モノづくりにおける女性視点の活用
2015年12月 / 293号 / 発行:2015年12月1日
目次
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巻頭言
「働きがい」のある会社づくりをめざして
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特集テーマのねらい(特集記事)
モノづくりにおける女性視点の活用
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論壇(特集記事)
ものづくり産業における女性の活用実態と課題
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ケース・スタディ(特集記事)
繊細な心配りと粘り強さでグローバルに活躍する女性IEr
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ケース・スタディ(特集記事)
女性が活躍できる職場環境づくり
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ケース・スタディ(特集記事)
タイのダイバーシティとして
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プリズム(特集記事)
女性の背中を押す上司とは?
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会社探訪
ジェンダー・ダイバーシティを超えて-(株)光機械製作所-
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会社探訪
生産性改善活動の取り組みと人材育成-NECトーキン(株) 白石事業所-
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コラム(88)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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編集後記
特集テーマのねらい
男女雇用機会均等法が制定されたのは1985年、それから30年を迎えます。その時期に新卒で入社した若者も今では50代半ばで企業の中核として働いています。その後、1994年に男女共同参画室(現在の男女共同参画局)が設置され、女性の社会進出は国をあげて重要施策として推進されてきました。また、安倍総理は成長戦略の一環として「女性が輝く日本へ」ということを強く主張されています。
ところが製造業の就業者に占める女性比率をみると、過去20年間以上一貫して低下傾向にあります。全体として解消しつつあるM字カーブに対して、製造業における女性労働者は、絶対数でみても比率でみても、ともに減少傾向を辿ってきています。その理由は長期にわたる新卒採用の抑制です。女性の方がもともと離職率が高いため、当然女性比率は低下します。製造業全体でみれば、主に「自己都合」によって離職した女性社員によって減った分を過去20年間、新卒採用や復職によって十分に補充するような人事方針は採られてきませんでした。昨今、現在1割前後とされる女性の管理職比率を欧米先進諸国並みに引き上げようとのイニシアティブが官民で高まっていますが、その反面「適格者がいない」との声が聞かれることが多いのも事実です。製造業に限れば「適格者が不足」する状況に至った理由は、そもそも女性管理職候補の母集団を過去20年間以上製造業が業界全体として育ててこなかったことが原因なのですから、当然の結果ともいえるのではないでしょうか。
そのような製造業の中でも、IEr、製造現場の管理者における女性の比率となると、ほとんど「誤差の範囲」といっていいほど少ないのが実態です。しかし、IErは製造にかかわるあらゆる機能に目配りをし、突発的な事象に柔軟に対応していくといった資質が重要であり、女性の特性にマッチしているのではないだろうかと感じています。また、現実社会とはかい離した男性のみの視点で運営されている現場に、女性の視点は新しいイノベーションをもたらすとも考えられます。ダイバーシティ推進の効果に関する報告書では、「女性の活躍推進が進む企業ほど経営指標がよく、株式市場での評価も高まる」といったことが盛んに論じられています。
そこで、今まで男性中心だった職場に女性を迎え入れることで職場を活性化したり、女性視点のモノづくりを進めることで生産性向上に結びつけた事例などを紹介し、女性視点がもたらす大きな可能性を理解していただき、活躍の場のさらなる拡大を応援したいと考え本特集を企画しました。
記事構成
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論壇
独立行政法人労働政策研究・研修機構の郡司正人氏に「ものづくり産業における女性の活用実態と課題」と題して執筆いただきました。郡司氏はモノづくり産業の人材確保・育成に関する調査を数年にわたって手掛けられ、その豊富なデータを紹介しながら、実態と課題を整理されています。
いくつかのアンケート結果より、女性技能者の活用においては、「女性は軽作業しかできない」といった思い込みを変える意識改革が必要と指摘されており、従来の仕事を単に置き換えるのではなく、女性を中心とした新しい仕事や役割を創造するという取り組みが企業のパフォーマンス向上によい刺激を与えるとされています。
今後ますます進む超高齢化社会を迎えるにあたって、女性の活用は喫緊の課題です。すぐそこに要員確保の問題が差し迫っている今日、単に就業人口の減少を補うといった「頭数」的発想ではなく、女性の持つ可能性に着目し、価値観の多様性が生産活動に与えるプラス効果を積極的に取入れたものづくり人材の戦略的な育成がキーであるという「発想の転換」が、まずマネジメントを担う男性諸氏には必要であるということが読み取れるのではないでしょうか。
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ケース・スタディ
- ①ブラザー工業の今井達二氏に「繊細な心配りと粘り強さでグローバルに活躍する女性IEr」と題して執筆いただきました。
ブラザー工業では、グローバルな生産体制への移行にともない、多様な人材の活用を積極的に進めてきました。特に国内の女性社員の活躍を、制度の確立と風土の醸成の両面から推し進めています。その中で、女性IErとして活躍する4名の方の生の声がインタビューとしてまとめられています。
四者四様、様々な取り組みでキャリアを積まれてきたわけですが、会社の両立支援制度や施策だけに依存するのではなく、現場での体験にそれぞれの個性を駆使しながらIEを上手に活用されている姿がとても印象的なケースとなっています。 - ②万協製薬の松浦信男氏・木村真吾氏・服部美穂氏には、「女性が活躍できる職場環境づくり~社員が明日も来たくなる会社創り~」と題して執筆いただきました。
万協製薬では、1996年に三重県に工場を移転した時から、多様性を素直に受け入れることのできる組織作りに取り組まれ、結果として従業員の約半数が女性、課長以上の幹部も40%が女性といった女性が活躍できる職場を確立されています。
その組織作りのプロセスで、女性活用という枠をこえて、全社員1人1人の個性を活かし、多様性を維持して全社員が活躍できる組織作りが、ますます拡大するグローバル化の波を乗り越えるためのキーワードであることを示唆しています。 - ③カルソニックカンセイの高崎浩美氏には「タイのダイバーシティとして」と題して執筆いただきました。
本稿は女性として初めてタイの工場長になられた高崎氏の経験を中心にまとめられています。「真のダイバーシティとは製造現場においても当たり前に女性管理職がいることだ」という会社の強い想いを受け止められて成功事例を築き、それを次の世代に伝え、グローバルの生産現場における女性管理職を育成するという目標に取り組んでおられます。
そう書くとタフなスーパーウーマンがたまたま運に恵まれただけではないかと考える方も多いかと思いますが、本稿の中で高崎氏も述べられているように、会社が長い年月をかけ、意思をもって人を育てていくことの重要性を感じ取ることができます。
- ①ブラザー工業の今井達二氏に「繊細な心配りと粘り強さでグローバルに活躍する女性IEr」と題して執筆いただきました。
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プリズム
産業能率大学の荒木淳子氏に「女性の背中を押す上司とは?」と題して執筆いただきました。
女性活躍を推進する上司のモデルとして社会的に注目されている「イクボス」について解説していただき、多様性を活かせる組織作りのための上司のマネジメントの在り方についてまとめていただきました。
まとめ
「初めての女性管理職」等々、男女雇用機会均等法制定以降、よく見聞きする言葉です。一時的にマスコミに取り上げられる一種の宣伝のように受け止められることが多いのですが、今回、紹介したようにモノづくりの現場においても着実に女性の活躍の場は広がり、成果をあげつつあります。そしてそれが、単に「人手不足の解消」といったことにとどまらず、グローバル化への対応や閉塞感の強い現場をブレイクスルーする力につながっていることに気づいていただけましたでしょうか。
今回3つのケース・スタディに登場する女性IErたちは共通して、「現場で学んだことが武器となった」と述べています。従来の男性IEr育成だけでなく、女性の活用やダイバーシティへの取り組みにおいても、現場における地道な人材育成とマネージャーの強い想いが重要であるということが分かります。モノづくりの原点は現場にあり、その現場において、女性も含めた多様な視点を柔軟に取入れていくマネジメントが問われているのではないでしょうか。
あなたの職場に「イクボス」はいるでしょうか?
【参考文献】
[1] 「ニッポンの製造業から消えた400万人労働者の行方「高まる女性の労働参加率」の裏側」
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20140430/263594/)
[2] 「ダイバーシティと女性活躍の推進~グローバル化時代の人材戦略~」
(http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120301003/20120301003-2.pdf)
【論壇】 ものづくり産業における女性の活用実態と課題
独立行政法人労働政策研究・研修機構の郡司正人氏に「ものづくり産業における女性の活用実態と課題」と題して執筆いただきました。郡司氏はモノづくり産業の人材確保・育成に関する調査を数年にわたって手掛けられ、その豊富なデータを紹介しながら、実態と課題を整理されています。
いくつかのアンケート結果より、女性技能者の活用においては、「女性は軽作業しかできない」といった思い込みを変える意識改革が必要と指摘されており、従来の仕事を単に置き換えるのではなく、女性を中心とした新しい仕事や役割を創造するという取り組みが企業のパフォーマンス向上によい刺激を与えるとされています。
今後ますます進む超高齢化社会を迎えるにあたって、女性の活用は喫緊の課題です。すぐそこに要員確保の問題が差し迫っている今日、単に就業人口の減少を補うといった「頭数」的発想ではなく、女性の持つ可能性に着目し、価値観の多様性が生産活動に与えるプラス効果を積極的に取入れたものづくり人材の戦略的な育成がキーであるという「発想の転換」が、まずマネジメントを担う男性諸氏には必要であるということが読み取れるのではないでしょうか。
【ケース・スタディ】 繊細な心配りと粘り強さでグローバルに活躍する女性IEr
ブラザー工業の今井達二氏に「繊細な心配りと粘り強さでグローバルに活躍する女性IEr」と題して執筆いただきました。
ブラザー工業では、グローバルな生産体制への移行にともない、多様な人材の活用を積極的に進めてきました。特に国内の女性社員の活躍を、制度の確立と風土の醸成の両面から推し進めています。その中で、女性IErとして活躍する4名の方の生の声がインタビューとしてまとめられています。
四者四様、様々な取り組みでキャリアを積まれてきたわけですが、会社の両立支援制度や施策だけに依存するのではなく、現場での体験にそれぞれの個性を駆使しながらIEを上手に活用されている姿がとても印象的なケースとなっています。
【ケース・スタディ】 女性が活躍できる職場環境づくり ~社員が明日も来たくなる会社創り~
万協製薬の松浦信男氏・木村真吾氏・服部美穂氏には、「女性が活躍できる職場環境づくり~社員が明日も来たくなる会社創り~」と題して執筆いただきました。
万協製薬では、1996年に三重県に工場を移転した時から、多様性を素直に受け入れることのできる組織作りに取り組まれ、結果として従業員の約半数が女性、課長以上の幹部も40%が女性といった女性が活躍できる職場を確立されています。
その組織作りのプロセスで、女性活用という枠をこえて、全社員1人1人の個性を活かし、多様性を維持して全社員が活躍できる組織作りが、ますます拡大するグローバル化の波を乗り越えるためのキーワードであることを示唆しています。
【ケース・スタディ】 タイのダイバーシティとして
カルソニックカンセイの高崎浩美氏には「タイのダイバーシティとして」と題して執筆いただきました。
本稿は女性として初めてタイの工場長になられた高崎氏の経験を中心にまとめられています。「真のダイバーシティとは製造現場においても当たり前に女性管理職がいることだ」という会社の強い想いを受け止められて成功事例を築き、それを次の世代に伝え、グローバルの生産現場における女性管理職を育成するという目標に取り組んでおられます。
そう書くとタフなスーパーウーマンがたまたま運に恵まれただけではないかと考える方も多いかと思いますが、本稿の中で高崎氏も述べられているように、会社が長い年月をかけ、意思をもって人を育てていくことの重要性を感じ取ることができます。
【プリズム】 女性の背中を押す上司とは?
産業能率大学の荒木淳子氏に「女性の背中を押す上司とは?」と題して執筆いただきました。
女性活躍を推進する上司のモデルとして社会的に注目されている「イクボス」について解説していただき、多様性を活かせる組織作りのための上司のマネジメントの在り方についてまとめていただきました。