モノづくり現場力
2012年12月 / 278号 / 発行:2012年12月1日
目次
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巻頭言
元気出せ 日本のモノづくり
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特集テーマのねらい(特集記事)
モノづくり現場力
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論壇(特集記事)
アジアの競争を勝ち抜くモノづくりの強化
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ケース・スタディ(特集記事)
モノづくり現場力強化
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ケース・スタディ(特集記事)
ニーズに応えるモノづくり
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ケース・スタディ(特集記事)
グローバルを勝ち抜く小規模・分散型モノづくり
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座談会(特集記事)
モノづくり現場力とは
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連載講座
アセアンのクロスボーダー輸送[Ⅴ]
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会社探訪
神宮の式年遷宮と技能の継承-伊勢神宮・式年遷宮-
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現場改善
経営に貢献する流れ生産と全員参加のモノづくり
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ビットバレーサロン
流れをバランスする直接流れ観察法
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コラム(73)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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編集後記
特集の背景
今、国内製造業に強い逆風が吹いている。少子高齢化による国内市場の縮小、歴史的超円高、高い法人税率、電力不足など、6重苦とも、7重苦とも称されるものがそれである。こうしたなか、成長の重心が新興国に移ったこともあり、国内製造業の海外移転が進んでいる。実際、リーマンショック後、製造業の国内設備投資が伸び悩む一方、海外設備投資は急速に増大しており、海外における生産設備が国内のそれを上回る企業も増えている。このまま製造業の海外移転が進み、なお一層の国内空洞化を招いてよいものだろうか。他方で最近、アメリカの学者が自国内製造業の海外移転により、アメリカの優位性が脅かされると警鐘を鳴らしているそうだ。それによれば、バイオ・医療、航空宇宙などの重要なハイテク分野では、製造工程における技術革新が盛んで、製品開発には製造部門と研究開発部門の連携が必要となるため、製造部門も国内に立地させるべきであるという。この指摘は、製造部門と研究開発部門の連携という、もともと日本が持っているモノづくり現場の強みを堅持していくことが大変重要であると読み替えることができる。グローバル化の進展で製造業の海外進出が続くなか、製造部門と研究開発部門の密な連携など、これまで日本の製造業が国内で切磋琢磨してきたモノづくり現場力を、再度冷静かつ客観的に検証し、国内に残すべきものは国内に残し、その強みをさらに磨き上げることが重要ではないかということである。こうすることにより、製造業の一層の国際競争力の向上、国内雇用の確保、さらには技術面から見た安全保障の堅持を図ることができる。以上のような背景から、本特集では、逆風にもめげず国内生産を支えてきたモノづくり現場に焦点をあて、どこにその強みがあるのか、また、その強みをどのように磨き上げてきたかについて具体的な事例をもとに考えてみたい。グローバル化が進展するなか、各社のモノづくり現場力を見つめ直すきっかけにしていただければ幸いである。
特集の着眼点
本特集では、上記背景に基づき、以下の観点から、国内生産を支えてきたモノづくり現場力について、原稿の執筆をいただいた。
- モノづくり現場力とは、どのような力を意味すると考えているか。
- モノづくり現場力を強化するため、どのような取り組みを行ってきたか。その過程でどのような苦労をし、どのように問題を解決してきたか。
- モノづくり現場力を強化するために、今後どのような取り組みが必要と考えられるか。
- 強化してきたモノづくり現場力を経営的にどのように活かしてきたか(たとえば、マザー工場としての国内拠点に活かすなど)。
あわせて、IEレビュー編集委員による座談会を開催し、上記観点から本テーマの深掘りを試みた。我々は、「モノづくり現場力」とは何なのか、どのような力を現場力と考えているのかなどたいへん興味深い。また、日本のモノづくりの源流とモノづくり強化について、有識者からの深い知見を掲載した。最後に、モノづくり現場力について若干説明を加えておきたい。本特集で取り上げたモノづくり現場力とは、上流から下流まで広義のモノづくりのバリューチェーンに係わる様々な現場力と捉えている。具体的には、以下に示すようなものがそれに相当する。
- 顧客ニーズを的確に把握し、早期に商品化する力
- 開発から量産までの早期立ち上げを実現する部門間連携力
- 変種変量・多品種少量生産への対応など、様々な変化への対応力
- ムダの排除や品質向上など、自主的な改善活動推進力
- 製造装置トラブルに即座に対応する力
- 製造設備の内製化力
- 製品の保守・サービス力、など
記事の概要
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論壇
今回の論壇は、「アジアの競争を勝ち抜くモノづくりの強化」というタイトルで、浙江大学経済学院の竹内常善先生に寄稿いただいた。日本のモノづくりの源流を、近代的な日本のモノづくりの先達が生まれた三河地方や中国地方などの伝統的な農村風土に求め、そこで育まれた節約の精神や村民共助の精神が、生産への愚直なこだわりや、もったいない精神といったモノづくりの基本姿勢を形成してきたと指摘している。そして、今、日本のモノづくり強化のために、こうしたモノづくり現場の底流に流れる基本姿勢を再認識し、蘇生させることが重要だと説いている。 -
ケース・スタディ
- ①キヤノン電子の佐藤積利氏には、「モノづくり現場力強化」というタイトルで、全社一丸となって進めているモノづくり現場力強化の取り組みについて記載いただいた。モノづくり現場力を、「経営力」、「開発力」、「技術力」、「生産力」、「組織力」という5つの要素にくくり、それぞれの要素ごとに独自の活動を推進している。「開発力」強化の取り組みでは、研究開発部門における発明発掘やデザインインからの支援など、特許部門の活動が具体的に紹介されている。同社ではこうした全社一丸となった内部努力を積み重ね(「三自の精神」という伝統の精神)、国内製造メーカーにのしかかる6重苦を克服しようと頑張っている。大変に力強く参考となる取り組みである。
- ②鍋屋バイテックの佐藤雅英氏には、「ニーズに応えるモノづくり」と題して執筆いただいた。43,000点あまりに及ぶ商品のなかから、14時までに受けた注文は当日に出荷する体制を10年程前から実現している。それを支えているのが、「寿司バーコンセプト」と呼ばれる多品種微量生産システムで、自前の製造設備や販売・生産管理システムで構成されている。製造設備・ITシステムの自前化へのこだわりや、人材育成の考え方も詳細に記述されている。
- ③中央発條の濱口宏之氏には、「グローバルを勝ち抜く小規模・分散型モノづくり」と題し、従来の高速大量生産型モノづくりから、グローバルを勝ち抜く、変種・変量、限量型モノづくりへの中発モノづくり改革について執筆いただいた。「流れ化」、「リードタイム短縮」、「少量でも安く効率よく造る」、「お客様のお膝元で造る」という同社のモノづくり憲法の下、「1個流しコンパクトラインの開発」に込められた高い生産技術力と熱い思いが伝わってくる内容である。
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座談会
IEレビュー編集委員長の慶応義塾大学・河野宏和先生に司会をお願いし、前田一郎氏(鉄鋼)、戸田隆幸氏(自動車部品)、と私(電機)の各業界出身のIEレビュー編集委員3人が加わり、「モノづくり現場力」をテーマとした座談会を開催した。現場力には、問題発見力・解決力といった個人の力という側面と、チーム力といった集団としての側面があること、活動のマンネリ化を防いだり、新しい発見をするために多様性という視点が重要であること、現場力を引き出したり、その環境を整えるためにはトップのコミットメントが必要なこと、現場のリーダーを育成するためには、OFF-JTのみでなく、実践体験を積んでいくことが大切であることなど、各社の経験をもとに具体的な指摘をいただいた。最後に、一企業ではできない横のつながりを持つことや新しいIE情報などの発信に、日本IE協会が積極的にリーダーシップを発揮して欲しいという提言が示されている。
おわりに
今回は、グローバル化など、国内生産を取り巻く厳しい環境下、モノづくりの様々な現場で頑張っている読者の皆様に応援メッセージを届けようと特集を組んだ。全社一丸となった現場力強化の取り組み、1個流しコンパクトライン開発への強いこだわり、顧客ニーズに極限まで応えようとする取り組みなど、執筆いただいたケース・スタディからは、それぞれの最前線で必死になって頑張る現場の姿が伝わってきた。今後ともこうした現場力や、そこに込められた熱い思いを皆様にお伝えし、モノづくり強化の一助にしていただけるよう微力をつくしたい。
日下部 勝/企画担当編集委員
【論壇】アジアの競争を勝ち抜くモノづくりの強化
今回の論壇は、「アジアの競争を勝ち抜くモノづくりの強化」というタイトルで、浙江大学経済学院の竹内常善先生に寄稿いただいた。日本のモノづくりの源流を、近代的な日本のモノづくりの先達が生まれた三河地方や中国地方などの伝統的な農村風土に求め、そこで育まれた節約の精神や村民共助の精神が、生産への愚直なこだわりや、もったいない精神といったモノづくりの基本姿勢を形成してきたと指摘している。そして、今、日本のモノづくり強化のために、こうしたモノづくり現場の底流に流れる基本姿勢を再認識し、蘇生させることが重要だと説いている。
【ケース・スタディ】モノづくり現場力強化
キヤノン電子の佐藤積利氏には、「モノづくり現場力強化」というタイトルで、全社一丸となって進めているモノづくり現場力強化の取り組みについて記載いただいた。モノづくり現場力を、「経営力」、「開発力」、「技術力」、「生産力」、「組織力」という5つの要素にくくり、それぞれの要素ごとに独自の活動を推進している。「開発力」強化の取り組みでは、研究開発部門における発明発掘やデザインインからの支援など、特許部門の活動が具体的に紹介されている。同社ではこうした全社一丸となった内部努力を積み重ね(「三自の精神」という伝統の精神)、国内製造メーカーにのしかかる6重苦を克服しようと頑張っている。大変に力強く参考となる取り組みである。
【ケース・スタディ】ニーズに応えるモノづくり
鍋屋バイテックの佐藤雅英氏には、「ニーズに応えるモノづくり」と題して執筆いただいた。43,000点あまりに及ぶ商品のなかから、14時までに受けた注文は当日に出荷する体制を10年程前から実現している。それを支えているのが、「寿司バーコンセプト」と呼ばれる多品種微量生産システムで、自前の製造設備や販売・生産管理システムで構成されている。製造設備・ITシステムの自前化へのこだわりや、人材育成の考え方も詳細に記述されている。
【ケース・スタディ】グローバルを勝ち抜く小規模・分散型モノづくり
中央発條の濱口宏之氏には、「グローバルを勝ち抜く小規模・分散型モノづくり」と題し、従来の高速大量生産型モノづくりから、グローバルを勝ち抜く、変種・変量、限量型モノづくりへの中発モノづくり改革について執筆いただいた。「流れ化」、「リードタイム短縮」、「少量でも安く効率よく造る」、「お客様のお膝元で造る」という同社のモノづくり憲法の下、「1個流しコンパクトラインの開発」に込められた高い生産技術力と熱い思いが伝わってくる内容である。
【座談会】モノづくり現場力とは
IEレビュー編集委員長の慶応義塾大学・河野宏和先生に司会をお願いし、前田一郎氏(鉄鋼)、戸田隆幸氏(自動車部品)、と私(電機)の各業界出身のIEレビュー編集委員3人が加わり、「モノづくり現場力」をテーマとした座談会を開催した。現場力には、問題発見力・解決力といった個人の力という側面と、チーム力といった集団としての側面があること、活動のマンネリ化を防いだり、新しい発見をするために多様性という視点が重要であること、現場力を引き出したり、その環境を整えるためにはトップのコミットメントが必要なこと、現場のリーダーを育成するためには、OFF-JTのみでなく、実践体験を積んでいくことが大切であることなど、各社の経験をもとに具体的な指摘をいただいた。最後に、一企業ではできない横のつながりを持つことや新しいIE情報などの発信に、日本IE協会が積極的にリーダーシップを発揮して欲しいという提言が示されている。