現場改善の新たな動向
2021年10月 / 322号 / 発行:2021年10月1日
目次
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巻頭言
スマートファクトリーの実現に向けて
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特集テーマのねらい(特集記事)
現場改善の新たな動向
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論壇(特集記事)
手っとり早い改善のレベルUPノウハウ
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ケース・スタディ(特集記事)
データによる設備能力改善
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ケース・スタディ(特集記事)
DMツール開発・実践活用による生産改革への取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
自前による生産システムの構築
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ケース・スタディ(特集記事)
中小企業×大学生が生む化学反応
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会社探訪
暮らしに欠かせない水資源とスピーディな仕分・配送を支える
超精密微細加工技術と自動化・省力化技術-西部電機(株)-
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現場改善
バブリングノズルセット作業の生産性向上
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レポート
JIIE相互研究会
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コラム(117)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
「モノづくり」は、設計、開発、生産/製造、原材料の調達、検査、などの複数の過程を経て、従来にはない新しい付加価値を創造するプロセス全体を集約した言葉であると捉えることができます。そして、「モノづくり」は本来的には楽しく、面白く、ワクワク・ドキドキするプロセスですが、個人がDIYで「モノづくり」を行なうのとは異なり、事業として「モノづくり」を行なっている製造業では、安全性、耐久性などの品質面の担保、製品の製造時や廃棄後の地球環境への影響など、社会的責任もともなうため、楽しさや面白さなどの追求のみでは許されない面があります。
楽しい工場を追求することを表現した文章として、東京通信工業(株)(現ソニー)の設立趣意書に記された設立の目的、「真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」が大変よく知られていますが、製品バリエーションの多様化や製品ライフサイクルの短命化など、近年の製造業を取り巻く環境の激しい変化によって、短期間での新製品開発や設計変更、工程編成の変更を余儀なくされるだけでなく、人材に対する教育時間の不足や人材確保そのものも課題となってきています。社会全体としても「少子高齢化による若い世代の人手不足」や「育児や介護などによるニーズの多様化」などに直面しています。
このように刻々と環境が変化していく中、企業では永続的な企業活動の発展・継続のため、伝統的に「改善」活動が行なわれています。「改善」は、モノづくり大国と呼ばれた日本が製造業を中心に行なった活動で、進化・発展をとげて品質・生産性向上につなげ大きな成果を創出してきました。
海外においても「KAIZEN」として知られます。現在は製造業以外の多くの企業にも浸透しており「改善」に取り組まない企業は皆無といえます。改善の多くは、「Q:品質向上」、「C:コスト改善」、「D:納期短縮」などの改善を責務とし、全員参加型の小集団活動で行なっており、「Q・C・D」などのテーマに対し、「QC」、「IE」などの分析手法を基にステップにそった改善活動が行なわれています。
これらの改善活動を通じて、日常的に利用している標準の意味合いや、それらの背景に横たわる考え方が理解できた時の何ともいえない実感や納得感、皆で考え抜いた改善策で現場がうまくまわった時の達成感など、改善ならではの楽しさ、面白さ、ワクワク・ドキドキ感といったものを体験することによって、日常業務への理解をより深めるだけでなく、従業員同士の士気を高めていくことにもつながっています。
しかしながら、昨年からの新型コロナウイルス感染症拡大により、人と人との接触を避けた新しい生活様式への転換が求められており、インターネットの普及や技術の進歩により、新しいコミュニケーションツールを活用したリモート会議やデジタルツールを導入した改善活動が、一部の企業で実施されていますが、以前のような全員参加型の小集団活動を行なうことができず、「改善計画の遅れ」、「担当者任せ」などの問題が発生しており、改善活動が停滞している一因となっています。また、企業によっては、不合理な業務改善が進み、上層部が早急な成果を求めるため、現場は場当たり的な改善となり疲弊しています。企業にとっては、改善活動を怠ると競争力低下を招き、企業の存続に影響をもたらすため、どのような環境下に陥っても改善活動は継続していかなければなりません。
そこで本特集では、創意工夫された改善活動の事例や改善の新たな動向を紹介し、特集を通じて、改善活動の現場における様々な楽しさ、面白さ、ワクワク・ドキドキ感を感じてもらうことをねらいといたしました。
記事構成
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論壇
改善コンサルタントの東澤文二氏に、「手っとり早い改善のレベルUPノウハウ」と題して執筆いただきました。日頃の改善活動をレベルアップして効果をあげるための処方箋を分かりやすくまとめてくださっています。改善のレベルには3段階あることを示し、改善を進める上で重要となる指導方法やセルフチェックの考え方に触れられています。また、ベストプラクティスばかりを追う危険性を指摘しつつ、継続的な活動に裏打ちされた積み重ねが大切であると説いておられます。 -
ケース・スタディ
- ①安川電機の村山卓也氏に、「データによる設備能力改善~i3-Mechatronicsを具現化したインバータ生産ライン~」と題して執筆いただきました。今回は、同社が提唱しているi3-Mechatronicsコンセプトに基づいて小容量インバータ生産ラインに適用した設備能力改善事例について紹介してくださいました。
まず、同ラインの現状を説明いただいた後、i3-Mechatronicsコンセプトに基づく改善の進め方に触れ、今回取り扱うデータの種類の説明していただきました。さらにデータの可視化機能として、カメラを用いた設備状態の可視化と、オフラインでのデジタルツインという2つの具体的な機能の他、レポート機能についても紹介していただきました。最後に、これらの機能を用いた実例を2つ示していただきました。 - ②リコーインダストリーの伊藤大輔氏には、「DMツール開発・実践活用による生産改革への取り組み」と題して執筆いただきました。リコーグループでは2018年からDM(Digital Manufacturing)活動を展開しており、今回は人による組立作業に対してDMツールを開発し、要素作業ごとに品質保証方法を確立する活動を紹介していただきました。
まず、背景と目的に触れた後、デジタルスケールや電流センサ、電気ドライバなどの様々なデバイスを組み合わせて、これら各デバイスの判定結果によって、要素作業1つ1つをリアルタイムに出来栄え保証するツールを紹介しています。このツールを用いて、部品、ネジ締め、同梱部品、装置などの保証を行ない、各デバイスから取得したデータはクラウド上に蓄積し、BIツールを用いて現場の無駄の可視化や実測データに基づく山積表の作成など、現場改善の時間短縮に貢献していることが紹介されています。 - ③イーグル工業の塩原孝幸氏には、「自前による生産システムの構築~かゆいところに手が届く身の丈にあったシステムの作成~」と題して執筆いただきました。記事では、同社の8名の生産システム部員による数ある自前のシステム構築事例の内、負荷計画を含む生産計画自動作成システムの開発事例とワークフローの改善+電子化の事例を紹介してくださっています。いずれも、現状把握、問題の顕在化、改善策の立案・開発・実施、効果の確認、という同じ流れにそって、分かりやすくまとめてくださっています。
これらのシステムの核は表計算ソフトであり、開発のコストや期間などの面での多くの利点についても述べられています。また、最も大切なのは「知恵」であるといい切っておられ、顕在化した問題に対して徹底的に議論を積み重ねて「知恵」を絞って解決策を導き出すことの重要性を再確認できると思います。 - ④学習院大学の河合亜矢子先生には、「中小企業×大学生が生む化学反応~産学がともに価値を共創し合う産学連携の現場カイゼン~」と題して執筆いただきました。同氏のゼミナールに所属する大学生と中小製造業2社との産学連携プロジェクトの顛末を紹介してくださっています。特にプロジェクト開始直後から新型コロナ禍の影響をまともに受け、ほぼ全期にわたって企業との非対面でのやり取りを余儀なくされたプロジェクトがどのような成果を得ることができたのか、4章において大変詳しくまとめてくださっています。
- ①安川電機の村山卓也氏に、「データによる設備能力改善~i3-Mechatronicsを具現化したインバータ生産ライン~」と題して執筆いただきました。今回は、同社が提唱しているi3-Mechatronicsコンセプトに基づいて小容量インバータ生産ラインに適用した設備能力改善事例について紹介してくださいました。
おわりに
今回の特集では、かなり思い切ったねらいを掲げて特集記事の依頼をさせていただきました。編集委員として、読者の皆様に、果たしてねらい通りの楽しさ、面白さ、ワクワク・ドキドキ感を感じてもらうことができるかどうか、大変気になるところです。
最後になりますが、本テーマの趣旨に賛同いただき、原稿執筆に協力してくださいました執筆者の皆様方には心より厚く御礼申し上げます。
【論壇】手っとり早い改善のレベルUPノウハウ
【ケース・スタディ】データによる設備能力改善
安川電機の村山卓也氏に、「データによる設備能力改善~i3-Mechatronicsを具現化したインバータ生産ライン~」と題して執筆いただきました。今回は、同社が提唱しているi3-Mechatronicsコンセプトに基づいて小容量インバータ生産ラインに適用した設備能力改善事例について紹介してくださいました。
まず、同ラインの現状を説明いただいた後、i3-Mechatronicsコンセプトに基づく改善の進め方に触れ、今回取り扱うデータの種類の説明していただきました。さらにデータの可視化機能として、カメラを用いた設備状態の可視化と、オフラインでのデジタルツインという2つの具体的な機能の他、レポート機能についても紹介していただきました。最後に、これらの機能を用いた実例を2つ示していただきました。
【ケース・スタディ】DMツール開発・実践活用による生産改革への取り組み
リコーインダストリーの伊藤大輔氏には、「DMツール開発・実践活用による生産改革への取り組み」と題して執筆いただきました。リコーグループでは2018年からDM(Digital Manufacturing)活動を展開しており、今回は人による組立作業に対してDMツールを開発し、要素作業ごとに品質保証方法を確立する活動を紹介していただきました。
まず、背景と目的に触れた後、デジタルスケールや電流センサ、電気ドライバなどの様々なデバイスを組み合わせて、これら各デバイスの判定結果によって、要素作業1つ1つをリアルタイムに出来栄え保証するツールを紹介しています。このツールを用いて、部品、ネジ締め、同梱部品、装置などの保証を行ない、各デバイスから取得したデータはクラウド上に蓄積し、BIツールを用いて現場の無駄の可視化や実測データに基づく山積表の作成など、現場改善の時間短縮に貢献していることが紹介されています。
【ケース・スタディ】自前による生産システムの構築
イーグル工業の塩原孝幸氏には、「自前による生産システムの構築~かゆいところに手が届く身の丈にあったシステムの作成~」と題して執筆いただきました。記事では、同社の8名の生産システム部員による数ある自前のシステム構築事例の内、負荷計画を含む生産計画自動作成システムの開発事例とワークフローの改善+電子化の事例を紹介してくださっています。いずれも、現状把握、問題の顕在化、改善策の立案・開発・実施、効果の確認、という同じ流れにそって、分かりやすくまとめてくださっています。
これらのシステムの核は表計算ソフトであり、開発のコストや期間などの面での多くの利点についても述べられています。また、最も大切なのは「知恵」であるといい切っておられ、顕在化した問題に対して徹底的に議論を積み重ねて「知恵」を絞って解決策を導き出すことの重要性を再確認できると思います。