IEを拡く活用してもらうための人材育成
2022年8月 / 326号 / 発行:2022年8月1日
目次
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巻頭言
現場モノづくり力向上のための改善活動と人財育成
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特集テーマのねらい(特集記事)
IEを拡く活用してもらうための人材育成
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論壇(特集記事)
IE改善マインドによる人財育成
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ケース・スタディ(特集記事)
デジタル人材の社内育成プログラム
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ケース・スタディ(特集記事)
モノづくり人材強化への取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
IEの独自展開/浸透による人材育成
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ケース・スタディ(特集記事)
最前線で活躍する技術者へのIE教育
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ケース・スタディ(特集記事)
5S活動を主体とした業務改善と人材教育
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会社探訪
IoT導入で社員と描く町工場の未来-上田製袋(株)-
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
「IEはムダのない施設をつくることに役立つ」を実践
いろいろな現場を経験することが自分の成長につながっている
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連載講座
つなぐ技術のものづくり力[Ⅲ]
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ビットバレーサロン
ほめる達人の人財育成
概要 -
コラム(121)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
日本の人口は、2008年の12,808万人をピークとしてその後、減少に転じ、2065年には8,808万人まで減少することが推測されています。ところが、実際の働き手となる15~64歳人口、いわゆる生産年齢人口は遡ること1997年の8,699万人から2021年には7,455万人まで減少しています。人手の減少はすでに4半世紀にわたり継続しており、益々希少性が高まっています。そのような状況の中で、技術の高度化によって仕事の内容も変化してきており、また、社会的には賃金の上昇をめざす政策が展開されているため、生産性を高めていくための取り組みをしていかなければ、企業としての競争力を失う可能性があります。業務内容を見直し、価値とムダを顕在化し、ムダを排除し、最小限の人的資源に供給する、まさしくIEの見方・考え方そのものが求められています。
一方で、世間ではIoT、AI、そしてDXが注目を集めています。しかし、デジタル化が推進されれば問題は解決するかというと、必ずしもそうでないことはご存じの通りだと思います。現状のプロセスを最適化し、そこからデジタル化を行なう。例えデジタル化が先行しても、そこから見えたものを最適化し、再びデジタル化にフィードバックする。最適化とデジタル化をサイクリックに行ない、企業の目的である収益性を向上し続けるとすれば、そこに必要となるものがIEであり、その拡大のための人材育成は時代にかかわらず重要な課題といえます。
これまで、IE人材の育成については、本誌でも特集を組み取り上げてきました。しかしながら、主としてスタッフ人材を対象とした育成や研修の内容が多くなっていました。
本特集では、IEを拡く活用いただくことを目的として、現場で直接業務に携わるパートも含む新人作業者を対象とした指導、教育にフォーカスを当て、そのユニークな取り組みについてまとめ特集を組むこととしました。IE教育の教材やカリキュラム、支援の仕組み、そしてそれらの取り組みにおける工夫などを紹介いただき、現場での活用の促進について考えることとしました。
記事構成
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論壇
「IE改善マインドによる人財育成」というテーマで、青山学院大学の松本俊之先生に執筆いただきました。松本先生は、改善活動によって生産性を向上し、その結果として余裕を作り、さらにその余裕を業務・製造・改善のレベルアップのために活用することにより、改善し続ける改善現場を作ることを提唱されています。健全なる危機感を持ち、楽しく問題解決を行なうためにIE改善マインドが重要となり、そのための人財育成の進め方について詳細に説明をいただいています。人間の身体をなぞってのモーションマインド、ものマインド、設備マインド、そして情報マインド、その育成に有効な手法の紹介、気づきを与え、意識を変化する方法である「改善のすすめ」などが紹介されています。また、具体的な企業事例も紹介されています。改善活動における改善力のレベルと小学校、中学校・高校、大学・大学院という3つのレベルに分類した表現は分かりやすく、あわせて継続的、かつ段階的な人財育成の必要性について理解することができます。 -
ケース・スタディ
- ①ダイキン工業の都島良久氏、下津直武氏に、「デジタル人材の社内育成プログラム」というテーマで執筆いただきました。同社では、企業間での獲得競争が激化しているデジタル人材の育成を社内で行なうことを目的に、ダイキン情報技術大学(DICT)を2017年12月に開講しています。ここでは、テーマ実行力、分析力、データエンジニアリング力を有したデータサイエンティスト、ビジネスモデルを提案するビジネスイノベータ、基盤システムの拡張を行なうシステムアーキテクトの3つの必要とされる人材の育成を行なっています。新入社員、既存社員、基幹職員、幹部層、経営層といった階層別の講座を設けるとともに、全従業員向けのAI活用講座も実施しされています。講座の中で実施されるPBL(Project Based Learning)から実業務へ適用されつつある事例の紹介内容は、現場改善活動におけるデジタル技術の活用とIErの能力をデジタル技術により拡張することについて理解を深める上でも、貴重な内容となっています。
- ②クボタの小宮山賢吉氏に、「モノづくり人材強化への取り組み」というテーマで執筆いただきました。同社の生産システムは、同期生産、1個流し、5ゲン主義に取り組み、クボタ生産方式(KPS)へと進化しています。これを支える人材育成のため、階層別教育、目的別専門教育とともに、IE教育も行なってきました。特に5ゲン道場における座学と演習、自職場での改善活動といった実践型の研修は効果を発揮する一方、職制および選抜者のみの教育のため、現場作業者への展開ができていないといった課題がありました。作業者自身が問題を見つけ、自ら改善する意識改革とそのために必要なIE教育を行なうことが不可欠となる中、本稿では新入職者への基本技能習得訓練、日常管理板による意識改革、現場改善トレーナーによる改善OJTなど、IEを拡大する教育などの取り組み内容が具体的に紹介されています。
- ③日本ピラー工業の藤原優氏、濱口陵二氏、谷口剛氏に「IEの独自展開/浸透による人材育成」というテーマでお話を伺いました。同社では2020年より中期経営計画である「BTvision22」に取り組み、2024年の創業100年、そしてその後の100年を見据えた活動を展開しています。人材育成の取り組みは、原価低減活動を通じて実施されています。この活動では、現場起点での基本的な考え方の共有とともに、QC手法、IE手法などの手法の習得と活用が実施されています。記事では、新入社員への人財育成や社内ライブラリを活用した人材育成ノウハウの蓄積と展開が紹介されるとともに、原価低減活動とともに、IE手法の習得という地道な活動から改善提案へとつなげ、さらなるIE手法の習得といった好循環を生む仕組みについて紹介されています。
- ④山形県立産業技術短期大学校の山口俊憲先生に「最前線で活躍する技術者へのIE教育」というテーマで執筆いただきました。山口先生の所属機関は職業能力開発促進法に基づく高度技能者の育成を目的とした県立の職業訓練施設です。主に高等学校を卒業した生徒が学ぶ2年間の専門課程、リカレント教育の場として社会人や専門課程修了者を対象とした1年間の産業技術専攻科、能力開発セミナーも実施しています。職業訓練校といった性質上、固有技術を中心とした技能教育に傾注しがちな中、山口先生が15年以上にわたり安全性・生産性の向上、特に現場作業者へのIEの理解と現場での活用を目的として実施した教育内容がコンセプトとともに紹介されています。
- ⑤浜理薬品工業の大谷卓三氏に「5S活動を主体とした業務改善と人材育成」というテーマで執筆いただきました。同社では、「GOEs(ゴーズ)活動」と称し、5S活動を実施しています。取引予定の会社の現場視察の苦い経験より、1992年に100%出資する子会社から活動を開始し、その後、事務部門も含め全社に展開としています。7か月を単位とした1ブロックで活動は行なわれ、5Sと業務改善の2つのテーマに取り組まれています。業務改善ではすでに4,000を超える業務改善テーマに取り組んでいますが、これらの取り組みを進める中での人材育成の内容と最近の具体的テーマの内容について紹介されています。
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ビットバレーサロン
カズテックの森藤良夫氏に「ほめる達人の人財育成」というテーマで執筆いただきました。本稿は、著者のこれまでの取り組みをエピソードも交えて紹介された内容となっています。ほめることが個人に、会社に、そして社会に与えるインパクトについて考える参考となるでしょう。