農業・畜産業におけるIEの活用
2023年5月 / 330号 / 発行:2023年5月1日
目次
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巻頭言
変動に強く、ヒトにやさしいモノづくり
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特集テーマのねらい(特集記事)
農業・畜産業におけるIEの活用
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論壇(特集記事)
スマート農業技術の社会実装と課題
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ケース・スタディ(特集記事)
DXによる夢のある農業の実現
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ケース・スタディ(特集記事)
次世代につなぐ農業をめざし、スマート農業を実践
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ケース・スタディ(特集記事)
酪農家のための働き方改革
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インタビュー(特集記事)
歴史的な岐路に立つフード&アグリ産業でのIEの活用
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テクニカル・ノート(特集記事)
全員目標作業による有機農作業の生産性向上
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レポート(特集記事)
スマート農業の推進
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テクニカル・ノート
価値変化だけからなる組立作業をめざしたもののトーナメントツリーの活用
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コラム(125)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
現在、世の中ではIoTやDXなどが注目されています。その際、どちらかというと技術的な側面について議論されることが多いように感じますが、本来はそれらを手段とし、何を達成するのかを考えることが重要です。例えば、これまでの仕事のやり方を根本から見直すことによる、よりよいQCDの達成や、より顧客価値の高い製品やサービスの提供の実現などです。今後のIEにおいても、改善活動などに新しい技術や道具、そして考え方などをうまく取り入れ、IEの適用の仕方や適用の範囲を変化、拡大させながら、本来の目的である「生産性向上」を達成し続けることが求められます。そのためには、これまで多くの現場で長年、積み重ねられてきた実績や知見を共有することに加えて、一歩引いた視点、客観的な視点でIEを見ることも必要なのではと考えました。
このような観点から本号は、日本の「農業」や「畜産業」におけるIEの活用を特集します。本誌でこのテーマを取り上げる意図は、主に以下の2点です。
1点目は、IEにとって身近な製造業ではなく、一見すると異なる領域と思われる農業に関する事例を知ることで、IEとは何か、改善の目的とは何か、といったことについて客観的に考察しやすくなると考えたことです。
2点目は、IEの適用範囲の拡大の可能性についても、農業の事例から客観的に考察しやすくなると考えたことです。これからの日本では、農業をはじめあらゆる産業において、本質的な生産性向上が求められると考えます。農業では、近年、担い手が減少していく一方で、農地法の改正などを通して一般企業の参入が促されています。実際に既存の企業が農業へ参入し、IE的な取り組みを実践することで一定の成果を上げている事例もあります。
以上のことから本特集では、「農業」や「畜産業」に対する新たな視点の導入や、IoTなどの技術を活用した取り組みの実践により、生産性向上を図っている事例を取り上げます。それらの事例を通して、今後のIEのあり方、適用範囲の拡大、さらには新規事業への参入などについて考察できたらと考えます。
記事構成
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論壇
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の川嶋浩樹氏に「スマート農業技術の社会実装と課題」と題して執筆いただきました。
生産者の減少や高齢化による生産力の低下が懸念されている中、スマート農業への期待が高まっています。本稿では、日本におけるスマート農業の社会実装の現状と、その課題について示されています。農作業は、品目や規模により作業の方法や特性が大きく異なるため、スマート農業の実現においてはその差異によって難度が異なることや、省力化や効率化にはつながっても導入コストの壁があることなど、農業の生産性向上を考える上で基礎となるデータが示されています。 -
ケース・スタディ
- ①深耕ファーム((株)ヤマダ製作所・農業事業部)の山田和也氏、山田倉造氏には「DXによる夢のある農業の実現」と題してお話しいただきました。
同社は、正社員2名、パートタイム従業員3名の体制で主に稲作に取り組んでいます。少ない人数で地域に点在した農地(合計84ha)を効率よく運営するため、GPSを活用したトラクターの自動運転、ドローンによる農薬散布、IoT機器などを活用した定量的な農地管理など、「夢のある農業」のための様々な工夫をしています。それらの取り組みや実践に関する具体的な事例が紹介されるとともに、農業のあり方だけでなく、様々な取り組みに対する同社の考え方が述べられています。 - ②(株)アイファームの池谷伸二氏には「次世代につなぐ農業をめざし、スマート農業を実践」と題してお話しいただきました。
同社は、ドローンやAIなどを活用しながら、業務用と量販用のブロッコリーを大規模に生産しています。池谷氏は内装工事の会社を経営していましたが、リーマンショックを機に2009年に農業に参入しました。内装工事の経験を活かした分業制の導入や、画像や数値データを駆使したスマート農業にり取組み、効果をあげています。当初は0.3haだった作付面積も、現在は140haにまで拡大しています。さらに、付加価値の高い機能性ブロッコリーの開発にも着手しています。次世代のための魅力ある農業の実現のための様々な取り組みが述べられています。 - ③(公財)日本生産性本部の越後比佐代氏には「酪農家のための働き方改革」と題する調査報告を紹介いただきました。
酪農家の作業の分析結果に基づき、搾乳作業の無理のない効率化、牛舎清掃作業の効率化、施設への5Sの適用などを実施した結果、様々な効果が得られることが示されています。さらに、同本部が開発した「簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)」の紹介とその適用方法についても、具体例に基づいて述べられています。
- ①深耕ファーム((株)ヤマダ製作所・農業事業部)の山田和也氏、山田倉造氏には「DXによる夢のある農業の実現」と題してお話しいただきました。
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インタビュー
野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)の濵田隆徳氏には「歴史的な岐路に立つフード&アグリ産業でのIEの活用」と題して執筆いただきました。
日本の農業分野は国内の課題だけでなく、世界的な人口増加、環境負荷、地政学的な変動といったグローバルな課題にも対処する必要があることが指摘されています。そうした課題解決の1つの方向性としてのDXの活用について述べられています。IEのように科学的根拠に基づいて、農業を食料確保のための「食料システム」として俯瞰的に捉える必要性についても指摘されています。 -
テクニカル・ノート
成蹊大学の佐藤珠希氏と篠田心治氏には「全員目標作業による有機農作業の生産性向上」と題して執筆いただきました。
有機農業では化学肥料や農薬を使用しないため、例えば雑草を人手で除去しなければならないなど、一般的な農業より作業負荷が高い傾向があります。そのような中、農作業の生産性低下につながる不明確な品質基準と作業方法の属人化に着目し、実際の農業の現場を対象としたフィールド調査と実証に取り組まれています。「もの・こと分析」を応用して農作業に適用し、品質基準の明確化と、より付加価値の高い作業を集約した「全員目標作業」の構築について、具体的な作成手順とともに示されています。この考え方に基づいて構築した作業を実際の農作業において実践した結果、作業全体の時間を18%以上、減少させられたことが示されています。 -
レポート
農林水産省大臣官房政策課技術政策室からは「スマート農業の推進」と題して執筆いただきました。
日本におけるスマート農業の位置付けや、内閣府の国家プロジェクトであるSIP(Strategic Innovation promotion Program)「次世代農林水産業創造技術」を活用した官民連携による研究開発の成果について紹介されています。大規模水田作での収量コンバインの活用や営農管理システムの導入事例、ハウス内の温度・湿度データや植物生体データに基づいた施設キュウリ栽培、搾乳ロボットデータ管理システムの導入による乳量増加などの事例が示されています。また、こうした新技術の導入コストを抑えるべく、農業支援サービス事業体を育成する必要性も説かれています。最後に、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために同省が策定した「みどりの食料システム戦略」についても解説されています。
おわりに
【論壇】スマート農業技術の社会実装と課題
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の川嶋浩樹氏に「スマート農業技術の社会実装と課題」と題して執筆いただきました。
生産者の減少や高齢化による生産力の低下が懸念されている中、スマート農業への期待が高まっています。本稿では、日本におけるスマート農業の社会実装の現状と、その課題について示されています。農作業は、品目や規模により作業の方法や特性が大きく異なるため、スマート農業の実現においてはその差異によって難度が異なることや、省力化や効率化にはつながっても導入コストの壁があることなど、農業の生産性向上を考える上で基礎となるデータが示されています。
【ケース・スタディ】DXによる夢のある農業の実現
深耕ファーム((株)ヤマダ製作所・農業事業部)の山田和也氏、山田倉造氏には「DXによる夢のある農業の実現」と題してお話しいただきました。
同社は、正社員2名、パートタイム従業員3名の体制で主に稲作に取り組んでいます。少ない人数で地域に点在した農地(合計84ha)を効率よく運営するため、GPSを活用したトラクターの自動運転、ドローンによる農薬散布、IoT機器などを活用した定量的な農地管理など、「夢のある農業」のための様々な工夫をしています。それらの取り組みや実践に関する具体的な事例が紹介されるとともに、農業のあり方だけでなく、様々な取り組みに対する同社の考え方が述べられています。
【ケース・スタディ】次世代につなぐ農業をめざし、スマート農業を実践
(株)アイファームの池谷伸二氏には「次世代につなぐ農業をめざし、スマート農業を実践」と題してお話しいただきました。
同社は、ドローンやAIなどを活用しながら、業務用と量販用のブロッコリーを大規模に生産しています。池谷氏は内装工事の会社を経営していましたが、リーマンショックを機に2009年に農業に参入しました。内装工事の経験を活かした分業制の導入や、画像や数値データを駆使したスマート農業にり取組み、効果をあげています。当初は0.3haだった作付面積も、現在は140haにまで拡大しています。さらに、付加価値の高い機能性ブロッコリーの開発にも着手しています。次世代のための魅力ある農業の実現のための様々な取り組みが述べられています。
【ケース・スタディ】酪農家のための働き方改革
(公財)日本生産性本部の越後比佐代氏には「酪農家のための働き方改革」と題する調査報告を紹介いただきました。
酪農家の作業の分析結果に基づき、搾乳作業の無理のない効率化、牛舎清掃作業の効率化、施設への5Sの適用などを実施した結果、様々な効果が得られることが示されています。さらに、同本部が開発した「簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)」の紹介とその適用方法についても、具体例に基づいて述べられています。
【インタビュー】歴史的な岐路に立つフード&アグリ産業でのIEの活用
野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)の濵田隆徳氏には「歴史的な岐路に立つフード&アグリ産業でのIEの活用」と題して執筆いただきました。
日本の農業分野は国内の課題だけでなく、世界的な人口増加、環境負荷、地政学的な変動といったグローバルな課題にも対処する必要があることが指摘されています。そうした課題解決の1つの方向性としてのDXの活用について述べられています。IEのように科学的根拠に基づいて、農業を食料確保のための「食料システム」として俯瞰的に捉える必要性についても指摘されています。
【テクニカル・ノート】全員目標作業による有機農作業の生産性向上
成蹊大学の佐藤珠希氏と篠田心治氏には「全員目標作業による有機農作業の生産性向上」と題して執筆いただきました。
有機農業では化学肥料や農薬を使用しないため、例えば雑草を人手で除去しなければならないなど、一般的な農業より作業負荷が高い傾向があります。そのような中、農作業の生産性低下につながる不明確な品質基準と作業方法の属人化に着目し、実際の農業の現場を対象としたフィールド調査と実証に取り組まれています。「もの・こと分析」を応用して農作業に適用し、品質基準の明確化と、より付加価値の高い作業を集約した「全員目標作業」の構築について、具体的な作成手順とともに示されています。この考え方に基づいて構築した作業を実際の農作業において実践した結果、作業全体の時間を18%以上、減少させられたことが示されています。
【レポート】スマート農業の推進
農林水産省大臣官房政策課技術政策室からは「スマート農業の推進」と題して執筆いただきました。
日本におけるスマート農業の位置付けや、内閣府の国家プロジェクトであるSIP(Strategic Innovation promotion Program)「次世代農林水産業創造技術」を活用した官民連携による研究開発の成果について紹介されています。大規模水田作での収量コンバインの活用や営農管理システムの導入事例、ハウス内の温度・湿度データや植物生体データに基づいた施設キュウリ栽培、搾乳ロボットデータ管理システムの導入による乳量増加などの事例が示されています。また、こうした新技術の導入コストを抑えるべく、農業支援サービス事業体を育成する必要性も説かれています。最後に、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために同省が策定した「みどりの食料システム戦略」についても解説されています。