソフトウェアOTRS/【プリズム】FLEXSCHEによる生産リードタイム短縮と製品在庫量のコントロール
今回の特集テーマに関連して、生産スケジューラと、作業スピード分析に関する2つのツールを紹介いただいた。
ブロードリーフの大岡氏からは、「IEを推進するツール 動作分析ソフトウェアOTRS」を寄稿いただいた。本ツールは、撮影動画をベースとした作業改善用のツールであり、作業員への標準作業の教育や作業指示書の作成にも活用できる。観測と分析が容易であり、動作要素に任意のレーティング値を設定し、それを基にスピードを変化させて再生できるので、より正確な標準時間を策定可能であり、山積み機能も整備されている。
フレクシェの浦野氏からは、「FLEXSCHEによる生産リードタイム短縮と製品在庫量のコントロール」を寄稿いただいた。見込み生産のスケジューリングにおいても、時間軸上に需給バランスの推移を可視化し、製品在庫量の巧みなコントロール(アクセル&ブレーキ)を可能とする。リスケジュール機能が向上しており、課題の発見と対応を迅速に実施できることが特長である。