環境変化に強いサプライチェーンの構築
2024年3月 / 334号 / 発行:2024年3月1日
目次
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巻頭言
IEを活用した最適なサプライチェーンの実現
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2024年度の特集テーマについて
2024年度の特集テーマについて
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特集テーマのねらい(特集記事)
環境変化に強いサプライチェーンの構築
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論壇(特集記事)
グローバリゼーションとサプライチェーン
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ケース・スタディ(特集記事)
環境変化に強いサプライチェーンの構築
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ケース・スタディ(特集記事)
モーダルコンビネーションの推進
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ケース・スタディ(特集記事)
「物流の2024年問題」は決して怖くない
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レポート(特集記事)
JILS活動紹介
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プリズム(特集記事)
サプライチェーンマネジメントの国際資格APICS
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プリズム(特集記事)
サプライチェーンの強靭化とデューディリジェンス
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会社探訪
世界最高峰のレンズメーカーであり続けるために
Made in AizuにこだわるSIGMAのものづくり-(株)シグマ 会津工場-
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
社長である母と二人三脚で
誰もが持てる力を発揮できる職場づくりをめざして
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レポート
「本物のものづくり」研究交流会(第1期)を開催して
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コラム(129)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
パンデミック、自然災害、地政学的リスクなど、サプライチェーンの維持・運営に対するリスクが多発しており、原材料・部品の調達から製品出荷まで広範囲に影響を与えている。JIT(ジャスト・イン・タイム)を基盤とした、日本式モノづくりのサプライチェーンの弱点が顕在化してしまい、発注先の多様化や在庫の積み増しなどの対応策とともにサプライチェーンの抜本的な見直しに迫られている。一方、サプライチェーンの重要な構成要素である物流部門は、法規制緩和による新規参入などによりサプライチェーン全体の競争力強化に寄与してきたが、「物流の2024年問題」といわれる車両運転手不足や長時間労働解消のためのコスト上昇がサプライチェーンの大きな課題としてクローズアップされてきている。
本特集号では、調達・生産・販売の各プロセス間での改善とともに上下流プロセスとのつながりを視野に入れたロジステックにも注目し、サプライチェーンの構築にIEとロジスティクスを結びつける新たな視点として、①レジリエンスサプライチェーン、②環境変化に対応した物流改善、③「物流の2024年問題」解決に向けた人的改善活動と人材の育成、の3つを中心に議論したいと考えている。
記事構成
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論壇
早稲田大学の横田一彦氏に「グローバリゼーションとサプライチェーン」と題して執筆していただいた。グローバリゼーションとサプライチェーンの関連性を、現在の状況に至るまでを時系列的に記述いただき、本特集を議論するにあたり礎となる内容である。サプライチェーンの考察として、人口構成や経済構造などから多面的に論じられており、加えて、今後の構造変化にともなうサプライチェーンの対象や機能の変化を「グローバルサプライチェーンの将来とわが国の課題」として提言いただいた。 -
ケース・スタディ
- ①ハウス食品の樋之津眞一氏、内田佳吾氏、小林広徳氏には「環境に変化に強いサプライチェーンの構築~ 2つの『物流の未来を考える組織』を強化し、厳しい物流環境で選ばれる荷主となる~」と題して執筆いただいた。同社SCM部と食品メーカーの6社が参加するF-LINEプロジェクトの2つの組織を通して物流課題に取り組まれており、今回は、活動の取り組み体制や受注予測の高度化、物流改善を中心に紹介いただいた。
食品業界のサプライチェーンを取り巻く環境の中で特に「消費ニーズ」と「物流」において課題が大きく変化している。消費ニーズに関しては、環境変化に対応するため、2023年にSCM部内に「未来のSCMを考える会」を立ち上げ、在庫最適化や廃棄削減など5つのタスクチームで改善活動を展開している。その中で、「AIを活用した需要予測モデル」を開発し、戦力化されている。また、物流課題への取り組みは、F-LINEプロジェクトと連帯し、外装サイズの標準化やパレット化の拡大などの展開とより将来を見据えたスマートな物流をめざした検討も進められている。
「物流の未来を考える組織」を中心した活動は、サプライチェーンの最適化やリードタイム改善を実現した事例として広く参考となる。 - ②日本貨物鉄道の五島洋次郎氏には「モーダルコンビネーションの推進~サステナブルな物流体系構築に向けて~」と題して執筆いただいた。
日本貨物鉄道(以下「JR貨物」)は、主にコンテナによる集荷・配達を含む複合一貫輸送サービスをベースとした輸送サービスを提供している。鉄道輸送は、CO2搬出量が他の輸送モードと比較して非常に低いことが特徴の1つであり、環境にやさしい輸送手段である。物流の2024年問題を契機にこれまでの「モーダルシフト」から新たに鉄道輸送とトラック輸送の並列化・組み合わせのベストミックスをめざす「モーダルコンビネーション」の取り組みを紹介している。具体的な事例として、「パレット運用」「貨物駅の高度化」などの改善と「医薬品に輸送」の事例を紹介いただいた。
鉄道輸送とトラック輸送の長所を生かしたモーダルコンビコンビネーションの事例は、物流の2024年問題解消の強力なソリューションであり、環境にやさしくサステナブルな物流体系としてぜひ参考にしていただきたい。 - ③日本通運の加藤憲治氏には「『物流の2024年問題』は決して怖くない~お客様・協力会社とともに乗り切るために~」と題して執筆いただいた。日本通運は、日本国内をはじめ世界50か国に拠点を構え、世界で約7万5千人の従業員を有する一貫輸送会社である。
物流の2024年問題の解消策として「パレット化」や「バース予約の導入」などの取り組みに加え、長距離ルートの中間点で、双方からきたトラックが積んでいる荷物を相互に積み替えて発地へ戻る輸送形態である「中継輸送」のトライアルを実施している。これにより、走行距離は一緒でも宿泊勤務がなくなり、同一日に自宅へ戻ることができ、ドライバー1人1人の負荷を低減することができる。また、同様に、コンテナについても鉄道コンテナと海上コンテナでは規格が微妙に異なっているため、輸送便別に積み替える必要があったが、ハイブリット型コンテナを活用することにより、時間短縮の改善が進んでいる。
Wトラックの導入など生産性向上の取り組みと合わせて作業の安全確保にも取り組まれている。これらにより、変化に柔軟に対応できるロジスティックをめざし、魅力的な賃金や職場作りを進められている。
サプライチェーンを維持・確保するために、輸送業社と荷主が一体となってパレット統一化や中継輸送などに取り込まれた内容は、それぞれの立場で参考になる。
- ①ハウス食品の樋之津眞一氏、内田佳吾氏、小林広徳氏には「環境に変化に強いサプライチェーンの構築~ 2つの『物流の未来を考える組織』を強化し、厳しい物流環境で選ばれる荷主となる~」と題して執筆いただいた。同社SCM部と食品メーカーの6社が参加するF-LINEプロジェクトの2つの組織を通して物流課題に取り組まれており、今回は、活動の取り組み体制や受注予測の高度化、物流改善を中心に紹介いただいた。
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レポート
日本ロジスティクスシステム協会(以下「JILS」)の風間正行氏には「JILS活動紹介~次世代のCLO輩出と物流改善を中心に~」と題して執筆いただいた。物流の2024年問題の構造的な課題是正ためには、経営の視点からロジスティックをとらえ、改革する役割が重要にであり、その任を果たすのがCLO(chief Logistics Officer)であり、CLOの役割や人材育成仕組みと物流改善の評価・講評制度を紹介いただいている。 -
プリズム
- ①日本生産性本部の深谷健一郎氏には「サプライチェーンマネジメントの国際資格APICS」と題して執筆いただいた。サプライチェーンのマネジメントに携わる国際資格としてASCM(American Production and Inventory Control Society)が所管している国際資格「APICS」の概要と取得状況を紹介いただいている。
- ②日本貿易振興機構アジア経済研究所の山田美和氏には「サプライチェーンの強靭化とデューディリジェンス」と題して執筆いただいた。デューディリジエンス(以下「DD」)とは、自社の活動が人々、社会、環境に与える影響を把握し、自社が与える負の影響を特定・防止・軽減・対処する一連のプロセスである。DDのプロセスとグローバルスタンダードとしてのDDの位置付けを紹介いただいている。
おわりに
サプライチェーンマネジメントは、原材料の調達から生産・販売までの様々な活動の流れで、全体の最適化を達成する阻害条件(ボトルネック)を見つけ出し改善する管理手法である。
企業活動に影響を与えるサプライチェーンの外的要因がこれまでの想定範囲を超えて大きくかつ継続的に変動する中で、これまで構築してきたサプライチェーンをはじめとする種々の仕組みを強化するための改善活動が求められている。
特に物流領域においては、これまで時間やコストの面で厳しい要求に応じつつプロセス間の緩衝機能も担わされてきたが、物流の2024年問題に象徴されるようにドライバーの担い手不足などにより、本来の機能を維持することさえ困難なりつつある。この局面を契機に、従来の改善活動と異なり、コストを掛けてでも人手や在庫の確保をして安定的に企業活動を継続していく方策が重要視されてきている。また、効率の追求だけではなく、働き甲斐や働きやすさの向上に向けた取り組みも不可欠となっている。IErとしては、サプライチェーン全体の見える化により全体最適化のため、問題解決の機能アップに取り組んでいく必要がある。本特集がサプライチェーン、物流・ロジスティックの改善に取り組むIErの参考になれば幸いである。
【論壇】グローバリゼーションとサプライチェーン
【ケース・スタディ】環境変化に強いサプライチェーンの構築
ハウス食品の樋之津眞一氏、内田佳吾氏、小林広徳氏には「環境に変化に強いサプライチェーンの構築~ 2つの『物流の未来を考える組織』を強化し、厳しい物流環境で選ばれる荷主となる~」と題して執筆いただいた。同社SCM部と食品メーカーの6社が参加するF-LINEプロジェクトの2つの組織を通して物流課題に取り組まれており、今回は、活動の取り組み体制や受注予測の高度化、物流改善を中心に紹介いただいた。
食品業界のサプライチェーンを取り巻く環境の中で特に「消費ニーズ」と「物流」において課題が大きく変化している。消費ニーズに関しては、環境変化に対応するため、2023年にSCM部内に「未来のSCMを考える会」を立ち上げ、在庫最適化や廃棄削減など5つのタスクチームで改善活動を展開している。その中で、「AIを活用した需要予測モデル」を開発し、戦力化されている。また、物流課題への取り組みは、F-LINEプロジェクトと連帯し、外装サイズの標準化やパレット化の拡大などの展開とより将来を見据えたスマートな物流をめざした検討も進められている。
「物流の未来を考える組織」を中心した活動は、サプライチェーンの最適化やリードタイム改善を実現した事例として広く参考となる。
【ケース・スタディ】モーダルコンビネーションの推進
日本貨物鉄道の五島洋次郎氏には「モーダルコンビネーションの推進~サステナブルな物流体系構築に向けて~」と題して執筆いただいた。
日本貨物鉄道(以下「JR貨物」)は、主にコンテナによる集荷・配達を含む複合一貫輸送サービスをベースとした輸送サービスを提供している。鉄道輸送は、CO2搬出量が他の輸送モードと比較して非常に低いことが特徴の1つであり、環境にやさしい輸送手段である。物流の2024年問題を契機にこれまでの「モーダルシフト」から新たに鉄道輸送とトラック輸送の並列化・組み合わせのベストミックスをめざす「モーダルコンビネーション」の取り組みを紹介している。具体的な事例として、「パレット運用」「貨物駅の高度化」などの改善と「医薬品に輸送」の事例を紹介いただいた。
鉄道輸送とトラック輸送の長所を生かしたモーダルコンビコンビネーションの事例は、物流の2024年問題解消の強力なソリューションであり、環境にやさしくサステナブルな物流体系としてぜひ参考にしていただきたい。
【ケース・スタディ】「物流の2024年問題」は決して怖くない
日本通運の加藤憲治氏には「『物流の2024年問題』は決して怖くない~お客様・協力会社とともに乗り切るために~」と題して執筆いただいた。日本通運は、日本国内をはじめ世界50か国に拠点を構え、世界で約7万5千人の従業員を有する一貫輸送会社である。
物流の2024年問題の解消策として「パレット化」や「バース予約の導入」などの取り組みに加え、長距離ルートの中間点で、双方からきたトラックが積んでいる荷物を相互に積み替えて発地へ戻る輸送形態である「中継輸送」のトライアルを実施している。これにより、走行距離は一緒でも宿泊勤務がなくなり、同一日に自宅へ戻ることができ、ドライバー1人1人の負荷を低減することができる。また、同様に、コンテナについても鉄道コンテナと海上コンテナでは規格が微妙に異なっているため、輸送便別に積み替える必要があったが、ハイブリット型コンテナを活用することにより、時間短縮の改善が進んでいる。
Wトラックの導入など生産性向上の取り組みと合わせて作業の安全確保にも取り組まれている。これらにより、変化に柔軟に対応できるロジスティックをめざし、魅力的な賃金や職場作りを進められている。
サプライチェーンを維持・確保するために、輸送業社と荷主が一体となってパレット統一化や中継輸送などに取り込まれた内容は、それぞれの立場で参考になる。