中堅・中小企業が元気になる改善活動・風土づくり
2024年9月 / 336号 / 発行:2024年9月15日
目次
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巻頭言
中堅中小企業が元気になる改善活動
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特集テーマのねらい(特集記事)
中堅・中小企業が元気になる改善活動・風土づくり
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論壇(特集記事)
変動社会の生産改善は学びの変革
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ケース・スタディ(特集記事)
安全と作業効率を両立した職場環境改善の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
自前教育とコミュニケーションツールで人材活性化を図る
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ケース・スタディ(特集記事)
企業体質改善に向けた飽くなき挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
伝統的産業である桐箱の事業承継から持続可能なものづくりへ
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ケース・スタディ(特集記事)
成長の輪を回し続ける
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ケース・スタディ(特集記事)
伝統産業とDX
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ケース・スタディ(特集記事)
顧客の「ウキウキ」を聞いて「ウキウキするもの」をつくるために
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プリズム(特集記事)
「本物」のものづくりとは何か
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プリズム(特集記事)
企業をつないで中小企業を支援する
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会社探訪
変種変量・短納期を実現するため人・技術・仕組みを大切にするものづくり力-(株)アイオー精密-
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現場改善
開閉器塔の組立作業の改善
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レポート
「2023年度 海外工場調査研究会(タイ)」開催報告
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コラム(131)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
わが国の全企業のうち約99.7%を占める中小企業がさらされている経営環境は、人材不足に就業人員の高齢化、人件費や原材料費の高騰など、大変厳しい状況が続いています。また昨今、大企業を中心にベースアップなどの動きが見られますが、中堅中小企業には、まだまだそのような余力が十分にない企業が多く見受けられます。
本号では、このような状況におかれている中堅・中小企業にフォーカスし、企業・従業員が元気になる、元気が出るように経営者が想いを持って取り組んでいる事例や、IE手法や改善活動を通して現場が元気になる事例を紹介する特集とすることにしました。特に、新しい技術・道具を使って現場改善や業務改善を行っている事例の紹介や、トップのあり方、ビジョン、リーダーシップ、チームワーク、コミュニケーション、モチベーションなど、改善が進みやすい風土づくりについても取り上げることによって、中堅・中小企業の現場活力アップや、ひいては生産性や収益力のアップをねらいとしました。
記事構成
今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ7件(うち取材記事1件)、プリズム2件の計10件の記事を掲載しています。主な内容を、以下に要約して紹介します。
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論壇
山形県立産業技術短期大学校の山口俊憲氏に「変動社会の生産改善は学びの変革~地域企業との連携から気づいたデザイン思考による戦略的な改善~」と題して執筆いただきました。記事では、まず、VUCA時代の本質が学びの変革であること、働き方改革の本質が、労働時間を削減することによって手に入れた自己裁量時間を自己研鑽にも利用すること、という2つの本質論を示したのち、現場改善を進めるためにはデザイン思考に基づく戦略的な“改善・生産技術機能の保有・人材育成”が最も重要であるとしています。また、変動社会への対応のためにはレジリエンスエンジニアリングの4つのコア能力、OODAループのフレームワーク、デザイン思考の5つのプロセスの3項目を掲げ、さらに地域企業との連携による事例を、のべ5社分紹介しています。締めくくりとしてIEの戦略的な活用を提案して、中小企業が今後取り組むべき改善の方向性を示しておられます。 -
ケース・スタディ
- ①メルコパワーデバイスの來見義之氏と堀田貴利氏、ならびに三菱電機の緒方賢二氏に、「安全と作業効率を両立した職場環境改善の取り組み~腰痛防止に向けた重量物作業の削減・改善~」というテーマで執筆いただきました。まず、職場環境改善の取り組み、すなわち、腰痛の原因となっている重量物作業の削減・改善活動の背景の紹介があり、現場を実態調査した結果、福岡工場だけでも累積重量が1,734ton/月、載せ降ろし回数が18万回/月も発生していることが示されました。そこで、IEの基本となるECRS(Eliminate,Combine,Rearrange,Simplify)の視点でこの課題にアプローチした結果、台車共通化、リフター導入、スライド化、バランサー導入、配膳ロボット導入といった数々の改善方策が実践され、累積重量と載せ降ろし回数を各々大幅削減という成果が得られ、2022年度からは作業中の急性腰痛症発生件数はゼロを継続しているとのことです。
- ②セーフティ&ベルの宇佐見聡氏には、「自前教育とコミュニケーションツールで人材活性化を図る」というテーマで執筆いただきました。コストのかからない挨拶励行、清掃を徹底することを端緒に社員が自分の会社に自信を持てるようになり、社会から必要とされているという自己肯定感の醸成やモチベーションの向上の効果が現れた様子が描かれています。また、早くから女性社員の登用、活用を積極的に進め、現在では女性比率35%という高い水準となっていることが明かされています。さらに、新人育成期間の約半減へとつながった、技能伝承を行う「弱電アカデミー」と称する未経験者向けの自前の研修施設での取り組みや、エニアグラムを活用したコミュニケーションの円滑化に向けた取り組みが紹介されています。
- ③五楽信和工業の藤原博昭氏には、「企業体質改善に向けた飽くなき挑戦~“新生五楽信和工業”としての基盤作り~」というテーマで執筆いただきました。記事では同社発足の経緯として安川電機グループ2社が統合したことに触れ、2社双方の企業風土、運営ルール、生産方法が完全には融合できていない課題認識から、企業体質改善に向けた第一歩を踏み出したことが示されています。中盤以降では、STEP1として2021年から3年にわたって取り組んだ、目に見えるモノと目に見えないコト、に関する改善事例として、働きやすい職場環境づくりや、属人化してしまっていた業務のやり方(個人商店化)からの脱却、新社屋建設と新事業所の立ち上げ、品質管理システムの導入など、改善(2社の真の意味での融合)のきっかけづくりを志向した取り組みも含めて紹介していただきました。
- ④増田桐箱店の藤井博文氏には、「伝統的産業である桐箱の事業承継から持続可能なものづくりへ」というテーマで執筆いただきました。桐箱製造プロセスの簡潔な説明に続き、祖父から引き継いだ会社の新規事業として桐製の米櫃製造販売をスタートさせてからの、国内販路拡大と海外市場での新規取引による取引先の開拓、ECサイトの活用による事業のDX化と、次々と課題を解決していく様子が描かれています。さらに後半ではSDGsを意識した持続可能性を探る取り組みとして、福祉事業所や大学との連携による作業効率改善の事例が紹介されています。
- ⑤南九イリョーの古木秀典氏と奥茜氏には、「成長の輪を回し続ける~企業理念の浸透にむけて~」というテーマで執筆いただきました。若年者や高齢者をはじめとして、知的障害や精神障害を持つ方々など多様な人材を活用している同社の企業理念制定からその浸透までの地道な取り組みとして、企業理念手帳の作成や説明会、ホームページでの公開や経営シミュレーションゲームによる浸透活動、人事制度の改定などを紹介してくださいました。一貫しているのは、同社で働く社員の想いをひとつにして、同じ方向に進んでいこうという力強い意思が根底にあることだと思います。
- ⑥晃祐堂の土屋武美氏に、「伝統産業とDX~DXとは挑戦すること~」というテーマで執筆いただきました。創業してから熊野筆の製造工程へのDXに取り組むまでに至った経緯紹介の後、同社が取り組んでいるDXの内容についてご披露いただいています。取り組みは、検品工程へのAI画像認識技術導入による、筆の不良品判定のほか、2023年から始動した生産工程見える化システムプロジェクトでの見える化、セキュリティ対策、工程内カメラによる作業分析、受注管理、RFID活用による作業進捗管理など、IE分野を含む幅広の内容となっています。
- ⑦ブローの富田涼子氏には、「顧客の『ウキウキ』を聞いて『ウキウキするもの』をつくるために」というテーマでインタビューをさせていただき、編集部で記事としてまとめさせていただきました。同社の「ウキウキするもの」、「ワクワクするもの」をつくるというブレないポリシーと、高いFRP加工技術に裏打ちされたユニークで質の高い改造車両の製造にかける熱い想いが伝わってくるような記事となっています。改善活動では製造工程へのレジンを用いたRTM成形法の導入や、事務・組織部門へのチャットシステム導入による業務の見える化やコミュニケーション活性化についての取り組みが紹介されています。
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プリズム
- ①日本生産性本部の茅根滋氏に、「『本物』のものづくりとは何か~交流会開催に寄せて~」というテーマで執筆いただきました。フェイクが容易に生成できるようになってきている今日、「本物」とは?「本物のものづくり」とは?を今一度考えるよい機会となるかもしれません。
- ②神奈川産業振興センターの前原邦彰氏に、「企業をつないで中小企業を支援する~(公財)神奈川産業振興センターの取り組み~」というテーマで執筆いただきました。同センターが行う中小企業支援の取り組み内容として、企業マッチングや商談会を中心に紹介されています。
おわりに
本号では、多くの中堅・中小企業の皆様にご協力を賜り、近年では最多となる多様な業種の特集記事10件を掲載することができました。本特集記事で紹介されている改善活動をはじめとする内容が、わが国の産業を支えている数多ある中堅中小企業の活性化、生産性向上、収益力アップに向けて、参考になりますことを願ってやみません。
小林 稔/企画担当編集委員
【論壇】変動社会の生産改善は学びの変革
山形県立産業技術短期大学校の山口俊憲氏に「変動社会の生産改善は学びの変革~地域企業との連携から気づいたデザイン思考による戦略的な改善~」と題して執筆いただきました。記事では、まず、VUCA時代の本質が学びの変革であること、働き方改革の本質が、労働時間を削減することによって手に入れた自己裁量時間を自己研鑽にも利用すること、という2つの本質論を示したのち、現場改善を進めるためにはデザイン思考に基づく戦略的な“改善・生産技術機能の保有・人材育成”が最も重要であるとしています。また、変動社会への対応のためにはレジリエンスエンジニアリングの4つのコア能力、OODAループのフレームワーク、デザイン思考の5つのプロセスの3項目を掲げ、さらに地域企業との連携による事例を、のべ5社分紹介しています。締めくくりとしてIEの戦略的な活用を提案して、中小企業が今後取り組むべき改善の方向性を示しておられます。
【ケース・スタディ】安全と作業効率を両立した職場環境改善の取り組み
メルコパワーデバイスの來見義之氏と堀田貴利氏、ならびに三菱電機の緒方賢二氏に、「安全と作業効率を両立した職場環境改善の取り組み~腰痛防止に向けた重量物作業の削減・改善~」というテーマで執筆いただきました。まず、職場環境改善の取り組み、すなわち、腰痛の原因となっている重量物作業の削減・改善活動の背景の紹介があり、現場を実態調査した結果、福岡工場だけでも累積重量が1,734ton/月、載せ降ろし回数が18万回/月も発生していることが示されました。そこで、IEの基本となるECRS(Eliminate,Combine,Rearrange,Simplify)の視点でこの課題にアプローチした結果、台車共通化、リフター導入、スライド化、バランサー導入、配膳ロボット導入といった数々の改善方策が実践され、累積重量と載せ降ろし回数を各々大幅削減という成果が得られ、2022年度からは作業中の急性腰痛症発生件数はゼロを継続しているとのことです。
【ケース・スタディ】自前教育とコミュニケーションツールで人材活性化を図る
セーフティ&ベルの宇佐見聡氏には、「自前教育とコミュニケーションツールで人材活性化を図る」というテーマで執筆いただきました。コストのかからない挨拶励行、清掃を徹底することを端緒に社員が自分の会社に自信を持てるようになり、社会から必要とされているという自己肯定感の醸成やモチベーションの向上の効果が現れた様子が描かれています。また、早くから女性社員の登用、活用を積極的に進め、現在では女性比率35%という高い水準となっていることが明かされています。さらに、新人育成期間の約半減へとつながった、技能伝承を行う「弱電アカデミー」と称する未経験者向けの自前の研修施設での取り組みや、エニアグラムを活用したコミュニケーションの円滑化に向けた取り組みが紹介されています。
【ケース・スタディ】企業体質改善に向けた飽くなき挑戦
五楽信和工業の藤原博昭氏には、「企業体質改善に向けた飽くなき挑戦~“新生五楽信和工業”としての基盤作り~」というテーマで執筆いただきました。記事では同社発足の経緯として安川電機グループ2社が統合したことに触れ、2社双方の企業風土、運営ルール、生産方法が完全には融合できていない課題認識から、企業体質改善に向けた第一歩を踏み出したことが示されています。中盤以降では、STEP1として2021年から3年にわたって取り組んだ、目に見えるモノと目に見えないコト、に関する改善事例として、働きやすい職場環境づくりや、属人化してしまっていた業務のやり方(個人商店化)からの脱却、新社屋建設と新事業所の立ち上げ、品質管理システムの導入など、改善(2社の真の意味での融合)のきっかけづくりを志向した取り組みも含めて紹介していただきました。
【ケース・スタディ】伝統的産業である桐箱の事業承継から持続可能なものづくりへ
増田桐箱店の藤井博文氏には、「伝統的産業である桐箱の事業承継から持続可能なものづくりへ」というテーマで執筆いただきました。桐箱製造プロセスの簡潔な説明に続き、祖父から引き継いだ会社の新規事業として桐製の米櫃製造販売をスタートさせてからの、国内販路拡大と海外市場での新規取引による取引先の開拓、ECサイトの活用による事業のDX化と、次々と課題を解決していく様子が描かれています。さらに後半ではSDGsを意識した持続可能性を探る取り組みとして、福祉事業所や大学との連携による作業効率改善の事例が紹介されています。
【ケース・スタディ】成長の輪を回し続ける
南九イリョーの古木秀典氏と奥茜氏には、「成長の輪を回し続ける~企業理念の浸透にむけて~」というテーマで執筆いただきました。若年者や高齢者をはじめとして、知的障害や精神障害を持つ方々など多様な人材を活用している同社の企業理念制定からその浸透までの地道な取り組みとして、企業理念手帳の作成や説明会、ホームページでの公開や経営シミュレーションゲームによる浸透活動、人事制度の改定などを紹介してくださいました。一貫しているのは、同社で働く社員の想いをひとつにして、同じ方向に進んでいこうという力強い意思が根底にあることだと思います。
【ケース・スタディ】伝統産業とDX
晃祐堂の土屋武美氏に、「伝統産業とDX~DXとは挑戦すること~」というテーマで執筆いただきました。創業してから熊野筆の製造工程へのDXに取り組むまでに至った経緯紹介の後、同社が取り組んでいるDXの内容についてご披露いただいています。取り組みは、検品工程へのAI画像認識技術導入による、筆の不良品判定のほか、2023年から始動した生産工程見える化システムプロジェクトでの見える化、セキュリティ対策、工程内カメラによる作業分析、受注管理、RFID活用による作業進捗管理など、IE分野を含む幅広の内容となっています。
【ケース・スタディ】顧客の「ウキウキ」を聞いて「ウキウキするもの」をつくるために
ブローの富田涼子氏には、「顧客の『ウキウキ』を聞いて『ウキウキするもの』をつくるために」というテーマでインタビューをさせていただき、編集部で記事としてまとめさせていただきました。同社の「ウキウキするもの」、「ワクワクするもの」をつくるというブレないポリシーと、高いFRP加工技術に裏打ちされたユニークで質の高い改造車両の製造にかける熱い想いが伝わってくるような記事となっています。改善活動では製造工程へのレジンを用いたRTM成形法の導入や、事務・組織部門へのチャットシステム導入による業務の見える化やコミュニケーション活性化についての取り組みが紹介されています。
【プリズム】「本物」のものづくりとは何か
日本生産性本部の茅根滋氏に、「『本物』のものづくりとは何か~交流会開催に寄せて~」というテーマで執筆いただきました。フェイクが容易に生成できるようになってきている今日、「本物」とは?「本物のものづくり」とは?を今一度考えるよい機会となるかもしれません。
【プリズム】企業をつないで中小企業を支援する
神奈川産業振興センターの前原邦彰氏に、「企業をつないで中小企業を支援する~(公財)神奈川産業振興センターの取り組み~」というテーマで執筆いただきました。同センターが行う中小企業支援の取り組み内容として、企業マッチングや商談会を中心に紹介されています。