生産を支援する部門の役割を考える
2024年6月 / 335号 / 発行:2024年6月15日
目次
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巻頭言
モノづくり文化をつなぐ。
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特集テーマのねらい(特集記事)
生産を支援する部門の役割を考える
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座談会(特集記事)
生産を支援する部門の役割を考える
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ケース・スタディ(特集記事)
進化し続ける米沢生産方式
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ケース・スタディ(特集記事)
スタンレー電気におけるSNAP活動の歩み
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ケース・スタディ(特集記事)
生産現場をサポートする本社機能
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ケース・スタディ(特集記事)
開発段階から生産を支援する
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プリズム(特集記事)
東大阪商工会議所・生産性向上支援事業
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プリズム(特集記事)
製造業の未来を切り拓く
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会社探訪
技術に根ざした人が活きる環境づくり-(株)オカムラ-
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現場改善
デジタル化推進による製造現場の効率化
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
小さな目標を少しずつやってみる
そしてできたことを自信につなげることでステップアップ
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コラム(130)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
原材料価格の高騰、労働人口の減少、環境問題への対応など、日本の生産企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中で、生産拠点や生産部門においては、顧客ニーズを満たし、期待以上のQCDを実現していくために、IEの手法・考え方をベースにした改善活動を継続し、人材を育てていくことが、今まで以上に大切です。
しかし一方で、生産部門が中心となる活動では、技術の高度化、情報システム投資、SDGsなどの課題に対応しきれない場合があります。例えば、人材育成には、採用・育成・ローテーションといった多くの要素があり、それらは各拠点や部門に一任するのでなく、各人のキャリアパスのデザインを考慮して、本社の人事組織部門が適切にサポートしていくことが必要です。
生産における部門間連携については、サプライチェーンあるいはエンジニアリングチェーンとして、IEレビュー誌でも扱ってきました。本号では、より直接的に、IE活動を支え展開していくために、生産活動を支援する部門が果たすべき役割に着目しています。本社と表現すると大手企業を想起しがちですが、こうした生産支援は、地域連携の中での支援機能や、中堅中小企業のネットワークで中心となる企業が果たすべき役割と捉えてもよいと思います。
本来、生産拠点や生産部門(端的には生産現場)の課題やニーズを的確に把握し、4Mや部門連携などの観点からサポートしていくべき部門は、生産企画、生産技術、人事などだと思われます。企業のめざす方向のもとでIE活動を進めていく上では、そうした部門の支援が必要ですが、実際には、本社と生産現場が別会社となっていたり、物理的な距離のために必要なサポートが実施されていないケースがあります。IE活動にはある程度の予算や余力を確保しておくべきですが、そうした予算を削減対象とする企業が多いのも確かです。IE活動の普及には様々なハードルが指摘されていますが、QCDの維持・向上のためには、人・モノ・予算といったリソースを確保することが先決で、それには生産部門を支援する部門の理解と支援が不可欠になります。拠点ベースの部分最適から脱却し、本社経営サイドの困りごとと現場側の期待や希望を融合し、そのプロセスから、IE活動が経営に貢献する実りあるものとなるための条件やあり方を考えていきたい、そういう想いで本特集テーマを企画しました。
執筆の切り口
- 企業の経営理念・めざす姿を明示する
- 人材を採用・育成し、適材適所を進めていく
- 改善活動に必要な資源を確保し、有効に配分していく
- 営業・マーケティング機能との連携を進め、顧客ニーズを的確に製品設計に反映していく
- 営業部門との連携をうながし、適切に需給バランスや生産能力の調整を図っていく
- 研究開発を支援し、作りやすい製品を開発していく
- 設備管理の点から、設備の保全技術を高度化していく
- サプライチェーンの情報共有を進め、情報やモノの流れのスムース化をうながしていく
記事構成
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座談会
本号では、特集テーマ自体が問題提起の要素を含んでいるという考えから、論壇の代わりに、編集委員7名による座談会を行い、特集の意図を明確にするよう努めました。生産支援部門が、生産現場でのIE活動をいかにして支援しているか、支援することの難しさはどこにあるのかについて、DX、働きやすさ、投資効果、5Sなど、多様な視点から議論されています。特に、フィールドワークを通じて働き手にIEの面白さを伝えてそれをIEの専門家が支援する、デジタルツールでサポートする、成果をわかりやすく見える化する、といった指摘が印象に残っています。働きやすく選ばれる会社になるためにIEを使う、本社の支援が少ないと嘆くよりも、やるべき改善を進め、あとひと工夫というところで経営陣が来てくれるというような連携を進めるといった論点は、これからのIE協会の活動を展望する上でも大切な視点であると感じています。 -
ケース・スタディ
- ①NECパーソナルコンピュータの坂雅浩氏には、スマートマニュファクチャリングの取り組みについて紹介していただきました。同社では、2011年のLenovo Japanとの合弁の後、スマート工場へアップデートすべく、ITに特化した間接チームがダッシュボードなどを開発して生産部門のサポートを進め、自動搬送車を導入し、物流・仕分け移載の自動化が進められました。さらに、ライン別に行われていた梱包作業を集約した上で自動化を進め、生産性と安全性を大きく向上させています。現場主体のライン設計に、ITシステムを活用した間接部門の現場サポートが加わり、労働人口の減少に対応していく姿がわかりやすく紹介されています。
- ②スタンレー電気の稲原和彦氏、澤田弘司氏には、同社における改善活動であるSNAP(Stanley New Approach for higher Productivity)の歩みを中心に、SNAP推進部の果たしてきた役割を紹介していただきました。SNAPでは「動作・運搬のムダ」と「停滞のムダ」に着目し、「SNAPプレーヤー研修」「SNAPトレーナー研修」を通じて、ムダ取りの方法・考え方を養っています。具体的な改善事例と人材育成の体系が、写真や図表を交えてわかりやすく紹介されています。生産拠点がグローバルに展開される中で、あるべき姿を描くことを支援し、作業や設備の標準化や人材育成が以前に増して重要であるという指摘は、複雑化・高度化が進む中での支援機能の本質だと考えられます。
- ③東洋紡の小石一寿氏には、創立140周年である2022年に発表された「サステナブル・ビジョン2030」に基づいて、現場が主役という考えのもと、本社技術総括部が生産現場での活動をサポートしている内容について紹介いただきました。生産拠点の海外移転やOEM生産により実践の機会が減少する中で、本社技術統括部主導で全社的にオペレーターや係長クラスの基礎教育に取り組み、テキストを作成、体験型研修を充実させ、DXの導入、GHG排出削減を進めています。「当社グループの従業員の約7割が工場の勤務で生産現場の主役である。IEの手法や考え方で楽しみながら課題を乗り越えていくことで、モチベーションの向上や仲間意識の醸成、競争力の源泉につながる」というまとめの一文は、生産支援部門としての力強いメッセージです。
- ④ホリゾンの大内山耕氏には、大阪工業大学の皆川健多郎氏のレポートにより、開発部門が積極的に生産を支援し、生産部門の様々な要望を取り入れて、働きやすい職場づくりを進めてきた歩みを紹介いただきました。印刷後の製本工程のすべてを担う同社では、紙折り、丁合、針金綴じ、糊綴じ、断裁という印刷紙の処理技術を応用し、アウトドア関連製品やプリント基板の一貫処理工程に事業展開してきた様子が紹介されています。特に、徹底したチェック機能により、開発への後戻りを防止し、品質向上や組立性の向上を実現することで、製造部門の負荷を減らすべく支援している様子は、生産技術の視点から参考になるケースです。
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プリズム
- ①東大阪商工会議所の皆川健多郎氏には、生産性向上支援事業の内容を紹介いただきました。専門家派遣、生産性向上リーダー育成塾、事業報告会など、支援機関が中心となった生産支援の活動は、地域企業を活性化するものとして広く参考になる内容です。
- ②Smart Processの西岡良太氏、片山和子氏には、同社が進めている「日本の製造業の未来を語る会」の内容を紹介いただきました。日本の製造業ではチャレンジする文化の醸成が大切との指摘は、本号のテーマに合致する内容です。