女性が輝く現場から
2017年8月 / 301号 / 発行:2017年8月1日
目次
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巻頭言
グローバル生産革新活動
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特集テーマのねらい(特集記事)
女性が輝く現場から
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論壇(特集記事)
ものづくり女性のキャリア開発
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ケース・スタディ(特集記事)
女性が輝ける職場づくり
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ケース・スタディ(特集記事)
「サイベックなでしこ」による社員が幸せに働ける会社創りへの取り組み
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プリズム(特集記事)
女性の活躍推進について
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会社探訪
持続可能な発展に貢献するパワーデバイス製作-三菱電機(株) パワーデバイス製作所(福岡)-
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会社探訪
積極経営をサポートする改善活動-(株)ナカシマ本社/姫路物流センター-
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現場改善
最適な切削工具生産の仕組みつくり
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テクニカル・ノート
全体最適のマネジメント理論TOC
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レポート
第58回 全国IE年次大会レポート
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レポート
産学連携研究交流会 分科会2「改善マネジメントのための人財育成」開催レポート
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コラム(96)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
モノづくりの現場は、これまで男性が中心となって働き、男性が管理することが当たり前でした。しかし、現代の日本は学校・地域など様々なコミュニティにおいて広くダイバーシティが進み、特に企業内では多様な人材を活用していくことが求められています。また、働き方改革やワーク・ライフ・バランスを進めていく上では、女性の視点を取り入れた活動が大切になっています。
本号では、そうした社会的ニーズを踏まえつつ、現場で女性が活躍している事例を取り上げ、その活動から得られるヒントやサポートの仕組みを探りたいと考えています。例えば、重量物を持ち上げる作業を治具やカラクリでサポートする改善は、実は女性が働きやすい現場を作るだけでなく、男性作業者の負荷も軽減することになります。ITシステムの計画や運用では、女性の細やかな視点が活かされる事例が数多く見られます。
昨今の女性活躍推進の掛け声に押されて「女性の活躍支援をどのように行ったらよいか」からスタートしている活動の中に、男女を問わずどのように働きやすさと生産性の向上を両立させていくかという課題に対する問題解決のヒントが存在しているように思われます。「女性が輝くことのできる現場」は「すべての人が輝くことのできる現場」なのではないでしょうか。
そこで今回の企画では、現場の改善活動や小集団活動において、中心的に活躍している女性たちの活動とそれを支援する会社のしくみを紹介し、ものづくり女子の活躍をサポートすると同時に、これからのIEの普及に必要な視点を探りたいと考えています。
記事構成
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論壇
論壇は、「ものづくり女性のキャリア開発~女性ラインリーダーの育成~」というテーマで、神奈川大学の浅海典子先生に執筆いただきました。浅海先生は、製造業における女性管理・監督職の育成とキャリア開発について研究されています。
最初に製造業における女性の就業実態をデータで示されています。製造業で働く女性の職種のうち、最も就業人数が多いものが生産工程です。しかし、管理・監督職の割合が少なく、製造業は質的な意味での女性活躍が遅れている産業であることが明らかになっています。
次に、モノづくり現場で管理・監督職に就いている30人以上の女性とその上司・部門長へのインタビュー調査の結果から現場における女性リーダーの仕事と役割についてまとめられています。そして、この調査をもとに、女性リーダーのキャリアパターンが「継続キャリア」と「セカンドキャリア」の2つに分類することができるなど、女性リーダーのキャリアパスとそれに必要な職務体験についてまとめられています。
また、女性リーダーの上司・部門長に対するインタビューから、登用の促進要因についても言及されています。女性が活躍できる職場づくりには、会社全体が明確な方針をはっきりと打ち出すことと、男女という固定概念にとらわれず、本人の能力に対する期待を明確に伝えることが重要であると指摘されています。
最後に、モノづくり現場において女性がラインリーダーとして活躍することは、組織の活性化に大きく貢献すると強調されています。そのためにやるべきことがいくつかまとめられており、それが、製造業の未来に大きく貢献することが期待できるとまとめられています。人手不足や工場の海外移転による空洞化など、厳しい環境変化にさらされている製造業において、次の世代を活性化するためにも女性が輝ける職場づくりが大切であると結ばれています。 -
ケース・スタディ
- ①ヤンマー建機の國末千尋氏に、「女性が輝ける職場づくり~女性ならではの視点を活かして~」というテーマでまとめていただきました。
ヤンマー建機では、生産部内における女性比率がわずか6%というのが現状です。そのような環境ですが、今後女性の力も十分に発揮できる職場にするために、環境改善や福利厚生の充実だけでなく、新人教育や研修形態の見直しなどにも取り組まれています。
それらの取り組みの中で、特徴的なものとして製造品質管理への女性起用が挙げられています。そして、実際に女性初の検査員として活躍している2名のインタビューがまとめられています。インタビューをする側も工場内の改善推進を担当する数少ない女性(この記事の筆者)ということもあり、形式にとらわれない、きめの細かいやり取りから、実際の現場における彼女たちの活躍のすばらしさを感じることができます。
この2名は、論壇の中で指摘されている「継続キャリア」と「セカンドキャリア」の異なるキャリアを持った方々です。担当している職場も、年齢も異なっていますが、それぞれの職場で肩肘をはらずに自分らしさ(女性らしさ)を十分に発揮されて仕事に取り組まれている様子がすがすがしく感じられました。そして、それを可能にする職場には「共に創る」という姿勢が重要であるという最後の言葉がとても印象的でした。 - ②サイベックコーポレーションの平林巧造氏に、「『サイベックなでしこ』による社員が幸せに働ける会社創りへの取り組み」というテーマで執筆いただきました。
サイベックコーポレーションは1973年に金型開発・設計およびプレス加工を行うメーカーとして創業された会社です。従来は男性中心の会社で女性が働く職場とは無縁だったのですが、現在は女性比率が16%と増加しています。なぜ、このように女性比率が増加したか、またそのために経営者がどのようなしかけをしたかが語られています。
最初はそれぞれの部署ごとに、どのようにすれば女性が働きやすい環境を作ることができるかを1つずつ検討して、1名ずつ女性社員を増やしてきました。その取り組みが各部署に行き渡ったところで、「なでしこ事務局」が立ち上がりました。経営者自らが、「これからの日本は女性の時代だ」と確信し、それを社内に浸透させるために全女性社員を一堂に集める組織をつくったのです。最初は「女性目線の5S実施」、次に「会社参観日の企画」「将来働き続けたいと思うような会社規定の作成」と新しい企画を次々に任せていきました。これらはいずれも男性中心で当たり前だと考えられていたしくみを女性社員が主体となって変えていったプロジェクトです。その結果、社内の雰囲気をも変え、「職場いきいきカンパニー」の表彰を受けるなど大きな成果をもたらしました。
同社の取り組みは「女性が活躍できる」ということが前面にでていますが、根底には「社員全員が活躍できる会社づくり」という経営者の信念が感じられます。まさに、女性が輝く職場は社員全員が輝く職場につながっていると感じられる特集事例です。
- ①ヤンマー建機の國末千尋氏に、「女性が輝ける職場づくり~女性ならではの視点を活かして~」というテーマでまとめていただきました。
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プリズム
埼玉県産業労働部の岡本恒平氏に「女性の活躍推進について」を執筆いただきました。ここでは、埼玉県版ウーマノミクスの具体的な取り組みが紹介されています。
「ウーマノミクス」とは、「ウーマン(女性)」+「エコノミクス(経済)」を組み合わせた造語で、女性の活躍による経済の活性化を意味します。埼玉県では「ウーマノミクス課」を設置し、働きやすい環境の整備、女性の就業・企業支援、消費・投資拡大情報発信などを行い、積極的に女性活躍を後押ししています。全国でも珍しいこの取り組みの背景には、埼玉県では出産を機に離職する女性が多く、「30代女性の就業率は全国43位、一方で就業希望率が全国でも高い」という深刻な状況があったようです。これらを解決するために市民(特に女性)と企業の両方の声を聞き、両者を結びつける役割を行政が担う大切さが理解できました。
おわりに
本号の特集では、モノづくりの現場で女性活躍支援の取り組みを行い、大きな成果を出している企業を紹介しました。
これらの事例を通じて、女性が輝ける職場づくりとは女性だけのためにあるのではなく、働くすべての人が輝くことのできる職場づくり、すなわち「人づくり」なのだということを強く感じました。
【論壇】ものづくり女性のキャリア開発
論壇は、「ものづくり女性のキャリア開発~女性ラインリーダーの育成~」というテーマで、神奈川大学の浅海典子先生に執筆いただきました。浅海先生は、製造業における女性管理・監督職の育成とキャリア開発について研究されています。
最初に製造業における女性の就業実態をデータで示されています。製造業で働く女性の職種のうち、最も就業人数が多いものが生産工程です。しかし、管理・監督職の割合が少なく、製造業は質的な意味での女性活躍が遅れている産業であることが明らかになっています。
次に、モノづくり現場で管理・監督職に就いている30人以上の女性とその上司・部門長へのインタビュー調査の結果から現場における女性リーダーの仕事と役割についてまとめられています。そして、この調査をもとに、女性リーダーのキャリアパターンが「継続キャリア」と「セカンドキャリア」の2つに分類することができるなど、女性リーダーのキャリアパスとそれに必要な職務体験についてまとめられています。
また、女性リーダーの上司・部門長に対するインタビューから、登用の促進要因についても言及されています。女性が活躍できる職場づくりには、会社全体が明確な方針をはっきりと打ち出すことと、男女という固定概念にとらわれず、本人の能力に対する期待を明確に伝えることが重要であると指摘されています。
最後に、モノづくり現場において女性がラインリーダーとして活躍することは、組織の活性化に大きく貢献すると強調されています。そのためにやるべきことがいくつかまとめられており、それが、製造業の未来に大きく貢献することが期待できるとまとめられています。人手不足や工場の海外移転による空洞化など、厳しい環境変化にさらされている製造業において、次の世代を活性化するためにも女性が輝ける職場づくりが大切であると結ばれています。
【ケース・スタディ】女性が輝ける現場づくり
ヤンマー建機の國末千尋氏に、「女性が輝ける職場づくり~女性ならではの視点を活かして~」というテーマでまとめていただきました。
ヤンマー建機では、生産部内における女性比率がわずか6%というのが現状です。そのような環境ですが、今後女性の力も十分に発揮できる職場にするために、環境改善や福利厚生の充実だけでなく、新人教育や研修形態の見直しなどにも取り組まれています。
それらの取り組みの中で、特徴的なものとして製造品質管理への女性起用が挙げられています。そして、実際に女性初の検査員として活躍している2名のインタビューがまとめられています。インタビューをする側も工場内の改善推進を担当する数少ない女性(この記事の筆者)ということもあり、形式にとらわれない、きめの細かいやり取りから、実際の現場における彼女たちの活躍のすばらしさを感じることができます。
この2名は、論壇の中で指摘されている「継続キャリア」と「セカンドキャリア」の異なるキャリアを持った方々です。担当している職場も、年齢も異なっていますが、それぞれの職場で肩肘をはらずに自分らしさ(女性らしさ)を十分に発揮されて仕事に取り組まれている様子がすがすがしく感じられました。そして、それを可能にする職場には「共に創る」という姿勢が重要であるという最後の言葉がとても印象的でした。
【ケース・スタディ】「サイベックなでしこ」による社員が幸せに働ける会社創りへの取り組み
サイベックコーポレーションの平林巧造氏に、「『サイベックなでしこ』による社員が幸せに働ける会社創りへの取り組み」というテーマで執筆いただきました。
サイベックコーポレーションは1973年に金型開発・設計およびプレス加工を行うメーカーとして創業された会社です。従来は男性中心の会社で女性が働く職場とは無縁だったのですが、現在は女性比率が16%と増加しています。なぜ、このように女性比率が増加したか、またそのために経営者がどのようなしかけをしたかが語られています。
最初はそれぞれの部署ごとに、どのようにすれば女性が働きやすい環境を作ることができるかを1つずつ検討して、1名ずつ女性社員を増やしてきました。その取り組みが各部署に行き渡ったところで、「なでしこ事務局」が立ち上がりました。経営者自らが、「これからの日本は女性の時代だ」と確信し、それを社内に浸透させるために全女性社員を一堂に集める組織をつくったのです。最初は「女性目線の5S実施」、次に「会社参観日の企画」「将来働き続けたいと思うような会社規定の作成」と新しい企画を次々に任せていきました。これらはいずれも男性中心で当たり前だと考えられていたしくみを女性社員が主体となって変えていったプロジェクトです。その結果、社内の雰囲気をも変え、「職場いきいきカンパニー」の表彰を受けるなど大きな成果をもたらしました。
同社の取り組みは「女性が活躍できる」ということが前面にでていますが、根底には「社員全員が活躍できる会社づくり」という経営者の信念が感じられます。まさに、女性が輝く職場は社員全員が輝く職場につながっていると感じられる特集事例です。
【プリズム】女性の活躍推進について
埼玉県産業労働部の岡本恒平氏に「女性の活躍推進について」を執筆いただきました。ここでは、埼玉県版ウーマノミクスの具体的な取り組みが紹介されています。
「ウーマノミクス」とは、「ウーマン(女性)」+「エコノミクス(経済)」を組み合わせた造語で、女性の活躍による経済の活性化を意味します。埼玉県では「ウーマノミクス課」を設置し、働きやすい環境の整備、女性の就業・企業支援、消費・投資拡大情報発信などを行い、積極的に女性活躍を後押ししています。全国でも珍しいこの取り組みの背景には、埼玉県では出産を機に離職する女性が多く、「30代女性の就業率は全国43位、一方で就業希望率が全国でも高い」という深刻な状況があったようです。これらを解決するために市民(特に女性)と企業の両方の声を聞き、両者を結びつける役割を行政が担う大切さが理解できました。