DX推進の課題と展望
2022年12月 / 328号 / 発行:2022年12月1日
目次
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巻頭言
激動の時代を生き抜く その源泉は「人」
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特集テーマのねらい(特集記事)
DX推進の課題と展望
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論壇(特集記事)
DX化でプラットフォーム構築に挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
部門を連携したDX推進の課題と展望
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ケース・スタディ(特集記事)
機械と人のDXで生産性革命と全業務見える化への挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
生産工程の状況・生産性の見える化
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講演(特集記事)
モノづくりのDX取り組み
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講演(特集記事)
わが社のDX戦略
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プリズム(特集記事)
体験型ラボによるデジタルソリューションの展開活動
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会社探訪
Mazak iSMART FactoryTMがめざすDX
IoT・AI技術を駆使した自動加工化工場-ヤマザキマザック(株)-
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連載講座
つなぐ技術のものづくり力[Ⅴ]
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レポート
JIIE相互研究会「課題解決を実践する!」
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コラム(123)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
「インダストリー4.0」により、データを介して機械、技術、人などがつながり、価値創造と社会問題解決を支援する新たなモノづくり形態に注目が集まっている。高額な費用がかかるIoTやAIを取り入れDX化に向けて動き出す企業もあるが、一方で「デジタル化」という言葉に恐怖感を持ったり、費用対効果に不安を感じたりして、デジタル技術導入へ踏み切れない企業も多い。日本の現場力といわれるものは、作業者が一丸となってムリ・ムダ・ムラの作業改善を行なうことや、メカだけでなく自然エネルギーを用いたからくり改善Ⓡにより、品質や生産性向上に結びつけていることである。そのような作業者による手作りのデジタル化を考えていければ、IoT導入に対して身構えている企業にとっても身近なものとなる。まずはあまり費用のかからないITをフル活用し、その上で改善や付加価値創出、さらには働き手のやる気アップへとつなげていければ費用対効果は高くなる。
ただIoT導入が目的となってはならない。製造現場で何をしていきたいのかを明確にしていく必要がある。課題のある現場に関して、スマホとビーコンなどの収集方法を用いて仕事の流れや仕組みを見える化し、それまで拾えなかった情報を見える化することにより業務の標準化や改善ポイントを明らかにしていくことができる。さらに、蓄積したデータの分析により原価低減や売り上げ向上につなげていくことのできるデジタル化は、モノづくりと営業との連携、サプライチェーンの見える化、人事・本社機能と各拠点との連携の点でも企業経営を変革していく。このようなデジタル化社会や工場の将来の姿は簡単には予測できないが、モノづくりにおけるDX推進は止められない流れといえるだろう。
DXとは、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することである。日本における現状のDX化を見渡すと、手段が先行しシステム投資へと踏み切れていない。そのため効果が実現しにくいという見方ができる。DX推進には、工場をどうしていきたいのかといった考え、それとともに明日の企業の姿を想い描くことが必要で、既存のシステムを見直し、経営の仕組みを再構築していくことが重要となる。
本稿では、IoT導入におけるスマホ、EXCELなどを活用した費用対効果比率の高い改善事例の紹介から、モノづくり現場や営業・サービス・人事管理でのDXの取り組み事例を幅広く紹介する。
記事構成
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論壇
名古屋工業大学の川村大伸先生に「DX化でプラットフォーム構築に挑戦」と題して執筆いただいた。
本稿では、三機関協働学び合いプロジェクトの一環として実施されたサン樹脂の事例を紹介している。端材の有効活用と環境負荷低減につながる端材を流通させるプラットフォームの構築をめざし、安価な取り組み(EXCEL、加工レコメンドシステムの開発など)を積み重ね、自社の端材管理の標準化や、端材データのテジタル化達成で、その効果を実感し、賛同している同業他社との試験運用も行なった。その結果、経済的な便益を肌で知ったが、端材情報の統一化といった改善点も明らかとなった。これらは、社長のリーダーシップと行動できる社員により大きな改善を実現することができている。 -
ケース・スタディ
- ①住友電装の三宅秀一氏に「部門を連携したDX推進の課題と展望」と題して執筆いただいた。
同社は、自動車・機器用のワイヤーハーネスとワイヤーハーネス・電気機器用の部品の製造販売を行なっているグローバル企業である。全社的にDXを推進するために、ものづくりを軸としたDXを推進するべくDX推進統括部を設立した。そこでは、これまで培ってきたデジタル設計情報を活用し、設計~生産準備~調達~製造~物流までの範囲を連携させ、ものづくりの仕組みを変えていくトランスフォーム(X)の活動を始めている。全体像を描いて活動を進めているが、トランスフォーム(X)部分の認識共有がポイントであり、関連する部門が納得の上、進めることが重要であるとしている。 - ②久野金属工業の久野功雄氏に「機械と人のDXで生産性革命と全業務見える化への挑戦」と題して執筆いただいた。
同社は、自動車用プレス部品の製品設計から金型設計製作、プレス加工組立まで一貫して対応するメーカーである。生産性向上のためにIoT GO(現場が使いやすいモニタリングシステム)を導入した。さらに、IoT GO DXにより、製造だけでなくあらゆる業務を見える化し、生産性と品質の向上を実感している。これらはDXツールとして特許出願中であり、モデル工場として、中小企業の生産革命に貢献していきたいと述べている。 - ③艶金の墨勇志氏に「生産工程の状況・生産性の見える化」と題して執筆いただいた。
同社はファッション業界向け生地の染色加工を生業とし、多品種少量生産や複合素材で色調整が難しいことが特徴である。スケジューラーシステムを導入し、生産工程一元化により、注文ごとの納期がすぐ分かるようになった。現場関係者全員に丁寧に目的の説明を行なうことで、導入の不安・不満を解消した。また加工伝票にビーコンを入れ、染色着手時間と完了時間を自動的に収集できるシステムを導入した。生地の染色加工は、AI色差管理システムによる合否判定ができるよう挑戦している。これからの時代にはパーパス経営への意識変容が必要で、DX推進により企業の課題解決に向かわせ、SDGsの課題を認識し、脱炭素経営に向かうことが重要と述べている。
- ①住友電装の三宅秀一氏に「部門を連携したDX推進の課題と展望」と題して執筆いただいた。
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講演
- ①ブリヂストンの中川大輔氏に「モノづくりのDX取り組み」と題して講演いただいた内容である。
同社は14万人のメンバーを持つグローバル企業である。サステナブルなソリューションカンパニーに向けたモノづくり現場では、事業戦略を踏まえてデジタル化によりグローバルに無駄ロスを見える化し、パフォーマンスを底上げした。AIを活用したセンシング、デジタル技術伝承(技能をスコア化し、熟練作業と今の作業の違いを見える化した教育システムを構築)を共有し進めている。基本的には地産地消を進めるDXであるが、それは顧客の要望を知り、現場で実装し、効果につなげるエンジニアリング力でもある。 - ②武州工業の林英夫氏に「わが社のDX戦略」と題して講演いただいた内容である。
板金、パイプ加工をメインとした同社は、国内生産にこだわり、50年以上黒字を続けている企業である。その秘訣は独自の1個流し生産(1人で最初の工程から完成まで全部行なう)にある。教育施設で多能工技術者を育て、1人で9種類の製品を作っている。LCC実現の活動がSDGsの取り組みに当てはまっている。コストを抑えるための切り札が「生産性見え太君」というアプリで、スマホでも動くBIMMSという情報化の仕組みで取引先とも連携している。
- ①ブリヂストンの中川大輔氏に「モノづくりのDX取り組み」と題して講演いただいた内容である。
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プリズム
群馬県立群馬産業技術センターの細谷肇氏に「体験型ラボによるデジタルソリューションの展開活動」と題して執筆していただいた。
DXの必要性は感じているが、コスト負担の多大さや人材不足などの理由からまったく取り組んでいない企業に対し、企業がデジタル化への第一歩を踏み出す支援として、見て、触って、体験し、感じていただく場であるデジタルソリューションラボをオープンした。例えば、企業の人がVRゴーグルをつけて3D空間モデリングシステムを体験すると、色々な創造が生まれてくる。メーカーのWebサイトに実用例の紹介はないので、見て、触って、体験し、感じていただく場の提供は重要である。
おわりに
【論壇】DX化でプラットフォーム構築に挑戦
名古屋工業大学の川村大伸先生に「DX化でプラットフォーム構築に挑戦」と題して執筆いただいた。
本稿では、三機関協働学び合いプロジェクトの一環として実施されたサン樹脂の事例を紹介している。端材の有効活用と環境負荷低減につながる端材を流通させるプラットフォームの構築をめざし、安価な取り組み(EXCEL、加工レコメンドシステムの開発など)を積み重ね、自社の端材管理の標準化や、端材データのテジタル化達成で、その効果を実感し、賛同している同業他社との試験運用も行なった。その結果、経済的な便益を肌で知ったが、端材情報の統一化といった改善点も明らかとなった。これらは、社長のリーダーシップと行動できる社員により大きな改善を実現することができている。
【ケース・スタディ】部門を連携したDX推進の課題と展望
住友電装の三宅秀一氏に「部門を連携したDX推進の課題と展望」と題して執筆いただいた。
同社は、自動車・機器用のワイヤーハーネスとワイヤーハーネス・電気機器用の部品の製造販売を行なっているグローバル企業である。全社的にDXを推進するために、ものづくりを軸としたDXを推進するべくDX推進統括部を設立した。そこでは、これまで培ってきたデジタル設計情報を活用し、設計~生産準備~調達~製造~物流までの範囲を連携させ、ものづくりの仕組みを変えていくトランスフォーム(X)の活動を始めている。全体像を描いて活動を進めているが、トランスフォーム(X)部分の認識共有がポイントであり、関連する部門が納得の上、進めることが重要であるとしている。
【ケース・スタディ】機械と人のDXで生産性革命と全業務見える化への挑戦
久野金属工業の久野功雄氏に「機械と人のDXで生産性革命と全業務見える化への挑戦」と題して執筆いただいた。
同社は、自動車用プレス部品の製品設計から金型設計製作、プレス加工組立まで一貫して対応するメーカーである。生産性向上のためにIoT GO(現場が使いやすいモニタリングシステム)を導入した。さらに、IoT GO DXにより、製造だけでなくあらゆる業務を見える化し、生産性と品質の向上を実感している。これらはDXツールとして特許出願中であり、モデル工場として、中小企業の生産革命に貢献していきたいと述べている。
【ケース・スタディ】生産工程の状況・生産性の見える化
艶金の墨勇志氏に「生産工程の状況・生産性の見える化」と題して執筆いただいた。
同社はファッション業界向け生地の染色加工を生業とし、多品種少量生産や複合素材で色調整が難しいことが特徴である。スケジューラーシステムを導入し、生産工程一元化により、注文ごとの納期がすぐ分かるようになった。現場関係者全員に丁寧に目的の説明を行なうことで、導入の不安・不満を解消した。また加工伝票にビーコンを入れ、染色着手時間と完了時間を自動的に収集できるシステムを導入した。生地の染色加工は、AI色差管理システムによる合否判定ができるよう挑戦している。これからの時代にはパーパス経営への意識変容が必要で、DX推進により企業の課題解決に向かわせ、SDGsの課題を認識し、脱炭素経営に向かうことが重要と述べている。
【講演】モノづくりのDX取り組み
ブリヂストンの中川大輔氏に「モノづくりのDX取り組み」と題して講演いただいた内容である。
同社は14万人のメンバーを持つグローバル企業である。サステナブルなソリューションカンパニーに向けたモノづくり現場では、事業戦略を踏まえてデジタル化によりグローバルに無駄ロスを見える化し、パフォーマンスを底上げした。AIを活用したセンシング、デジタル技術伝承(技能をスコア化し、熟練作業と今の作業の違いを見える化した教育システムを構築)を共有し進めている。基本的には地産地消を進めるDXであるが、それは顧客の要望を知り、現場で実装し、効果につなげるエンジニアリング力でもある。
【講演】わが社のDX戦略
武州工業の林英夫氏に「わが社のDX戦略」と題して講演いただいた内容である。
板金、パイプ加工をメインとした同社は、国内生産にこだわり、50年以上黒字を続けている企業である。その秘訣は独自の1個流し生産(1人で最初の工程から完成まで全部行なう)にある。教育施設で多能工技術者を育て、1人で9種類の製品を作っている。LCC実現の活動がSDGsの取り組みに当てはまっている。コストを抑えるための切り札が「生産性見え太君」というアプリで、スマホでも動くBIMMSという情報化の仕組みで取引先とも連携している。
【プリズム】体験型ラボによるデジタルソリューションの展開活動
群馬県立群馬産業技術センターの細谷肇氏に「体験型ラボによるデジタルソリューションの展開活動」と題して執筆していただいた。
DXの必要性は感じているが、コスト負担の多大さや人材不足などの理由からまったく取り組んでいない企業に対し、企業がデジタル化への第一歩を踏み出す支援として、見て、触って、体験し、感じていただく場であるデジタルソリューションラボをオープンした。例えば、企業の人がVRゴーグルをつけて3D空間モデリングシステムを体験すると、色々な創造が生まれてくる。メーカーのWebサイトに実用例の紹介はないので、見て、触って、体験し、感じていただく場の提供は重要である。