あらためて3現主義を見直す
2022年10月 / 327号 / 発行:2022年10月1日
目次
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巻頭言
世界一の顧客価値実現に向けた素材企業の改革
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特集テーマのねらい(特集記事)
あらためて3現主義を見直す
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論壇(特集記事)
データ活用による三現主義の実践
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ケース・スタディ(特集記事)
締結作業管理システムの導入
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ケース・スタディ(特集記事)
現場の見える化から生産性の向上へ
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ケース・スタディ(特集記事)
ダイセル式生産革新がAIで進化
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ケース・スタディ(特集記事)
「ものづくり工場管理実践塾」@島根
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対談(特集記事)
モノづくりにおける「見える化」とは? モノづくりへの想いとともに
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会社探訪
自動化技術によるボディ溶接・塗装外観検査と社内の美化緑化活動を通じた人財育成-日産自動車九州(株)-
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現場改善
食品工場における労務コスト改善
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
小さい頃から数字・数学好き。
数字を使って全体最適を示すことがIEの魅力
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連載講座
つなぐ技術のものづくり力[Ⅳ]
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コラム(122)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
3現主義、すなわち現場に赴き、現物を確認し、起こっている現実をしっかりと認識した上で対応策を考えることは、「モノづくり」の世界において重要視され、広く知られています。しかし、新型コロナウイルス感染症が世界中で蔓延したことによって、各国でロックアウトや外出制限などの政策が取られ、現場に直接出向かずに仕事を進めるリモートワークやビデオ会議ソフトを利用したリモート会議が浸透しつつあります。
一方、ICTの長足の発展と第3次AIブームの波に乗り、IoT機器の開発も盛んに行なわれるようになり、さらに、4Kや5Kなど、スチルカメラやビデオカメラの撮影画像の高解像度化が進んだことにより、IEの現場においては、従来に比べて格段に精度の高い、ネットワーク化された現場監視ツールなどを活用できるようになってきました。さらに、職場の世代交代が進む中で、こうした新しいツールを用いた現場監視や現場確認が現場へ赴くことなくなかば自動的にできるようになってくると、ベテランからの技能伝承の機会も少なくなり、現場・現物・現実への意識が知らず知らずのうちに希薄となってきてしまっている若手IErも少なくないのではないでしょうか?
そこで、本特集号では、3現主義の地道な実践事例や、既存技術や最新技術/ツールとの組み合わせによってうまく現場の問題解決につながった事例、革新的アイディアによって新しい時代の3現主義を実現するための先進的な事例など、幅広い事例を紹介することによって、従来からの3現主義の重要性を再認識し、再考の議論を深め、3現主義の産業界でのさらなる普及・発展を促すことをねらいといたしました。
記事構成
今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ4件、対談1件の記事を掲載しています。主な内容を、以下に要約して紹介します。
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論壇
「データ活用による三現主義の実践~データ活用の実態と課題~」というテーマで、日本生産性本部の小林俊介氏に執筆いただきました。小林氏はまず、コンサルタントという立場で、多数の製造現場を観察してきた経験から3現主義が実践されている現場においてさえ、現実の客観的な把握については多くの問題や課題が散見されていたことを述べられ、その要因として、そもそも作業や業務の記録を、客観的に、定量的に残していないことが多いことを指摘されています。さらに、切削加工、プレス加工、水産加工という異なる製造工程における具体的なデータ収集事例を3社取り上げて、実態がどうなっているのかを紹介しながら、データ収集における問題点について言及されています。続いて、どのような工夫を行なえば、製造工程において上手にデータを収集、活用し、客観的な事実として「現場を見える化」できるのかについて、どのデータをどのように収集・記録すべきなのか、現場の工程の管理レベルに応じた課題解決の方向性を示されました。さらに、工程でのデータ収集と分析を基に改善を実践している事例として、板金加工と金属加工の2社が紹介されています。 -
ケース・スタディ
- ①戸上電機製作所の松本創太氏に、「締結作業管理システムの導入」というテーマで執筆いただきました。同社で長年取り組んでいるTPW(Togami group Production Way)活動の一環として、ICT、IoTを活用した工程の見える化やデジタルトランスフォーメーション(DX)などを取り入れている中で、ソフト設計の内製化による自社設計部門のレベルアップにつながった締結作業管理システムの導入事例が紹介されています。まずは、現状の定量的な把握として、マジックチェック、トルクチェック、工具の持ち替え時間などの各要素作業に対してIEの基本である時間測定を行ない、それを基に改善目標の設定を行なっています。続いて、鋲螺締結を自動で管理できるハードウェアシステムの検討として、制約条件を満たすハードウェアの選定を行ない、アタッチメント型のトルクルを採用することとし、通常のトルクレンチとの性能分析を実施して、相対誤差の統計分布や目標設定値に対する傾向等を確認し、トルクルを使用した場合の方が、通常のトルクレンチに比べて計測性能が安定し、作業者依存性が改善され、計測制度および信頼性の向上が見られることを確認しています。最後に、改善実施状況について具体的な数値を用いて、工数削減の効果などについてまとめています。
- ②高砂香料西日本工場の川村秀樹氏に、「現場の見える化から生産性の向上へ~『C・D(コスト・納期)』を維持向上させる仕組みづくりへの挑戦~」というテーマで執筆いただきました。同社は2013年7月に設立され、今年で10年目の食品向け香料の製造会社ですが、製品の特性上、アルコールなどの引火性のある危険物を扱わざるを得ないため、防爆仕様となり、生産現場で広く使われている各種センサー類や情報機器類などをそのまま使うことができないという制約の中で、どのように現場の見える化に挑戦されたのか、詳細にまとめてくださっています。具体的には、各種の生産関連指標をKPIとして算出することによって「現場の負荷度合いが見える」「製品ごとの投入時間の実態が見える」「ムダ・ムリ・ムラが見える」「現場の効率度合いが見える」ようにする活動が、川村氏の計画の下、着実に展開されています。見える化のために既存の情報と組み合わせて活用し、現場の負荷を増やすことなく、1歩ずつ現場の実情の見える化を進め、スタッフと現場の一体化を進めています。特に、日報作成やQCD小集団活動、5S活動など、IEの基本に忠実な取り組みによって成果が上がりつつあることは、他社にとっても参考になる内容であると思います。
- ③ダイセルの三好史浩氏に「ダイセル式生産革新がAIで進化~自律型生産システムで自ら考える工場へ~」というテーマで執筆いただきました。同社では、1990年代半ば以降、長期的な将来構想に基づいて着々と生産統合を進めておられ、すでに現場の情報をコントロールルームに集約して、現場のデータを確認できていましたが、監視範囲が広がっていくことで、オペレータの負荷増大を招いていたそうです。そこで、「人組織の革新」「生産システムの革新」「情報システムの革新」を同時に実現することをめざして進められてきた取り組みとして、運転標準化のための統合OBSと2017年から東京大学と共同で研究開発してきた自律型生産システムについて紹介しています。
- ④しまね産業振興財団に「『ものづくり工場管理実践塾』@島根~現場の『新たな気づき』のきっかけに~」というテーマで取材させていただきました。同財団が提供している「ものづくり工場管理実践塾」と、高橋産業と高浜印刷における2つの事例について、ライターの江頭紀子氏に取材内容をまとめてもらいました。「ものづくり工場管理実践塾」では、ムダの洗い出しと改善活動のためのセミナーを中心に、半年で4回ほどの座学やワークショップ形式で行なっていることが紹介されています。高橋産業と高浜印刷の事例では、トイレ使用中ランプの自作や、空いたスペースをキッズルームにするなどのユニークな取り組みも紹介されています。
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対談
キャステムの戸田拓夫社長にインタビューし、本特集テーマに関して、慶應義塾大学の河野宏和編集委員長との対談形式で、率直に語っていただきました。見える化というと、情報システムの導入など、ツールの導入に焦点が当たるケースがありますが、このインタビューでは、経営トップの想いや理念をいかに見える化して社員と共有していくか、戸田社長が工夫・苦労されている点を率直にうかがいました。想いや理念の共有が、社内の風土を明るくし、新規事業への取り組みを活性化し、人材の育成に結びついている様子が、生き生きと語られています。見える化を経営に結びつけていく上で、大切な視点を提示いただいていると思います。
おわりに
本特集記事はいずれも異なる切り口で取り組まれた事例ばかりですが、現場・現物・現実を客観的に把握することが重要であることは、オンラインでの仕事の環境が整備されたとしても、今後も本質的に変わることはないと思われます。編集委員会のねらい通り、本特集が3現主義の再考の議論を深め、会員企業での新たな取り組みの改善活動の取り組みのきっかけとなることを願っています。
小林 稔/企画担当編集委員
【論壇】データ活用による三現主義の実践
「データ活用による三現主義の実践~データ活用の実態と課題~」というテーマで、日本生産性本部の小林俊介氏に執筆いただきました。小林氏はまず、コンサルタントという立場で、多数の製造現場を観察してきた経験から3現主義が実践されている現場においてさえ、現実の客観的な把握については多くの問題や課題が散見されていたことを述べられ、その要因として、そもそも作業や業務の記録を、客観的に、定量的に残していないことが多いことを指摘されています。さらに、切削加工、プレス加工、水産加工という異なる製造工程における具体的なデータ収集事例を3社取り上げて、実態がどうなっているのかを紹介しながら、データ収集における問題点について言及されています。続いて、どのような工夫を行なえば、製造工程において上手にデータを収集、活用し、客観的な事実として「現場を見える化」できるのかについて、どのデータをどのように収集・記録すべきなのか、現場の工程の管理レベルに応じた課題解決の方向性を示されました。さらに、工程でのデータ収集と分析を基に改善を実践している事例として、板金加工と金属加工の2社が紹介されています。
【ケース・スタディ】締結作業管理システムの導入
戸上電機製作所の松本創太氏に、「締結作業管理システムの導入」というテーマで執筆いただきました。同社で長年取り組んでいるTPW(Togami group Production Way)活動の一環として、ICT、IoTを活用した工程の見える化やデジタルトランスフォーメーション(DX)などを取り入れている中で、ソフト設計の内製化による自社設計部門のレベルアップにつながった締結作業管理システムの導入事例が紹介されています。まずは、現状の定量的な把握として、マジックチェック、トルクチェック、工具の持ち替え時間などの各要素作業に対してIEの基本である時間測定を行ない、それを基に改善目標の設定を行なっています。続いて、鋲螺締結を自動で管理できるハードウェアシステムの検討として、制約条件を満たすハードウェアの選定を行ない、アタッチメント型のトルクルを採用することとし、通常のトルクレンチとの性能分析を実施して、相対誤差の統計分布や目標設定値に対する傾向等を確認し、トルクルを使用した場合の方が、通常のトルクレンチに比べて計測性能が安定し、作業者依存性が改善され、計測制度および信頼性の向上が見られることを確認しています。最後に、改善実施状況について具体的な数値を用いて、工数削減の効果などについてまとめています。
【ケース・スタディ】現場の見える化から生産性の向上へ
高砂香料西日本工場の川村秀樹氏に、「現場の見える化から生産性の向上へ~『C・D(コスト・納期)』を維持向上させる仕組みづくりへの挑戦~」というテーマで執筆いただきました。同社は2013年7月に設立され、今年で10年目の食品向け香料の製造会社ですが、製品の特性上、アルコールなどの引火性のある危険物を扱わざるを得ないため、防爆仕様となり、生産現場で広く使われている各種センサー類や情報機器類などをそのまま使うことができないという制約の中で、どのように現場の見える化に挑戦されたのか、詳細にまとめてくださっています。具体的には、各種の生産関連指標をKPIとして算出することによって「現場の負荷度合いが見える」「製品ごとの投入時間の実態が見える」「ムダ・ムリ・ムラが見える」「現場の効率度合いが見える」ようにする活動が、川村氏の計画の下、着実に展開されています。見える化のために既存の情報と組み合わせて活用し、現場の負荷を増やすことなく、1歩ずつ現場の実情の見える化を進め、スタッフと現場の一体化を進めています。特に、日報作成やQCD小集団活動、5S活動など、IEの基本に忠実な取り組みによって成果が上がりつつあることは、他社にとっても参考になる内容であると思います。
【ケース・スタディ】ダイセル式生産革新がAIで進化
ダイセルの三好史浩氏に「ダイセル式生産革新がAIで進化~自律型生産システムで自ら考える工場へ~」というテーマで執筆いただきました。同社では、1990年代半ば以降、長期的な将来構想に基づいて着々と生産統合を進めておられ、すでに現場の情報をコントロールルームに集約して、現場のデータを確認できていましたが、監視範囲が広がっていくことで、オペレータの負荷増大を招いていたそうです。そこで、「人組織の革新」「生産システムの革新」「情報システムの革新」を同時に実現することをめざして進められてきた取り組みとして、運転標準化のための統合OBSと2017年から東京大学と共同で研究開発してきた自律型生産システムについて紹介しています。
【ケース・スタディ】「ものづくり工場管理実践塾」@島根
しまね産業振興財団に「『ものづくり工場管理実践塾』@島根~現場の『新たな気づき』のきっかけに~」というテーマで取材させていただきました。同財団が提供している「ものづくり工場管理実践塾」と、高橋産業と高浜印刷における2つの事例について、ライターの江頭紀子氏に取材内容をまとめてもらいました。「ものづくり工場管理実践塾」では、ムダの洗い出しと改善活動のためのセミナーを中心に、半年で4回ほどの座学やワークショップ形式で行なっていることが紹介されています。高橋産業と高浜印刷の事例では、トイレ使用中ランプの自作や、空いたスペースをキッズルームにするなどのユニークな取り組みも紹介されています。
【対談】モノづくりにおける「見える化」とは? モノづくりへの想いとともに
キャステムの戸田拓夫社長にインタビューし、本特集テーマに関して、慶應義塾大学の河野宏和編集委員長との対談形式で、率直に語っていただきました。見える化というと、情報システムの導入など、ツールの導入に焦点が当たるケースがありますが、このインタビューでは、経営トップの想いや理念をいかに見える化して社員と共有していくか、戸田社長が工夫・苦労されている点を率直にうかがいました。想いや理念の共有が、社内の風土を明るくし、新規事業への取り組みを活性化し、人材の育成に結びついている様子が、生き生きと語られています。見える化を経営に結びつけていく上で、大切な視点を提示いただいていると思います。