スマート工場・スマート物流 最前線
2022年5月 / 325号 / 発行:2022年5月1日
目次
-
巻頭言
経営と現場の両輪で全体最適をめざすサプライチェーン改革
-
特集テーマのねらい(特集記事)
スマート工場・スマート物流 最前線
-
論壇(特集記事)
次世代のスマート工場を考える
-
ケース・スタディ(特集記事)
スマートファクトリー化に向けた自働化の取り組み
-
ケース・スタディ(特集記事)
変種変量生産を実現するデジタルファクトリーの実例
-
ケース・スタディ(特集記事)
サプライチェーン最適化サービス「SCDOS」でロジスティクスを超えて新たな領域へ
-
ケース・スタディ(特集記事)
スマートロジスティクスのすすめ
-
テクニカル・ノート(特集記事)
フィジカルインターネットでスマート物流を実現
-
プリズム(特集記事)
日本政府におけるフィジカルインターネットへの取り組みについて
-
連載講座
つなぐ技術のものづくり力[Ⅱ]
-
レポート
「考える組織を作る」研修レポート(下)
-
レポート
JIIE相互研究会
-
コラム(120)
-
協会ニュース
-
連携団体法人会員一覧
-
編集後記
特集テーマのねらい
ドイツ政府が中心となって2011年に公表されたインダストリー4.0からスタートしたいわゆる第4次産業革命により、モノづくりの現場では急速にデジタル化が進んでいます。また、サプライチェーンのグローバル化によって、モノづくりにおける物流の重要性は益々大きくなり、物流におけるデジタルを活用した効率化も注目を集めています。特に昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響により、製造・物流それぞれの現場におけるICTの活用は加速度を増しています。業務効率化だけを目的としたデジタル技術の導入にとどまらず、働き方改革への対応、生産人口年齢の減少による技能伝承の課題、大規模な自然災害などにおけるBCP対策、SDGsの実現など、広範囲の課題解決をめざしたデジタルトランスフォーメーションが実現され、深化しています。
そこで、本誌では、様々な課題解決を実現しているスマート工場・スマート物流を紹介し、実現に向けた展望や課題を掘り下げるとともに、それらの設計・運用においてIEに求められていることは何かについて考えることを目的に今回の特集を企画しました。
記事構成
-
論壇
「次世代のスマート工場を考える~工場がスマートであるとは、どういう意味か?~」というテーマで、日揮ホールディングスの佐藤知一氏に執筆いただきました。佐藤氏は、エンジニアリング会社で国内・海外の様々な業種の工場やプラントの設計・立ち上げに携わってこられました。その経験を通じて、「工場がスマートであるということはどういう意味か」について、事例を交えながら解説していただきました。そこで強く強調されているのは、「スマートな工場を作りたかったら、最初から工場全体を「生産システム」として構想すべき」という点です。そして、工場全体をスマート化するために今後必要とされるのは、「中央管制システム」であり、それによって、サプライチェーンレベルで問題解決のできる、真の意味でのスマート工場が実現すると主張されています。最後に、次世代のスマート工場のあるべき姿とは、「その工場をみた人間が誰しも「ここで働いてみたい」と感じる工場である」と結ばれていることが大変印象的でした。ややもすると、デジタル化によって人間は排除されるという意見が注目されますが、生産システムにおける人間の存在の重要性がIEの基本であるという視点を改めて認識させてくれる一言だと感じました。 -
ケース・スタディ
- ①NECプラットフォームズの成田尚志氏に、「スマートファクトリー化に向けた自働化の取り組み」というテーマで執筆いただきました。NECプラットフォームズでは、従来からスマートファクトリー化による生産性向上に取り組まれてきましたが、さらなる進化として、「自動化の標準化」と「人が担ってきた高度な作業への自働化拡大」を進めています。1つ目の「自働化の標準化」は、ロケーションフリーで効率的なモノづくりの実現のためには共通思想の自動化設備開発が重要であり、そのために「自動化プロットフォーム構想」を描き取り組まれています。その事例として、組立工程と検査工程が紹介されています。2つ目は、DXやデジタル技術との融合による自動化技術の高度化で、組立自動化やAIによるティーチングレス、無軌道型AGV走行といった事例が紹介されています。これらは、「付加価値のない作業は積極的に自動化設備に置き換えていくべき」というIEの基本に基づいた方向性であり、デジタル技術を活用する場においても、IEの基本の考え方は共通であることを再認識させられました。
- ②Team Cross FAの貴田義和氏に、「変種変量生産を実現するデジタルファクトリーの実例」というテーマで執筆いただきました。貴田氏はFAプロダクツの社長であるとともに、Team Cross FAというコンソーシアムでビジネス統括も務められています。「Team Cross FA」は、次世代デジタルファクトリーを構築するコンソーシアムです。幹事企業を軸として公的機関やFA・ロボットSIer、地域社会と協力するとともに、日本の国家戦略「コネクテッド・インダストリーズ」とも連携し、新たな価値協創を実現して、製造業のスマートファクトリー化に寄与することをめざしています。このコンソーシアムでは、「デジタルファクトリー」とは、「デジタルツインで環境変化に合わせて最適化された生産と工場運営が可能な工場」をさしてます。その事例として、「DX型ロボットジョブショップ」が紹介されています。管理技術にデジタルを活用し、自律的な生産が可能となる、まさにスマート工場の最先端の姿といえます。現在は、南相馬市復興工業団地の第一号進出企業として建設中だそうですが、今後は中小企業が導入しやすい安価なシステムとして普及を進めたいとのことで、大いに期待したいと思います。
- ③日立物流の今野勉氏、田代肇氏、櫻田崇治氏に「サプライチェーン最適化サービス『SCDOS』でロジスティクスを超えて新たな領域へ」というテーマでお話を伺いました。日立物流は3PLの国内トップメーカーとして、デジタルを活用して「物流」を新たな領域に進化させ、さらなる社会への貢献をめざしてきました。そのビジネスコンセプトとして「LOGISTEED」をかかげ、「物流の高度化」にとどまらず、ロジスティクスの領域を広げて、お客様や社会に対して価値を提供していくことに重点をおき、その1つとして、「SCDOS」を紹介していただきました。このサービスは、物流情報を使ってお客様の売り上げに貢献できないかという視点で始まったもので、シミュレーションの機能を用いて、物流拠点の選択といった戦略立案時における意思決定支援といった機能が搭載されています。そこには、上流の経営意思決定に入り込み、物流改善支援まで言及することによって物流の地位向上につなげたいという強い思いがあります。そのために、デジタルを活用するだけでなく、これまで現場で培かってきた「アナログの知恵」を最大限に活かし、真に価値を生み出すことのできるスマート物流の実現にチャレンジされており、今後の動向に目が離せない事例です。
- ④アイオイ・システムの多田潔氏に「スマートロジスティクスのすすめ~製造と物流の効率化を実現する~」というテーマで執筆いただきました。アイオイ・システムは、物流・製造支援システムの開発・提案・構築を主たる事業とする会社で、デジタルピッキングシステムのパイオニアとして、ケーブル接続有線方式、無線方式など1,000種類以上のデジタル表示器の他、画像処理技術を応用したプロジェクションピッキングシステム「PPS」、見えるRFID「スマートカード」などの独自システムを供給されていて、これらを「ヒトとモノと情報とをきめ細かに結ぶ技術」と位置づけ、モノづくりの作業効率化に活用したまさに最前線の事例を紹介していただきました。
-
テクニカル・ノート
上智大学名誉教授の荒木勉先生に「フィジカルインターネットでスマート物流を実現」というテーマで執筆いただきました。荒木先生は物流の「新・世界標準」として注目されているフィジカルインターネットに早くから着目され、日本への普及促進のために「フィジカルインターネット~企業間の壁崩す物流革命~」を翻訳され、2020年に出版されました。これからの物流のあるべき姿を築き、物流そのものの地位向上をめざした活動を精力的に進められています。そのためのフィジカルインターネットの特徴とねらいをまとめていただきました。 -
プリズム
野村総合研究所の藤野直明氏には、「日本政府におけるフィジカルインターネットへの取り組みについて」というテーマで物流改革の現状について報告をいただきました。
おわりに
2020年のものづくり白書において、「単に新しいデジタル技術を導入するというのではなく、それを企業変革力の強化に結びつけられる企業が、これからの不確実性の時代における競争で優位なポジションを得ることができる」とされており、今モノづくり企業に求められているのは、デジタルを活用した価値づくりです。デジタルは魔法使いの杖ではなく、地道な現場の知恵を価値に変えるための1つのツールにすぎません。生産システムを俯瞰的にみて、IEの基本を活用できる人材こそが、真の意味でのスマート工場・スマート物流を実現できるということを、今回の特集を通じて改めて感じることができました。
斎藤 文/企画担当編集委員
【論壇】次世代のスマート工場を考える
「次世代のスマート工場を考える~工場がスマートであるとは、どういう意味か?~」というテーマで、日揮ホールディングスの佐藤知一氏に執筆いただきました。佐藤氏は、エンジニアリング会社で国内・海外の様々な業種の工場やプラントの設計・立ち上げに携わってこられました。その経験を通じて、「工場がスマートであるということはどういう意味か」について、事例を交えながら解説していただきました。そこで強く強調されているのは、「スマートな工場を作りたかったら、最初から工場全体を「生産システム」として構想すべき」という点です。そして、工場全体をスマート化するために今後必要とされるのは、「中央管制システム」であり、それによって、サプライチェーンレベルで問題解決のできる、真の意味でのスマート工場が実現すると主張されています。最後に、次世代のスマート工場のあるべき姿とは、「その工場をみた人間が誰しも「ここで働いてみたい」と感じる工場である」と結ばれていることが大変印象的でした。ややもすると、デジタル化によって人間は排除されるという意見が注目されますが、生産システムにおける人間の存在の重要性がIEの基本であるという視点を改めて認識させてくれる一言だと感じました。
【ケース・スタディ】スマートファクトリー化に向けた自働化の取り組み
NECプラットフォームズの成田尚志氏に、「スマートファクトリー化に向けた自働化の取り組み」というテーマで執筆いただきました。NECプラットフォームズでは、従来からスマートファクトリー化による生産性向上に取り組まれてきましたが、さらなる進化として、「自動化の標準化」と「人が担ってきた高度な作業への自働化拡大」を進めています。1つ目の「自働化の標準化」は、ロケーションフリーで効率的なモノづくりの実現のためには共通思想の自動化設備開発が重要であり、そのために「自動化プロットフォーム構想」を描き取り組まれています。その事例として、組立工程と検査工程が紹介されています。2つ目は、DXやデジタル技術との融合による自動化技術の高度化で、組立自動化やAIによるティーチングレス、無軌道型AGV走行といった事例が紹介されています。これらは、「付加価値のない作業は積極的に自動化設備に置き換えていくべき」というIEの基本に基づいた方向性であり、デジタル技術を活用する場においても、IEの基本の考え方は共通であることを再認識させられました。
【ケース・スタディ】変種変量生産を実現するデジタルファクトリーの実例
Team Cross FAの貴田義和氏に、「変種変量生産を実現するデジタルファクトリーの実例」というテーマで執筆いただきました。貴田氏はFAプロダクツの社長であるとともに、Team Cross FAというコンソーシアムでビジネス統括も務められています。「Team Cross FA」は、次世代デジタルファクトリーを構築するコンソーシアムです。幹事企業を軸として公的機関やFA・ロボットSIer、地域社会と協力するとともに、日本の国家戦略「コネクテッド・インダストリーズ」とも連携し、新たな価値協創を実現して、製造業のスマートファクトリー化に寄与することをめざしています。このコンソーシアムでは、「デジタルファクトリー」とは、「デジタルツインで環境変化に合わせて最適化された生産と工場運営が可能な工場」をさしてます。その事例として、「DX型ロボットジョブショップ」が紹介されています。管理技術にデジタルを活用し、自律的な生産が可能となる、まさにスマート工場の最先端の姿といえます。現在は、南相馬市復興工業団地の第一号進出企業として建設中だそうですが、今後は中小企業が導入しやすい安価なシステムとして普及を進めたいとのことで、大いに期待したいと思います。
【ケース・スタディ】サプライチェーン最適化サービス「SCDOS」でロジスティクスを超えて新たな領域へ
日立物流の今野勉氏、田代肇氏、櫻田崇治氏に「サプライチェーン最適化サービス『SCDOS』でロジスティクスを超えて新たな領域へ」というテーマでお話を伺いました。日立物流は3PLの国内トップメーカーとして、デジタルを活用して「物流」を新たな領域に進化させ、さらなる社会への貢献をめざしてきました。そのビジネスコンセプトとして「LOGISTEED」をかかげ、「物流の高度化」にとどまらず、ロジスティクスの領域を広げて、お客様や社会に対して価値を提供していくことに重点をおき、その1つとして、「SCDOS」を紹介していただきました。このサービスは、物流情報を使ってお客様の売り上げに貢献できないかという視点で始まったもので、シミュレーションの機能を用いて、物流拠点の選択といった戦略立案時における意思決定支援といった機能が搭載されています。そこには、上流の経営意思決定に入り込み、物流改善支援まで言及することによって物流の地位向上につなげたいという強い思いがあります。そのために、デジタルを活用するだけでなく、これまで現場で培かってきた「アナログの知恵」を最大限に活かし、真に価値を生み出すことのできるスマート物流の実現にチャレンジされており、今後の動向に目が離せない事例です。
【ケース・スタディ】スマートロジスティクスのすすめ
アイオイ・システムの多田潔氏に「スマートロジスティクスのすすめ~製造と物流の効率化を実現する~」というテーマで執筆いただきました。アイオイ・システムは、物流・製造支援システムの開発・提案・構築を主たる事業とする会社で、デジタルピッキングシステムのパイオニアとして、ケーブル接続有線方式、無線方式など1,000種類以上のデジタル表示器の他、画像処理技術を応用したプロジェクションピッキングシステム「PPS」、見えるRFID「スマートカード」などの独自システムを供給されていて、これらを「ヒトとモノと情報とをきめ細かに結ぶ技術」と位置づけ、モノづくりの作業効率化に活用したまさに最前線の事例を紹介していただきました。
【テクニカル・ノート】フィジカルインターネットでスマート物流を実現
上智大学名誉教授の荒木勉先生に「フィジカルインターネットでスマート物流を実現」というテーマで執筆いただきました。荒木先生は物流の「新・世界標準」として注目されているフィジカルインターネットに早くから着目され、日本への普及促進のために「フィジカルインターネット~企業間の壁崩す物流革命~」を翻訳され、2020年に出版されました。これからの物流のあるべき姿を築き、物流そのものの地位向上をめざした活動を精力的に進められています。そのためのフィジカルインターネットの特徴とねらいをまとめていただきました。
【プリズム】日本政府におけるフィジカルインターネットへの取り組みについて
野村総合研究所の藤野直明氏には、「日本政府におけるフィジカルインターネットへの取り組みについて」というテーマで物流改革の現状について報告をいただきました。