現場・工場から元気をもらおう!
2018年8月 / 306号 / 発行:2018年8月1日
目次
-
巻頭言
未来につなげるものづくり
-
特集テーマのねらい(特集記事)
現場・工場から元気をもらおう!
-
論壇(特集記事)
現場・工場から元気をもらおう!
-
ケース・スタディ(特集記事)
「元気の出る工場」をめざして
-
ケース・スタディ(特集記事)
幸せの生産現場
-
ケース・スタディ(特集記事)
潜在労働力の活用にむけた取り組み
-
ケース・スタディ(特集記事)
ワーク・ライフ・バランス推進企業
-
ケース・スタディ(特集記事)
「モノの流れの整流化」による改善活動
-
連載講座
ものづくりにおけるプロジェクトマネジメントの手引書[Ⅲ]
-
連載講座
ものづくり生産現場の社会生産性[Ⅱ]
-
会社探訪
高品質への飽くなき探求-トヨタ自動車九州(株) 宮田工場-
-
現場改善
ボトルネック工程改善による生産性向上への取り組み
-
ビットバレーサロン
生産現場の女性たちや外国人の優れた改善事例
-
レポート
第3回 産学連携研究交流会(分科会1)「企業体質強化の視点」開催レポート
-
コラム(101)
-
協会ニュース
-
私のすすめる本
-
連携団体法人会員一覧
-
編集後記
特集テーマのねらい
近頃、製品品質の偽装問題など、製造企業にとって残念なニュースが続いている。日本の製造企業の競争力の源泉ともいわれた現場主義が最早空洞化してしまったとの論調さえ散見される。現在も素晴らしい現場がなくなってしまった訳ではないけれども、製造企業への信頼が揺らぐ中、高い現場力・改善力を持った企業が紹介される機会が減ってしまったように思われる。職場の創意がこもった現場を見る機会が明らかに減ってしまった。これらの背景には、海外の製造企業の台頭や、少子高齢化にともなう人材確保・技能伝承の問題など、国内の製造企業を取り巻く環境が一段と厳しいものとなっていることがあげられる。
本誌では、少なくとも年に1回は現場改善をテーマにした特集号を発刊しているが、今回の特集号では、このような今日の厳しい製造環境にあってもなお活気に満ちた現場でモノづくりを行なう企業を掘り起こし、読者がそこから元気をもらえるような特集を組みたいと考えた。改善活動をイキイキと展開している元気な工場や職場を紹介して、その共通点や元気の源を探り出したいと思う。QCDをはじめとして、現場で起こっている様々な課題に対して、モノづくりの基本となる改善を武器に果敢に課題解決に取り組む現場を紹介したい。
記事構成
-
論壇
柿内幸夫技術士事務所の柿内幸夫氏には「現場・工場から元気をもらおう!」と題して執筆をいただいた。著者は、改善コンサルタントとして多くの製造企業の支援を行なってきた経験を持つが、元気を今一歩発揮できない会社の共通点として、自社の大きな能力に気づいておらず、やったことがないのでできないと思い込んでいるケースが非常に多いと指摘する。
これに対して、現場で現物や現実を目の前にして、社長を筆頭に多くの部門を巻き込んで全体最適(全社最適)の解決策を探る姿勢が、企業の現場力・改善力を高めていく上で極めて有効であることを説いている。そのための具体的な活動方法として、部門間の壁を取り去り全社的な問題を発掘する“KZ法”と、全社員が持つ改善の能力を引き出し育て改善を実行する“チョコ案”の2つをご紹介いただいた。企業内の目標や問題を全員で共有化したもとで、改善活動をことさらに大きく構えることなく、互いのよさを認め合い、助け合いながら活動していく、結果として会社を元気にする考え方と方法論が示されている。
-
ケース・スタディ
- ①しのはらプレスサービスの篠原正幸氏には「『元気の出る工場』をめざして」と題して執筆をいただいた。
同社は、プレス機械のメンテナンス業務にはじまって、設備の改造や更新の提案までを手がける総合メンテナンスエンジニアリング企業である。
自らがかつては3K職場だったと振り返る同社では、魅せるに耐える工場をめざして、“命令しない”、“情報の公開”、“社員自らによる仕組み作り・ルール作り”など、様々な会社を元気にするための施策に取り組んできた。中でも、情報の公開では、貸借対照表・損益計算書の公開(公開だけでなく、その見方をレクチャーすることまで)を行なっている。このようにして、社員の自立と連携を深める仕組みを次々に整えている。
元気の出る工場作りには80%トップダウンと20%のボトムアップと説かれているが、現場での人の成長と喜びが感じられる職場作りに向けて、活動の背後にあるトップの思いが明確に読み取れる原稿になっている。 - ②リードの鍋谷陽介氏には「幸せの生産現場」と題して執筆をいただいた。同社は、超精密加工用ダイヤモンド砥石メーカーとして、開発・製造・販売を行なっている。工業用ダイヤモンド工具は、現在のあらゆる産業に欠かせないもので、代替する技術がいまだ確立されていない。一方で、中国、東南アジアなどの企業の台頭も活発で、単に低価格ということではなく、日本人だからこそできる高い技術力が求められる業態になっている。
本稿では、「さてそのつぎは」の社訓のもと、「当社で働くこと=学び直しの機会を得ること」を未来予想図に掲げ、幸福企業の実現を追求する同社の取り組みをご紹介いただいた。そこでは、営業力・開発力の強化に向けた情報共有への取り組みとして、独自のイントラネットの開発と活用が進められている。また、“社員が自らの力で工場を作り変える切っ掛け作り”と位置づけた上で、ハ・タ・ラキ・ヤスク(早く、正しく、楽に、安く)を合言葉に5S活動が行なわれている。他にも、“改善王の決定戦”など、主役である社員が生き生きと楽しんで仕事を行なっていける雰囲気作り・場作りのための施策をご紹介いただいた。 - ③マグトロニクスの菅正彦氏には「潜在労働力の活用にむけた取り組み」と題して執筆をいただいた。同社は、工作機械やロボット、ケーブル/ハーネスなどの組立加工の受託製造を行なう企業である。受注は製造数量の少ない多品種少量型であるために、自動化が難しく手作業による仕事が主体となる。安定した生産量と品質の確保のためには、労働力の確保が重要な課題になる。一方で、同社では、近年の労働人口の減少や従業員の高齢化の問題に直面する中で、労働力の確保を、ある限られた時間の中であれば就業が可能な主婦層の中に見出す取り組みを行なっている。
このための取り組みとして、工場内の仕事を作業レベルに分解した上で難易度の評価と作業時間の計測を行なっている。このようにして得られたデータを基礎資料として、場内のレイアウト変更を行ないスキルレベルの高い作業者と短時間作業者がうまく連携して作業を行なうことのできる職場作りに挑戦している。IEにおける作業分析を現代の労働力問題に的確に適用した事例といえる。また、今回の取り組みを通じて現場では新たな課題が浮き彫りになってきており、継続的改善に取り組む好事例となっている。 - ④愛知工業大学の加藤里美氏には「ワーク・ライフ・バランス推進企業」と題して、菊水化学工業への取材記事を執筆いただいた。
少子高齢化が進む日本において、女性従業員の活躍や職場における働き方改革は、非常に重要な問題としてクローズアップされている。一方で、愛知県の製造業590社を調査した中では、女性管理職がいる企業はいまだ少なく、女性活躍の機会が十分に与えられている状況にはないと、加藤氏は指摘する。
菊水化学工業は、名古屋市に本社をおく建築仕上材メーカーだが、名古屋市のワーク・ライフ・バランス推進企業に認証されている。本稿では、女性活躍の推進をはじめとしてワーク・ライフィ・バランスに関する同社の取り組みを紹介している。ワーク・ライフ・バランスの変革には企業文化・企業風土の醸成が不可欠であり、それが故に企業トップやマネジメント層の理解と支援が不可欠となることが指摘されている。 - ⑤日産自動車九州の島田寿一氏には「『モノの流れの整流化』による改善活動」と題して執筆をいただいた。
ルノー・日産・三菱の3社は、アライアンス生産方式のもとで同期生産を実施している。そこでは、“限りないお客様への同期”と“限りない課題の顕在化と改革”の2つの限りないを指針として、日々の生産が展開される。本稿では、この活動指針のもとで生産システム内での清々としたモノの流れの実現とLT短縮に向けた取り組みをご紹介いただいている。製品の納入LTの短縮のためには、サプライヤーからの部品の納入LTの短縮から始まって、工程間在庫の削減や設備のチョコ停の抑止など、様々な地道な活動があってはじめて実現される。この中にあって、本稿では、キット供給を通じて部品の手元化供給をめざす事例と、部品生産の工場内誘致を通じてLT短縮を図る事例を中心に、同社での取り組みを示していただいた。
- ①しのはらプレスサービスの篠原正幸氏には「『元気の出る工場』をめざして」と題して執筆をいただいた。
おわりに
“現場・工場から元気をもらおう!”とのテーマで特集を組んだが、厳しい製造環境が続く中にあっても、明るく前向きに進む企業が数多く存在することを再確認できた思いでいる。また、特集を通じて、元気な企業の共通点として、職場のトップが、(1)自らが元気でアグレッシブであること、(2)人のやりがいに対しての理解が深いこと、(3)改善活動の進め方に対しての理解が深いこと、この3点があるように思った。いずれにせよ、職場トップの役割りが大きいことを実感した。
今回の特集号では、中堅企業を中心にたくさんの元気をいただいたが、今後の特集では大企業からも集めていきたいと思う。本特集号を通じて、読者企業の元気アップを図るための新たなヒントが得られれば幸いである。
【論壇】現場・工場から元気をもらおう!
柿内幸夫技術士事務所の柿内幸夫氏には「現場・工場から元気をもらおう!」と題して執筆をいただいた。著者は、改善コンサルタントとして多くの製造企業の支援を行なってきた経験を持つが、元気を今一歩発揮できない会社の共通点として、自社の大きな能力に気づいておらず、やったことがないのでできないと思い込んでいるケースが非常に多いと指摘する。
これに対して、現場で現物や現実を目の前にして、社長を筆頭に多くの部門を巻き込んで全体最適(全社最適)の解決策を探る姿勢が、企業の現場力・改善力を高めていく上で極めて有効であることを説いている。そのための具体的な活動方法として、部門間の壁を取り去り全社的な問題を発掘する“KZ法”と、全社員が持つ改善の能力を引き出し育て改善を実行する“チョコ案”の2つをご紹介いただいた。企業内の目標や問題を全員で共有化したもとで、改善活動をことさらに大きく構えることなく、互いのよさを認め合い、助け合いながら活動していく、結果として会社を元気にする考え方と方法論が示されている。
【ケース・スタディ】「元気の出る工場」をめざして
しのはらプレスサービスの篠原正幸氏には「『元気の出る工場』をめざして」と題して執筆をいただいた。
同社は、プレス機械のメンテナンス業務にはじまって、設備の改造や更新の提案までを手がける総合メンテナンスエンジニアリング企業である。
自らがかつては3K職場だったと振り返る同社では、魅せるに耐える工場をめざして、“命令しない”、“情報の公開”、“社員自らによる仕組み作り・ルール作り”など、様々な会社を元気にするための施策に取り組んできた。中でも、情報の公開では、貸借対照表・損益計算書の公開(公開だけでなく、その見方をレクチャーすることまで)を行なっている。このようにして、社員の自立と連携を深める仕組みを次々に整えている。
元気の出る工場作りには80%トップダウンと20%のボトムアップと説かれているが、現場での人の成長と喜びが感じられる職場作りに向けて、活動の背後にあるトップの思いが明確に読み取れる原稿になっている。
【ケース・スタディ】幸せの生産現場
リードの鍋谷陽介氏には「幸せの生産現場」と題して執筆をいただいた。同社は、超精密加工用ダイヤモンド砥石メーカーとして、開発・製造・販売を行なっている。工業用ダイヤモンド工具は、現在のあらゆる産業に欠かせないもので、代替する技術がいまだ確立されていない。一方で、中国、東南アジアなどの企業の台頭も活発で、単に低価格ということではなく、日本人だからこそできる高い技術力が求められる業態になっている。
本稿では、「さてそのつぎは」の社訓のもと、「当社で働くこと=学び直しの機会を得ること」を未来予想図に掲げ、幸福企業の実現を追求する同社の取り組みをご紹介いただいた。そこでは、営業力・開発力の強化に向けた情報共有への取り組みとして、独自のイントラネットの開発と活用が進められている。また、“社員が自らの力で工場を作り変える切っ掛け作り”と位置づけた上で、ハ・タ・ラキ・ヤスク(早く、正しく、楽に、安く)を合言葉に5S活動が行なわれている。他にも、“改善王の決定戦”など、主役である社員が生き生きと楽しんで仕事を行なっていける雰囲気作り・場作りのための施策をご紹介いただいた。
【ケース・スタディ】潜在労働力の活用にむけた取り組み
マグトロニクスの菅正彦氏には「潜在労働力の活用にむけた取り組み」と題して執筆をいただいた。同社は、工作機械やロボット、ケーブル/ハーネスなどの組立加工の受託製造を行なう企業である。受注は製造数量の少ない多品種少量型であるために、自動化が難しく手作業による仕事が主体となる。安定した生産量と品質の確保のためには、労働力の確保が重要な課題になる。一方で、同社では、近年の労働人口の減少や従業員の高齢化の問題に直面する中で、労働力の確保を、ある限られた時間の中であれば就業が可能な主婦層の中に見出す取り組みを行なっている。
このための取り組みとして、工場内の仕事を作業レベルに分解した上で難易度の評価と作業時間の計測を行なっている。このようにして得られたデータを基礎資料として、場内のレイアウト変更を行ないスキルレベルの高い作業者と短時間作業者がうまく連携して作業を行なうことのできる職場作りに挑戦している。IEにおける作業分析を現代の労働力問題に的確に適用した事例といえる。また、今回の取り組みを通じて現場では新たな課題が浮き彫りになってきており、継続的改善に取り組む好事例となっている。
【ケース・スタディ】ワーク・ライフ・バランス推進企業
愛知工業大学の加藤里美氏には「ワーク・ライフ・バランス推進企業」と題して、菊水化学工業への取材記事を執筆いただいた。
少子高齢化が進む日本において、女性従業員の活躍や職場における働き方改革は、非常に重要な問題としてクローズアップされている。一方で、愛知県の製造業590社を調査した中では、女性管理職がいる企業はいまだ少なく、女性活躍の機会が十分に与えられている状況にはないと、加藤氏は指摘する。
菊水化学工業は、名古屋市に本社をおく建築仕上材メーカーだが、名古屋市のワーク・ライフ・バランス推進企業に認証されている。本稿では、女性活躍の推進をはじめとしてワーク・ライフィ・バランスに関する同社の取り組みを紹介している。ワーク・ライフ・バランスの変革には企業文化・企業風土の醸成が不可欠であり、それが故に企業トップやマネジメント層の理解と支援が不可欠となることが指摘されている。
【ケース・スタディ】「モノの流れの整流化」による改善活動
日産自動車九州の島田寿一氏には「『モノの流れの整流化』による改善活動」と題して執筆をいただいた。
ルノー・日産・三菱の3社は、アライアンス生産方式のもとで同期生産を実施している。そこでは、“限りない
お客様への同期”と“限りない課題の顕在化と改革”の2つの限りないを指針として、日々の生産が展開される。本稿では、この活動指針のもとで生産システム内での清々としたモノの流れの実現とLT短縮に向けた取り組みをご紹介いただいている。製品の納入LTの短縮のためには、サプライヤーからの部品の納入LTの短縮から始まって、工程間在庫の削減や設備のチョコ停の抑止など、様々な地道な活動があってはじめて実現される。この中にあって、本稿では、キット供給を通じて部品の手元化供給をめざす事例と、部品生産の工場内誘致を通じてLT短縮を図る事例を中心に、同社での取り組みを示していただいた。