改善活動を海外現地で進めるために
2013年3月 / 279号 / 発行:2013年3月1日
目次
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巻頭言
グローバルでのモノづくり体質の強化
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特集テーマのねらい(特集記事)
改善活動を海外現地で進めるために
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論壇(特集記事)
改善(KAIZEN)活動の海外展開
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ケース・スタディ(特集記事)
改善活動を海外現地法人で進めるために
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ケース・スタディ(特集記事)
米国で改善活動を軌道に乗せる方法
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ケース・スタディ(特集記事)
中国生産拠点における人づくり
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ケース・スタディ(特集記事)
130年を紡ぐ品質文化について
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会社探訪
良い現場は最高のセールスマン-(株)山田製作所-
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ビットバレーサロン
小規模(地域別最適規模)工場づくりから学ぶ
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コラム(74)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
特集の背景
経済のグローバル化が進むなか、日本企業は海外市場の開拓を求め、工場の海外進出を進めてきた。海外進出の背景には、急速な円高により、グローバル規模でのコスト競争力が求められていることがあげられる。また、新興国市場の急速な成長もあり、日本企業は生き残りをかけて、グローバルに対応できる強い現場づくり、継続的な改善力の強化に取り組んでいる。しかし、この強い現場づくりや改善活動が、スムーズに実践されているケースを聞くことは少ない。むしろ現地で求められるコスト競争力の向上をはじめ、品質管理、納期管理においても苦戦していることの方が多いのではないだろうか。日本の工場においてはよしとされていた強い帰属意識からなる様々な改善活動(QCサークル、5S活動、およびセル生産など)も、グローバル視点で見ると導入展開に限界があるのではないだろうか。今回、各企業の実例を通して、改めて現地での改善活動の進め方を考えてみたい。
特集の着眼点
本特集号は、このような問題意識のなかで、各企業で海外現地において改善活動を推進して行く上でのノウハウや工夫を紹介していただき、また、改善活動を展開するベースとなる人材育成の取り組みについても学ぶことをねらいとしている。そこで、より具体的に以下の内容を紹介できればと思っている。
- 現地における改善活動の課題は何か。
- 改善活動の苦労点、また工夫や努力したことは何か。
- 改善活動の施策、実施内容とその成果は何か。
- どのようなグローバル人材を育成するのか(定義、考え方、ポイントは何か、日本流の徹底、現地の特色をアレンジなど、工夫している点は何か)。
- 現地人材との役割分担、連携はどのようにしているのか(多様な人種、多様な文化への対応など)。
- 現在のグローバル人材育成の課題は何か。また、その課題をどのように克服しようとしているのか。
記事構成
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論壇
今回の論壇は、「改善(KAIZEN)活動の海外展開」というタイトルで、早稲田大学大学院商学研究科藤田精一教授に寄稿いただいた。国際機関や財団法人の要請を受けて数多く海外で現地指導した活動を背景に、「改善はなぜ必要か」を問い、現場力をキーワードに経験談を交えながら、分かりやすく説いていただいた。「海外文化の違いへの対処法」、「5S活動の導入法」、「改善提案制度の課題」など、日本人スタッフが必ずや直面する問題を解説した上で、改めて最後に、「改善とは何か?」と読者に投げかけているところは、大いに考えさせられる内容である。 -
ケース・スタディ
- ①ダイワ・ベトナム・リミテッドの岩間伸一氏からは、「改善活動を海外現地法人で進めるために」と題して執筆いただいた。操業後一年弱経った2007年にベトナム工場に社長として赴任された経験を基に、現地工場に導入した制度を分かりやすく具体的に説明していただいた。企業を永続的に発展させるには、従業員、会社、そして顧客との長期的な信頼関係を構築することが大切であると説いている。従業員満足の活動では、「日本の企業はどうして成長することができたのか?」、「日本の高度成長期に先駆者や自分たちが何をしたのか?」を念頭に置き、職場対応の運動会からスタートして、チームワークやリーダーシップを職場に根づかせた改善活動を進めている。一定以上のノルマをこなせる従業員を「ハイスピードワーカー」、作業を教えることのできるスタッフを「トレーナー」と呼び、給与に反映させた活動や、信賞必罰の観点から「イエローカード制度」、「ブラックテナント制度」も導入されている。日本での過去の企業風土作りをベトナムで実践し、現地の風土・習慣に適用した教育やシステムを考えることで、ボトムアップの自主的な改善風土作りが可能であると説いている。
- ②新日鐵住金の髙岡純一氏からは、「米国で改善活動を軌道に乗せる方法」と題して執筆いただいた。現在、米国第一の型鍛造クランク素材製造会社へと成長した子会社で、技術・操業部門のトップとして経験された改善活動、人材育成方法を紹介していただいた。アメリカにおける特殊な労使関係に対応しながら、世界的な潮流とは逆に「日本独特の(終身雇用制を基本とした)労使関係」が正しいと指摘している。活動を上手く進めるためには、現地人から見たら「得体の知れない日本人」を信用してもらうことが大切で、コミュニケーションの重要性を説いている。自主改善活動の初期段階では、安全に関する小集団活動が有効であること、経営側が望む「利益」を出す改善活動では、改善を進める前に自分の仕事がどのようになるかを具体的に、改善の先に良い結果が待っていることを理解してもらうように説明することの重要性を紹介している。また、随所に現地のメンバーとの接し方において、注意すべき点を具体的にあげていただき、読者にとって大いに参考になるケースである。
- ③富士ゼロックス深圳の岡地俊彦氏からは、「中国生産拠点における人づくり」と題して執筆いただいた。長年、人事業務関係に携われ、いろいろな国の人々と「仕事・能力・報酬」をめぐり、机上での理論中心ではなく、現実にどうするのかという現場中心で仕事をしてきた経験から事例を紹介いただいた。同氏は、「人はなぜ働くのか?」という本質的な命題に長年取り組まれてきている。新興国での労務管理において、その概念をCSRにおきかえられていることは興味深い。CSRの概念を持った労務管理が求められていることを説明していただいた。また、製造業は、多くの人々に安定した雇用を生み出し、その雇用能力がその国の経済に与える影響が大きく、仕事を通して、品質、納期、コスト、安全、人材育成を学ぶことのできる貴重な産業であると説いている。「強い、やさしい、おもしろい」をCSR活動の根幹と位置づけ、工員教育、マネジメント教育などの人材育成に大きく寄与し、これらの活動が、職員、工員の退職率の低減に成功してきたことは、長年人づくりを大切にしてきた証と言えよう。
- ④東洋紡の持田充氏からは、「130年を紡ぐ品質文化について」と題して執筆いただいた。企業理念である「順理則裕」を背景に、歴史を踏まえたグローバル対応、人材育成の視点から紹介いただいた。同社は'50年にQC教育を開始、いち早く統計的品質管理(SQC)を導入し、'55年ブラジルサンパウロに戦後の日本繊維業界初の現地製造会社を設立している。5S、QCといった日本流の改善活動を行ってきた歴史的背景を紹介した後、グローバル時代になり、「QA体系」を見直し、お客様のニーズは常に変化し、QA体系は常に動いているという認識から、お客様のニーズ(Q)をつかむことがとても重要であると述べている。さらに、海外のお客様のニーズに応えるために、CAEシステムを活用し、海外のお客さまのニーズをつかみ、積極的な提案を行ってきた事例を紹介している。CAEにより、長年の成形加工シミュレーションの技術開発で培ったノウハウを応用し、プラスチック製品の設計や成形加工の問題をコンピュータ上で解決している。お客様の「うれしさ」への提案、追求を徹底している事例を紹介いただいた。人材育成に関しては、現場をまとめていく「ミドルリーダー」に焦点を当て、人材育成活動を強化している。ここでも、企業理念、QA体系を意識した活動が行われている点は、大いに参考になる。
おわりに
本号の特集記事では、執筆者の海外現地での実体験に基づいた貴重な考え方や事例を紹介いただいた。共通して感じることは、現地の人の立場に立って、人材育成が行われていることである。お互いが信頼関係を築くことにより、海外現地に合った改善活動を進めることが可能になる。人づくりの大切さを改めて痛感させられる。急激な環境変化を続けるグローバル経済のなかで、本号の特集内容が、新たな改善活動への取り組みのヒントになれば幸いである。
永田 嘉和/企画担当編集委員
【論壇】改善(KAIZEN)活動の海外展開
今回の論壇は、「改善(KAIZEN)活動の海外展開」というタイトルで、早稲田大学大学院商学研究科藤田精一教授に寄稿いただいた。国際機関や財団法人の要請を受けて数多く海外で現地指導した活動を背景に、「改善はなぜ必要か」を問い、現場力をキーワードに経験談を交えながら、分かりやすく説いていただいた。「海外文化の違いへの対処法」、「5S活動の導入法」、「改善提案制度の課題」など、日本人スタッフが必ずや直面する問題を解説した上で、改めて最後に、「改善とは何か?」と読者に投げかけているところは、大いに考えさせられる内容である。
【ケース・スタディ】改善活動を海外現地法人で進めるために
ダイワ・ベトナム・リミテッドの岩間伸一氏からは、「改善活動を海外現地法人で進めるために」と題して執筆いただいた。操業後一年弱経った2007年にベトナム工場に社長として赴任された経験を基に、現地工場に導入した制度を分かりやすく具体的に説明していただいた。企業を永続的に発展させるには、従業員、会社、そして顧客との長期的な信頼関係を構築することが大切であると説いている。従業員満足の活動では、「日本の企業はどうして成長することができたのか?」、「日本の高度成長期に先駆者や自分たちが何をしたのか?」を念頭に置き、職場対応の運動会からスタートして、チームワークやリーダーシップを職場に根づかせた改善活動を進めている。一定以上のノルマをこなせる従業員を「ハイスピードワーカー」、作業を教えることのできるスタッフを「トレーナー」と呼び、給与に反映させた活動や、信賞必罰の観点から「イエローカード制度」、「ブラックテナント制度」も導入されている。日本での過去の企業風土作りをベトナムで実践し、現地の風土・習慣に適用した教育やシステムを考えることで、ボトムアップの自主的な改善風土作りが可能であると説いている。
【ケース・スタディ】米国で改善活動を軌道に乗せる方法
新日鐵住金の髙岡純一氏からは、「米国で改善活動を軌道に乗せる方法」と題して執筆いただいた。現在、米国第一の型鍛造クランク素材製造会社へと成長した子会社で、技術・操業部門のトップとして経験された改善活動、人材育成方法を紹介していただいた。アメリカにおける特殊な労使関係に対応しながら、世界的な潮流とは逆に「日本独特の(終身雇用制を基本とした)労使関係」が正しいと指摘している。活動を上手く進めるためには、現地人から見たら「得体の知れない日本人」を信用してもらうことが大切で、コミュニケーションの重要性を説いている。自主改善活動の初期段階では、安全に関する小集団活動が有効であること、経営側が望む「利益」を出す改善活動では、改善を進める前に自分の仕事がどのようになるかを具体的に、改善の先に良い結果が待っていることを理解してもらうように説明することの重要性を紹介している。また、随所に現地のメンバーとの接し方において、注意すべき点を具体的にあげていただき、読者にとって大いに参考になるケースである。
【ケース・スタディ】中国生産拠点における人づくり
富士ゼロックス深圳の岡地俊彦氏からは、「中国生産拠点における人づくり」と題して執筆いただいた。長年、人事業務関係に携われ、いろいろな国の人々と「仕事・能力・報酬」をめぐり、机上での理論中心ではなく、現実にどうするのかという現場中心で仕事をしてきた経験から事例を紹介いただいた。同氏は、「人はなぜ働くのか?」という本質的な命題に長年取り組まれてきている。新興国での労務管理において、その概念をCSRにおきかえられていることは興味深い。CSRの概念を持った労務管理が求められていることを説明していただいた。また、製造業は、多くの人々に安定した雇用を生み出し、その雇用能力がその国の経済に与える影響が大きく、仕事を通して、品質、納期、コスト、安全、人材育成を学ぶことのできる貴重な産業であると説いている。「強い、やさしい、おもしろい」をCSR活動の根幹と位置づけ、工員教育、マネジメント教育などの人材育成に大きく寄与し、これらの活動が、職員、工員の退職率の低減に成功してきたことは、長年人づくりを大切にしてきた証と言えよう。
【ケース・スタディ】130年を紡ぐ品質文化について
東洋紡の持田充氏からは、「130年を紡ぐ品質文化について」と題して執筆いただいた。企業理念である「順理則裕」を背景に、歴史を踏まえたグローバル対応、人材育成の視点から紹介いただいた。同社は’50年にQC教育を開始、いち早く統計的品質管理(SQC)を導入し、’55年ブラジルサンパウロに戦後の日本繊維業界初の現地製造会社を設立している。5S、QCといった日本流の改善活動を行ってきた歴史的背景を紹介した後、グローバル時代になり、「QA体系」を見直し、お客様のニーズは常に変化し、QA体系は常に動いているという認識から、お客様のニーズ(Q)をつかむことがとても重要であると述べている。さらに、海外のお客様のニーズに応えるために、CAEシステムを活用し、海外のお客さまのニーズをつかみ、積極的な提案を行ってきた事例を紹介している。CAEにより、長年の成形加工シミュレーションの技術開発で培ったノウハウを応用し、プラスチック製品の設計や成形加工の問題をコンピュータ上で解決している。お客様の「うれしさ」への提案、追求を徹底している事例を紹介いただいた。人材育成に関しては、現場をまとめていく「ミドルリーダー」に焦点を当て、人材育成活動を強化している。ここでも、企業理念、QA体系を意識した活動が行われている点は、大いに参考になる。