わが社の自前設備
2015年8月 / 291号 / 発行:2015年8月1日
目次
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巻頭言
ものづくり力の強化
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特集テーマのねらい(特集記事)
わが社の自前設備
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論壇(特集記事)
「自前化」に挑戦!
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ケース・スタディ(特集記事)
航空機産業参入にあたり
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ケース・スタディ(特集記事)
衛生陶器製造工程のものづくり革新活動
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ケース・スタディ(特集記事)
現場改善型「自前化」
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連載講座
基礎から学ぶ図面の読み方[Ⅳ]
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会社探訪
世界一の顧客価値の実現 KMS(黒崎播磨ものづくりシステム)活動-黒崎播磨(株)-
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現場改善
ラインカンパニー制による儲ける現場づくり
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コラム(86)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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編集後記
本テーマを取り上げた背景
最近は円安が進み、輸出比率が高い大手製造業は高収益を上げているものの、すでに多くの企業において海外生産が進み、当初期待されたような輸出全体の伸びは見られず、また中小の製造業まで円安・低金利の恩恵が行き渡っていない、あるいは海外調達品の原材料コストが上がり経営を圧迫していると言われています。
もう少しさかのぼって過去を見ると、円高不況に苦しんでいた時期もありました。このように、その時々の経営環境に企業業績が左右される面は否めませんが、そもそもモノづくり企業間で競争力の差が生じる要因としてどのようなことが考えられるのでしょうか?
これには製品の機能・品質・デザインなど「モノ」に関する要因や製造ノウハウ、生産方式、生産管理などのような「ツクリ」に関する要因など多くのことが考えられますが、大きな要因のひとつとして、モノづくりの道具である設備や治工具・ソフトウェアを単に汎用品を購入したり外部業者に製作してもらうのではなく、自前でノウハウが盛り込まれたもの、付加価値の高いものを製作することができて戦力になっているか否かがあるのではないでしょうか?
そこで本特集号では、「わが社の自前設備」と題して、自前で設備や治工具、ソフトウェアを開発・改善することによって競争力で優位に立ち会社が活性化している事例、および設備自前化にいたった経緯や自前化のメリットなどを紹介することにより、日本企業のさらなるグローバル競争力の向上へつながるひとつのヒントにできないかと考えました。
ねらい
本特集は設備・治工具やソフトウェアの自前による開発を対象としています。
これらを自前で開発することの意義としては、次のようなことが考えられます。
第1にノウハウが盛り込まれた贅肉のない優れた設備をコンカレントに開発することにより、他社と差別化が図れることです。この差別化はツクリに留まらず製品の差別化にもつながると考えられます。
第2に技術の流失防止と改善対応力の向上です。自前で設備を開発することにより、社外への技術の流失防止と新たなノウハウの蓄積、さらに設備を使い込むなかで設備の改善(進化)が容易になる点が考えられます。
第3に自前で設備を製作するので設備費が安価になることです。ただし、必ずしも社内ですべての設備を内製するのではなく、社内のマンパワーや優先度を考慮し外部業者とのすみ分けが必要だと考えます。
第4に設備保全が容易になる点が考えられます。自前の設備なのでブラックボックスがなく、予防保全や改良保全が容易になると思われます。
本特集号の発行にあたり、次のような切り口での執筆をお願いいたしました。
- (1) 設備を自前で製作するようになった経緯。
- (2) 自前設備にこだわる理由は何か? 自前設備のメリット(IE的メリットを含む)をどのように考えているか?
- (3) 付加価値が高い設備、現場が使いやすい設備、メンテナンスが容易な設備開発のために苦労した点、工夫した点は何か?
- (4) 自前化のための人材をどのように育成しているか?
記事について
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論壇
今回の論壇は、天川一彦氏に「『自前化』に挑戦!」と題して執筆いただきました。
設備・機械自前化の意義と日本の製造業の業種別設備・機械の特徴と課題、および人材の変化を俯瞰した上での自前化実践への考え方が熱く語られています。
「自前化」をするためには、何よりもまず現場をよく観察することの大切さが説かれています。現場をよく観察することは設備・機械の設計思想や機能思想を見つめることであり、そこから現状に対して疑問が湧いてきて、次はこのように改善したいというアイデアが湧き、設計・実機化というPDCAが回る。この自前化の行動こそがモノづくり競争力の原点であり、こうすることで多くの成果を得ることができると語られています。そして、自前化は1人ですべてを実施するのではなく、製造運転部門や生産技術部門、設備部門などがチームを組んで実行することが大切であり、このチーム力が日本の強みであるとも言われています。
また、からくり、および自分たちの職場で困っていることについて、自分たちで設計・製作し、現場に持ち帰る「道場」による自前化の実現と人材育成についても紹介いただいています。 -
ケース・スタディ
- ①タジマの田島佳典氏には「航空機産業参入にあたり」と題して執筆いただきました。
同社は、創業以来さまざまな業界の製品・部品を製造するなかで技術を蓄えてきました。現在では、高精度とスピードが要求される半導体製造装置業界や薄肉、高精度の難削材が多い航空機業界からの部品製作を行っています。
本稿では、設備の環境整備や治具の工夫による断続切削の未然防止など、現場目線を大切にした同社の航空機産業用部品加工の取り組みについて、苦労話を交え紹介いただいています。 - ②TOTOの重藤博司氏に「衛生陶器製造工程のものづくり革新活動」と題して執筆いただきました。
これまで、匠の技(暗黙知)で個々人が長年の経験を元に試作と評価を繰り返してきた衛生陶器開発プロセスを、基礎実験データを積み上げたCAE技術を使ってメカニズムを解明し標準化(形式知化)することにより、新商品開発期間の短縮、コストダウンを図るものづくり革新の取り組みについて紹介いただきました。
多品種少量化、商品ライフサイクルの短期化、これまで、ものづくりを支えてきたベテラン社員の大量退職などが進むなかで、CAE技術による新商品開発期間の短縮、コストダウンは製品設計だけでなく、衛生陶器乾燥工程における乾燥室設計のような設備設計への寄与度も大きいと考えられ、今後ものづくりにおいて、ますます大きな役割を果たしていくものと思われます。 - ③富士ゼロックスの丸山和雄氏に「現場改善型『自前化』」と題してボトムアップ型アプローチによる自前化について執筆いただきました。
自前化のメリットであるQCD競争力を優位にするためには、QCDの考え方を再発防止から未然防止へのQ、原価改善から付加価値創出へのC、納期調整からキャパ創出へのDへと進化させて、本質的な課題、潜在的な課題が将来顕在化しないような設備に仕上げることが大切であると説かれています。
このためには、変化の前の状態が変化の後の状態になるために加えられる真の付加価値に着目し、設備を動作レベルで見える化し、徹底した数秒単位の付加価値分析に基づく改善が不可欠であること、これを全員参加のようなチーム力で実施することの大切さが説かれています。
こうすることで柔軟な工程設計が可能になり、失敗しない自前化へとつながることを論じていただいています。
- ①タジマの田島佳典氏には「航空機産業参入にあたり」と題して執筆いただきました。
おわりに
今回の特集に寄稿していただいた皆様から、人材育成を含めた自前化の取り組みによるモノづくりへの熱い思いが伝わってきました。
特集記事から、自前化には現場をよく観察し徹底分析することが大事であり、そこから付加価値に着目した自前化のアイデアへとつながるということや、チームワークが大切であることがわかりました。
また、新たなモノづくり技術を取り入れた自前設備・ソフトウェアによる新製品を開発するためには、まず要素技術開発が必要であり、技術的な難易度が高いほど開発に苦労が多く、当初設定した開発スケジュールから遅れる場合が多いのも世の中の実態だと思います。
自前設備をバランスの取れた優れたものに仕上げ、モノづくりの大きな力とするためには、固有技術と管理技術の両面からのアプローチが重要であると考えます。
日本の製造業が厳しいグローバル競争に勝ち抜くためには、日本人の粘り強さ、勤勉さ、チームワークをもって、これらの課題に立ち向かっていく必要があると思います。
本号の特集記事が読者の皆様の参考になれば幸いです。
【論壇】「自前化」に挑戦!
今回の論壇は、天川一彦氏に「『自前化』に挑戦!」と題して執筆いただきました。
設備・機械自前化の意義と日本の製造業の業種別設備・機械の特徴と課題、および人材の変化を俯瞰した上での自前化実践への考え方が熱く語られています。
「自前化」をするためには、何よりもまず現場をよく観察することの大切さが説かれています。現場をよく観察することは設備・機械の設計思想や機能思想を見つめることであり、そこから現状に対して疑問が湧いてきて、次はこのように改善したいというアイデアが湧き、設計・実機化というPDCAが回る。この自前化の行動こそがモノづくり競争力の原点であり、こうすることで多くの成果を得ることができると語られています。そして、自前化は1人ですべてを実施するのではなく、製造運転部門や生産技術部門、設備部門などがチームを組んで実行することが大切であり、このチーム力が日本の強みであるとも言われています。
また、からくり、および自分たちの職場で困っていることについて、自分たちで設計・製作し、現場に持ち帰る「道場」による自前化の実現と人材育成についても紹介いただいています。
【ケース・スタディ】航空機産業参入にあたり
タジマの田島佳典氏には「航空機産業参入にあたり」と題して執筆いただきました。
同社は、創業以来さまざまな業界の製品・部品を製造するなかで技術を蓄えてきました。現在では、高精度とスピードが要求される半導体製造装置業界や薄肉、高精度の難削材が多い航空機業界からの部品製作を行っています。
本稿では、設備の環境整備や治具の工夫による断続切削の未然防止など、現場目線を大切にした同社の航空機産業用部品加工の取り組みについて、苦労話を交え紹介いただいています。
【ケース・スタディ】衛生陶器製造工程のものづくり革新活動
TOTOの重藤博司氏に「衛生陶器製造工程のものづくり革新活動」と題して執筆いただきました。
これまで、匠の技(暗黙知)で個々人が長年の経験を元に試作と評価を繰り返してきた衛生陶器開発プロセスを、基礎実験データを積み上げたCAE技術を使ってメカニズムを解明し標準化(形式知化)することにより、新商品開発期間の短縮、コストダウンを図るものづくり革新の取り組みについて紹介いただきました。
多品種少量化、商品ライフサイクルの短期化、これまで、ものづくりを支えてきたベテラン社員の大量退職などが進むなかで、CAE技術による新商品開発期間の短縮、コストダウンは製品設計だけでなく、衛生陶器乾燥工程における乾燥室設計のような設備設計への寄与度も大きいと考えられ、今後ものづくりにおいて、ますます大きな役割を果たしていくものと思われます。
【ケース・スタディ】現場改善型「自前化」
富士ゼロックスの丸山和雄氏に「現場改善型『自前化』」と題してボトムアップ型アプローチによる自前化について執筆いただきました。
自前化のメリットであるQCD競争力を優位にするためには、QCDの考え方を再発防止から未然防止へのQ、原価改善から付加価値創出へのC、納期調整からキャパ創出へのDへと進化させて、本質的な課題、潜在的な課題が将来顕在化しないような設備に仕上げることが大切であると説かれています。
このためには、変化の前の状態が変化の後の状態になるために加えられる真の付加価値に着目し、設備を動作レベルで見える化し、徹底した数秒単位の付加価値分析に基づく改善が不可欠であること、これを全員参加のようなチーム力で実施することの大切さが説かれています。
こうすることで柔軟な工程設計が可能になり、失敗しない自前化へとつながることを論じていただいています。