モノづくり現場の人財多様化への対応
2021年12月 / 323号 / 発行:2021年12月1日
目次
-
巻頭言
モノづくり現場における人財育成について
-
特集テーマのねらい(特集記事)
モノづくり現場の人財多様化への対応
-
論壇(特集記事)
モノづくり現場の人財多様化
-
ケース・スタディ(特集記事)
多様性人材と変革時代を勝ち進む
-
ケース・スタディ(特集記事)
ノーマライゼーションの実現
-
ケース・スタディ(特集記事)
小さな着ぐるみ工場の挑戦
-
ケース・スタディ(特集記事)
ダイバーシティ経営による人材不足解消と生産能力維持向上の実現
-
ケース・スタディ(特集記事)
男性中心の「職人の世界」に風穴を開け 女性の活躍の場を拡大し技術継承へ
-
ケース・スタディ(特集記事)
デジタル技術を活用して現場のダイバーシティを促進する
-
会社探訪
女性目線のライン改善-日本特殊陶業(株)-
-
現場改善
IEとDXを融合した生産性向上
-
レポート
第50回「日本IE文献賞」受賞文献のご報告
-
コラム(118)
-
協会ニュース
-
連携団体法人会員一覧
-
編集後記
特集テーマのねらい
“ダイバーシティ&インクルージョン”という言葉が世間の耳目を集めている。経営環境の急激な変化により日本企業の多くが多様性(ダイバーシティ)への対応を迫られているためである。
多様化の数値目標達成といった表面的な話ではない。企業が多様な人財の価値を認めて、多様な人財は企業への帰属意識を持ち、企業目標達成へ向かって自分らしさを発揮しているという自覚を持つこと(インクルージョン)で、新たな企業価値を創造していくという方向に舵を切ったのである。モノづくり現場は、このような本質的な視点で、多様な人財活躍を推進していかなければならない。
経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定されている製造業では、女性活躍推進による新商品開発が顕著にみられ、人財多様化が推進されている。多様な働き方ができる制度・施策をはじめとして、高齢者の技術・技能伝承、ノウハウの可視化、外国人や障がい者との協働といった取り組みを行なうことでモチベーションや生産性向上、技術革新といった経営成果を生み出している。報告書の行間からは、多様な人財が活躍できる仕組み構築への熱い思いが読み取れる。
多様な人財活躍のためには、多様な働き手側の目線に立つ様々な支援が必要となる。そのような創意工夫を凝らす一方で、品質や生産性の担保にはどのように注力しているのであろうか。取り組みの先に見える各現場のQCD向上に関する興趣が尽きない。
本特集ではモノづくり現場の人財多様化への対応という観点で、多様な人財を活かす創意工夫の事例を集め、人財多様化とモノづくりについて考察する。多様な人財への本質的な対応は簡単なものではない。各企業が自社に適合し、働き手が幸せな気持ちを持てる仕組みを構築していくためには、他企業における創意工夫を学んでおくことが重要となろう。
本稿で人材に「人財」を用いるのは、今後企業にとって重要な人材となってくれるという期待を込めている。
記事構成
-
論壇
慶應義塾大学の守屋剛氏に、「モノづくり現場の人財多様化~障害者雇用を通したモノづくり現場のイノベーション~」と題して執筆いただいた。
障がい者雇用を進めるモノづくり現場では、どうすれば障がい者がモチベーションを高められるのかを考えて職場環境作りに尽力している。現場の生の声によれば、自分のことは自分でやる風土の醸成、自分の仕事を他者に説明できるオープンな環境、障がい者自身の改善提案が重要になる。また精神障がい者には、身体障がい者や知的障がい者と接点を持たせ、お互いに助け合う文化を醸成し、職場の心理的安全性につなげている。このようなことは、働くすべての人に仕事の上でも気持ちの上でも気づきを与えてくれている。ユニバーサルデザインやウェルビーイングを考える機会を得るという価値が生まれ、利益や継続性といった経営成果ももたらされている。 -
ケース・スタディ
- ①エイベックスの生駒健二氏に「多様性人材と変革時代を勝ち進む~経営理念に基づくダイバーシティ&インクルージョン推進~」と題して執筆いただいた。
「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定された多様な人材活躍の仕組みの背景には、経営理念である「共に育つ」に基づく人材の採用・育成といった風土醸成と人を大切にする経営がある。多様な人材の目線に立った創意工夫は、企業内に好循環を生み出している。高齢者は社内の保全力を高め新規採用枠の高齢者は正規社員の補助の役割を持つ。外国人はバウンダリー・スパナーとして活躍し、国内の産業観光においても新たな仕事を創造している。障がい者は、就労支援施設との連携、家族内のバックアップの協力を得て、個々の特性を活かせる仕事で正社員の業務を軽減できる存在となっている。 - ②アイシンウェルスマイルの水野真二氏に「ノーマライゼーションの実現~障がい者も健常者もともにいきいきと働ける職場づくりをめざして~」と題して執筆いただいた。同社は、アイシンの基本理念である「ノーマライゼーション」に基づき、アイシングループで働く障がい者の採用活動と定着活動に対して、蓄積したノウハウを活かした支援を行なっている。障がい者の仕事の内容は、それぞれの障がい特性には配慮するが、基本的には健常者と同じである。技術系障がい者も採用試験や新入社員研修は健常者と一緒に行なわれる。障がい者が働きやすい職場に向けた改善はもちろんのこと、定着のための相談体制も整えている。面談結果は上司へフィードバックされ、困りごとの対応として工場・部レベルでの改善活動にもつなげている。
- ③KIGURUMI.BIZの加納ひろみ氏に「小さな着ぐるみ工場の挑戦~向こう側の笑顔とこちら側の笑顔~」と題して執筆いただいた。スタッフが全員女性でその多くが子育てをしながら働くという特色を持つ工場。かつては残業も多く離職率が高かったが、社長が実施した「トークブレイク」と「社内アンケート」を発端に大きく変わった。「残業が多い」と「有給がとりづらい」という不満には「ノー残業Day」で対応した。工夫を積み重ねて業務の効率化を改善し、経常利益を上げるという成果へとつなげた。「勤務時間選択制」や「有給カレンダー」により働き手が生活と仕事の調和が取れるようになると、仕事を通した幸せを感じるようになり始めた。「心理的安全性」が確保されたことが紹介されている。
- ④日高工業の今村順氏により「ダイバーシティ経営による人材不足解消と生産能力維持の向上の実現」と題して執筆いただいた。厳しい雇用環境を背景に、ダイバーシティ経営に踏み切った。外国人には母国語の手順書などを作成、積極的な交流を欠かさない。また日本人と同一な労働条件で雇用、資格取得や研修も差別はない。女性と高齢者には職場の仕事や作業の層別整理を行なうことで作業方法を改善した。技術伝承の体制を整え、誰もが習得できる機会を設けた。そのような努力により、高度外国人材活躍企業50社への認定、高齢者と女性の増加と活躍が促進され、売上高向上、残業時間削減、そして全体のモチベーション向上の経営結果へとつなげた。
- ⑤小宮商店に取材を行ない「男性中心の「職人の世界」に風穴を開け女性の活躍の場を拡大し技術継承へ」と題して記事をまとめた。同社は、1930年から職人により作られてきた高級傘を販売する。先細りが懸念されている中、経理事務のパートに女性を採用したことがきっかけとなり高品質な傘の価値が広まり、また直営店に20代女性を採用したことにより売り上げが伸びた。さらに、職人たちの頭にある“無形技術”の見える化をしていくことで、女性を含む職人育成が進められていった。職人を育成していくにあたり誰もが働きやすい環境も整えられていった。その土壌にあるのは、社長の理解と、伝統に縛られない自由な気風が息づいていたことである。
- ⑥日立ハイテクソリューションズの小澤秀幸氏には「デジタル技術を活用して現場のダイバーシティを促進する」と題して執筆いただいた。
モノづくり現場に多様な人材が入ってくると、従来のOJTが機能しなくなる。その解決法の1つとして、デジタル技術を用いた業務プロセスの改善があげられる。デジタル技術を駆使することで、作業熟練者が組立手順を標準化でき、短時間で未熟な作業者への技術伝承を可能にする。また作業実績をデジタル化し、トレーサビリティの活用で、作業工程の動作分析によりサイクルタイム削減へとつなげることができる。性差や働き方の違いを許容するモノづくり現場ができるが、熟練の技術者にデジタル技術再教育を行なうことが課題となる。
- ①エイベックスの生駒健二氏に「多様性人材と変革時代を勝ち進む~経営理念に基づくダイバーシティ&インクルージョン推進~」と題して執筆いただいた。
まとめ
【論壇】モノづくり現場の人財多様化
慶應義塾大学の守屋剛氏に、「モノづくり現場の人財多様化~障害者雇用を通したモノづくり現場のイノベーション~」と題して執筆いただいた。
障がい者雇用を進めるモノづくり現場では、どうすれば障がい者がモチベーションを高められるのかを考えて職場環境作りに尽力している。現場の生の声によれば、自分のことは自分でやる風土の醸成、自分の仕事を他者に説明できるオープンな環境、障がい者自身の改善提案が重要になる。また精神障がい者には、身体障がい者や知的障がい者と接点を持たせ、お互いに助け合う文化を醸成し、職場の心理的安全性につなげている。このようなことは、働くすべての人に仕事の上でも気持ちの上でも気づきを与えてくれている。ユニバーサルデザインやウェルビーイングを考える機会を得るという価値が生まれ、利益や継続性といった経営成果ももたらされている。
【ケース・スタディ】多様性人材と変革時代を勝ち進む
エイベックスの生駒健二氏に「多様性人材と変革時代を勝ち進む~経営理念に基づくダイバーシティ&インクルージョン推進~」と題して執筆いただいた。
「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定された多様な人材活躍の仕組みの背景には、経営理念である「共に育つ」に基づく人材の採用・育成といった風土醸成と人を大切にする経営がある。多様な人材の目線に立った創意工夫は、企業内に好循環を生み出している。高齢者は社内の保全力を高め新規採用枠の高齢者は正規社員の補助の役割を持つ。外国人はバウンダリー・スパナーとして活躍し、国内の産業観光においても新たな仕事を創造している。障がい者は、就労支援施設との連携、家族内のバックアップの協力を得て、個々の特性を活かせる仕事で正社員の業務を軽減できる存在となっている。
【ケース・スタディ】ノーマライゼーションの実現
【ケース・スタディ】小さな着ぐるみ工場の挑戦
【ケース・スタディ】ダイバーシティ経営による人材不足解消と生産能力維持向上の実現
【ケース・スタディ】男性中心の「職人の世界」に風穴を開け女性の活躍の場を拡大し技術継承へ
【ケース・スタディ】デジタル技術を活用して現場のダイバーシティを促進する
モノづくり現場に多様な人材が入ってくると、従来のOJTが機能しなくなる。その解決法の1つとして、デジタル技術を用いた業務プロセスの改善があげられる。デジタル技術を駆使することで、作業熟練者が組立手順を標準化でき、短時間で未熟な作業者への技術伝承を可能にする。また作業実績をデジタル化し、トレーサビリティの活用で、作業工程の動作分析によりサイクルタイム削減へとつなげることができる。性差や働き方の違いを許容するモノづくり現場ができるが、熟練の技術者にデジタル技術再教育を行なうことが課題となる。