これからのIErに求められるもの
2022年3月 / 324号 / 発行:2022年3月1日
- 5S
- DX
- SDGs
- キャッシュフロー
- サプライチェーン
- ムダ取り
- リードタイム短縮
- 三現主義
- 人材育成
- 働き方改革
- 在庫管理
- 多様性
- 安全
- 小集団活動
- 工程改善
- 標準作業
- 生産性
- 生産計画
- 納期管理
- 自動化
目次
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巻頭言
DX時代のIEと人づくり
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2022年度の特集テーマについて
2022年度の特集テーマについて
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特集テーマのねらい(特集記事)
これからのIErに求められるもの
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論壇(特集記事)
IEの可能性とIErへの期待
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ケース・スタディ(特集記事)
IoTの取り組みとIT人材の育成
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ケース・スタディ(特集記事)
現場力とデジタル化の融合
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ケース・スタディ(特集記事)
データドリブンなモノづくりへの挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
人(匠の技、知)とデジタル技術をつなぐIoP(Internet of People)
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座談会(特集記事)
これからのIEに求められるもの
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テクニカル・ノート(特集記事)
製造業のサービス化
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会社探訪
生産革新による3泊4日のモノづくりアルミ加工の“Speed Mister”-(株)長濱製作所-
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現場改善
塗装ラインの水循環システムの進化と深化
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現場改善
改善活動の活性化
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
派遣社員から自然体でIEを実践し、正社員として改善活動のリーダーへ成長
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連載講座
つなぐ技術のものづくり力[Ⅰ]
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レポート
「考える組織を作る」研修レポート(上)
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寄稿
ダイバーシティ経営の取り組み
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コラム(119)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
デジタル技術の進化により、社会の仕組みは大きく変わり、また新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大が、それを加速させています。デジタルの進化については、これまでIoT・AIといった新しい技術で何ができるかにばかり話題が集まっていましたが、デジタルはツールであり、モノづくりの現場においてそれらをどのように活用してどんな現場に変えていくのかが重要です。そして、そのためにこれからのIEが果たすべき役割とは何か、デジタルで現場を変えていくことができるIErをどのように育成していくか、それらに取り組まれている企業の事例を紹介し、これからのIE、IErに求められているものを明らかにしたいと考え、本特集を企画しました。
記事構成
今回の特集では、論壇、ケース・スタディ4件、座談会、テクニカル・ノートの記事を掲載しています。
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論壇
野村総合研究所の藤野直明氏に、「IEの可能性とIErへの期待」と題して執筆いただきました。筆者は、コンサルタントとして活躍されると同時に、政府の政策形成におけるアドバイザーを務められており、また、(公社)日本経営工学会の副会長でもあります。そのような立場から、まず日本の製造業の現状と課題についてまとめられています。失われた30年ともいわれている日本の閉塞感の原因として「IT投資に対する消極的な態度」を指摘され、それが生み出される背景として経営層、現場それぞれの立場における現状認識をまとめられた上で、効果的なDX導入を実現させるためには、トップマネジメントの明確な意思と、関係部門すべてを巻き込む仕組み作りが重要であり、それができるのがIE部門ではないかと指摘されています。「DX推進には、業務を理解し、KAIZENおよび業務やビジネスモデルの設計ができるIE人材こそが必要とされている」とし、そのためにもIEをデジタルでアップグレードし、IEを進化発展させると同時に守備範囲を拡大することも必要ではないかと指摘されています。国内外のDX推進に携わってこられた立場から、IEとIErに力強いエールをいただきました。 -
ケース・スタディ
- ①村田機械の作田一臣氏に「IoTの取り組みとIT人材の育成」と題して執筆いただきました。同社では、2015年から「つながる工場プロジェクト」が開始され、R&D部門まで巻き込んだ横断的なIoTの取組を進めてこられました。この取り組みを進める中で、モノづくり現場のIT人材は現場のデータ取得から実適用での展開のところまで入り込んでいくことができなければ、本当の意味での実になるデータ活用を実現することはできないと指摘されています。モノづくり現場に必要なIT人材は、「IT+モノづくり+運用設計=生産技術」を実現できるラインビルダーであるべきで、その育成が重要であるとされています。「どれだけデジタル化が進んでも、モノづくりは連綿と人づくりしていくことでしか受け継がれていかない」という最後のまとめが大変印象に残りました。
- ②コニカミノルタの伊藤孝司氏に「現場力とデジタル化の融合」と題して執筆いただきました。同社では、2015年から現場力をベースにした製造現場のデジタル化の推進を行なってきました。当初はデータを活用するということに意識を取られ、データ活用という本来手段であるべきものが目的化してしまい、思うような効果がでなかったそうです。データ分析サイドからの分析結果の押しつけでは現場の課題解決にはつながらない、「現場の困りごとを起点にする」ことがポイントであると指摘されています。今後デジタル技術は加速的に進歩していくが、課題を定義し、分析ツールを選択し、ワークフローを変えていくのは人であり、その能力=現場力である、そして創造力の高い人材を育て、現場力を向上させることが生産DX拡大には欠かせないとまとめられています。
- ③日本ガイシの齊藤隆雄氏に、「データドリブンなモノづくりへの挑戦」と題して執筆いただきました。同社では、2010年から工場のIoT化を進めてきました。スタートに際しては、まずIoTを推進することの価値をどのように工場内で理解してもらうかに苦心したそうです。そこで、まず本社部門がそれを証明するために、モノづくり現場に共通したKPIとして設備総合効率を設定し、その見える化による情報共有を実施しました。それにより、工場間の比較が容易になり、スパイラルな問題発見と問題解決、工場間での改善技術・管理技術の共有や切磋琢磨に大きな貢献を果たしたそうです。それまでは製造部門が中心となって生産性改善活動を実施してきましたが、データの見える化をきっかけに製造部門以外にも改善活動が共有化され、他との連携が重要であるという認識が浸透し、IoT推進への理解が全社的に広がりました。今後はエンジニアリングチェーンやサプライチェーンのデジタル化を進めていくことを目標としています。そのような全社でのDX推進を進める上で最も重要なことは人材の育成であるとされ、2021年より階層別にDX人材に期待することとそれを育成するための教育内容をまとめられ、デジタル化を加速させることをめざしています。
- ④東芝の髙納政敏氏・蚊戸健浩氏に「人(匠の技、知)とデジタル技術をつなぐIoP(Internet of People)」と題して執筆いただきました。同社では、スマートファクトリー化を実現するために、4Mに関する情報をデジタルでつなぐことで全体最適とオペレーションの効率化を進めています。その中で、「人」に関する課題を解決するための「IoP」が紹介されています。IoPとは人の持つ「匠の技・知」や状況に関する様々な情報をデジタル化して収集し、分析することにより最適な指示を可能にする技術です。この技術を活用することによって、これまで課題解決のデジタル化を進める上で一番の壁となっていた「人」に関するデータ収集が実現でき、スマートファクトリー化が進化したことが示されています。特に日本の製造業の共通の課題である「熟練者の減少」「少子高齢化による人手不足」「属人的な製造プロセス」といった課題解決に貢献することが期待されます。
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座談会
「これからのIEに求められるもの」というテーマで、日本電気の岩本佳浩氏,東芝の岸田敦司氏、三菱電機の蒲谷崇氏、JFEスチールの小堀敏雄氏の4名と、アドバイザーとして東京都中小企業振興公社の江頭誠氏、慶應義塾大学の河野宏和編集委員長の2名による座談会を実施いたしました。座談会では、まず不確実性が高まるこの時代の中で、現場では、今どのような課題に直面されていて、それがIErの働き方にどのような影響をおよぼしているか、悩んでいること、逆に、新しく取り組まれていることなど、変化について紹介いただきました。次に、それらを踏まえて、現場で感じられているIErに新たに求められている能力や資質をお話しいただき、あるべき姿について議論しました。座談会を通じて、デジタル化が加速する中でIErに新たに求められる能力とこれまでと変わらずに必要とされている資質といったものが明確になりました。 -
テクニカル・ノート
神戸大学の南千惠子先生に「製造業のサービス化」と題し、DXによる製造業のサービス化に注目し、特に生産財メーカーのサービス開発によるビジネスモデル変革についての課題をまとめていただきました。近年、IoTによる製造プロセスの高度化により、製造業は製品の売り切り型ビジネスから、製品と保守・運用サービスが開発段階から組み入れられ、サービスが統合化された製品を展開していく、より大きなビジネスへと進展させるチャンスが生まれています。このデジタル化が製造業のモノづくりからコトづくりへの変革を後押ししている現状を踏まえて、これまで「優れた製品を作ること」が製造業のめざす姿であったものが、「製品を通じて顧客が実現できる価値とは何かを知ること」が新たに必要になっていることを指摘されています。
おわりに
本号の特集では、様々なモノづくり現場において、デジタル化によって改善を進化させることに取り組まれた事例を紹介していただきました。ツールの発達によって今まで見えなかった事象がタイムラグなくデータ化される。しかし、それを実のあるものに変えるのは、IEの実践によって培われてきた現場力であるということをそれぞれの事例から感じ取ることができました。同時に、デジタルを味方につけて改善の先をいく改革(イノベーション)の道筋を描くことができるIErの育成はこれからの重要な課題であると感じました。
斎藤 文/企画担当編集委員
【論壇】IEの可能性とIErへの期待
野村総合研究所の藤野直明氏に、「IEの可能性とIErへの期待」と題して執筆いただきました。筆者は、コンサルタントとして活躍されると同時に、政府の政策形成におけるアドバイザーを務められており、また、(公社)日本経営工学会の副会長でもあります。そのような立場から、まず日本の製造業の現状と課題についてまとめられています。失われた30年ともいわれている日本の閉塞感の原因として「IT投資に対する消極的な態度」を指摘され、それが生み出される背景として経営層、現場それぞれの立場における現状認識をまとめられた上で、効果的なDX導入を実現させるためには、トップマネジメントの明確な意思と、関係部門すべてを巻き込む仕組み作りが重要であり、それができるのがIE部門ではないかと指摘されています。「DX推進には、業務を理解し、KAIZENおよび業務やビジネスモデルの設計ができるIE人材こそが必要とされている」とし、そのためにもIEをデジタルでアップグレードし、IEを進化発展させると同時に守備範囲を拡大することも必要ではないかと指摘されています。国内外のDX推進に携わってこられた立場から、IEとIErに力強いエールをいただきました。
【ケース・スタディ】IoTの取り組みとIT人材の育成
村田機械の作田一臣氏に「IoTの取り組みとIT人材の育成」と題して執筆いただきました。同社では、2015年から「つながる工場プロジェクト」が開始され、R&D部門まで巻き込んだ横断的なIoTの取組を進めてこられました。この取り組みを進める中で、モノづくり現場のIT人材は現場のデータ取得から実適用での展開のところまで入り込んでいくことができなければ、本当の意味での実になるデータ活用を実現することはできないと指摘されています。モノづくり現場に必要なIT人材は、「IT+モノづくり+運用設計=生産技術」を実現できるラインビルダーであるべきで、その育成が重要であるとされています。「どれだけデジタル化が進んでも、モノづくりは連綿と人づくりしていくことでしか受け継がれていかない」という最後のまとめが大変印象に残りました。
【ケース・スタディ】現場力とデジタル化の融合
コニカミノルタの伊藤孝司氏に「現場力とデジタル化の融合」と題して執筆いただきました。同社では、2015年から現場力をベースにした製造現場のデジタル化の推進を行なってきました。当初はデータを活用するということに意識を取られ、データ活用という本来手段であるべきものが目的化してしまい、思うような効果がでなかったそうです。データ分析サイドからの分析結果の押しつけでは現場の課題解決にはつながらない、「現場の困りごとを起点にする」ことがポイントであると指摘されています。今後デジタル技術は加速的に進歩していくが、課題を定義し、分析ツールを選択し、ワークフローを変えていくのは人であり、その能力=現場力である、そして創造力の高い人材を育て、現場力を向上させることが生産DX拡大には欠かせないとまとめられています。
【ケース・スタディ】データドリブンなモノづくりへの挑戦
日本ガイシの齊藤隆雄氏に、「データドリブンなモノづくりへの挑戦」と題して執筆いただきました。同社では、2010年から工場のIoT化を進めてきました。スタートに際しては、まずIoTを推進することの価値をどのように工場内で理解してもらうかに苦心したそうです。そこで、まず本社部門がそれを証明するために、モノづくり現場に共通したKPIとして設備総合効率を設定し、その見える化による情報共有を実施しました。それにより、工場間の比較が容易になり、スパイラルな問題発見と問題解決、工場間での改善技術・管理技術の共有や切磋琢磨に大きな貢献を果たしたそうです。それまでは製造部門が中心となって生産性改善活動を実施してきましたが、データの見える化をきっかけに製造部門以外にも改善活動が共有化され、他との連携が重要であるという認識が浸透し、IoT推進への理解が全社的に広がりました。今後はエンジニアリングチェーンやサプライチェーンのデジタル化を進めていくことを目標としています。そのような全社でのDX推進を進める上で最も重要なことは人材の育成であるとされ、2021年より階層別にDX人材に期待することとそれを育成するための教育内容をまとめられ、デジタル化を加速させることをめざしています。
【ケース・スタディ】人(匠の技、知)とデジタル技術をつなぐIoP(Internet of People)
東芝の髙納政敏氏・蚊戸健浩氏に「人(匠の技、知)とデジタル技術をつなぐIoP(Internet of People)」と題して執筆いただきました。同社では、スマートファクトリー化を実現するために、4Mに関する情報をデジタルでつなぐことで全体最適とオペレーションの効率化を進めています。その中で、「人」に関する課題を解決するための「IoP」が紹介されています。IoPとは人の持つ「匠の技・知」や状況に関する様々な情報をデジタル化して収集し、分析することにより最適な指示を可能にする技術です。この技術を活用することによって、これまで課題解決のデジタル化を進める上で一番の壁となっていた「人」に関するデータ収集が実現でき、スマートファクトリー化が進化したことが示されています。特に日本の製造業の共通の課題である「熟練者の減少」「少子高齢化による人手不足」「属人的な製造プロセス」といった課題解決に貢献することが期待されます。
【座談会】これからのIEに求められるもの
「これからのIEに求められるもの」というテーマで、日本電気の岩本佳浩氏,東芝の岸田敦司氏、三菱電機の蒲谷崇氏、JFEスチールの小堀敏雄氏の4名と、アドバイザーとして東京都中小企業振興公社の江頭誠氏、慶應義塾大学の河野宏和編集委員長の2名による座談会を実施いたしました。座談会では、まず不確実性が高まるこの時代の中で、現場では、今どのような課題に直面されていて、それがIErの働き方にどのような影響をおよぼしているか、悩んでいること、逆に、新しく取り組まれていることなど、変化について紹介いただきました。次に、それらを踏まえて、現場で感じられているIErに新たに求められている能力や資質をお話しいただき、あるべき姿について議論しました。座談会を通じて、デジタル化が加速する中でIErに新たに求められる能力とこれまでと変わらずに必要とされている資質といったものが明確になりました。
【テクニカル・ノート】製造業のサービス化
神戸大学の南千惠子先生に「製造業のサービス化」と題し、DXによる製造業のサービス化に注目し、特に生産財メーカーのサービス開発によるビジネスモデル変革についての課題をまとめていただきました。近年、IoTによる製造プロセスの高度化により、製造業は製品の売り切り型ビジネスから、製品と保守・運用サービスが開発段階から組み入れられ、サービスが統合化された製品を展開していく、より大きなビジネスへと進展させるチャンスが生まれています。このデジタル化が製造業のモノづくりからコトづくりへの変革を後押ししている現状を踏まえて、これまで「優れた製品を作ること」が製造業のめざす姿であったものが、「製品を通じて顧客が実現できる価値とは何かを知ること」が新たに必要になっていることを指摘されています。