これからの時代に求められるIEとそのための人材像
2024年12月 / 337号 / 発行:2024年12月15日
目次
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巻頭言
「変革期」におけるIEの役割と人財課題
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特集テーマのねらい(特集記事)
これからの時代に求められるIEとそのための人材像
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論壇(特集記事)
原点回帰からの学び
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ケース・スタディ(特集記事)
モノづくりの本質を理解するキーマンの育成
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ケース・スタディ(特集記事)
企業活力を生み出すIoTの活用と人づくり
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ケース・スタディ(特集記事)
IE思想浸透における物流業「ならでは」の課題と創意工夫
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ケース・スタディ(特集記事)
下呂温泉 水明館のトヨタ生産方式
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ケース・スタディ(特集記事)
主体的人材の育成に向けた大学生のためのIE体験プログラムの実践
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ケース・スタディ(特集記事)
産学による学生向けIE教育訓練
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プリズム(特集記事)
若年者ものづくり競技大会
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会社探訪
100年に一度の大変革期を乗り越えるオティックスのモノづくり改革-(株)オティックス-
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
IT企業からモノづくり企業の3代目へ
チャレンジ精神と行動力で組織改革を推進中
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コラム(132)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
IEの考え方は、その汎用性から製造業だけでなく、サービス業、物流、医療など幅広い分野で活用されている。経営全般でムダを排除し、改善を通じて最適化を追求するIEのアプローチは、企業競争力を高める上で重要である。IEは単なる手法ではなく、組織文化としてその価値を理解し根づかせることが持続可能性に大きく寄与する。
製造現場では、IT普及や技術革新が進む中、IEの価値を再認識する企業が増えている。IEは作業プロセスを可視化し、ムダや課題を明確化することで、人・モノ・設備・情報を統合し、効率的なシステム構築に寄与する。そのため、ITと生産管理システムを統合できる知識を持つ人材が求められている。
しかし、特に中小企業ではIEの専門知識を持つ人材の採用が進んでいない現状がある。経営工学を提供する大学が減少していることや、工学系学科でIEに触れる機会が少ないことが影響しているのかもしれない。その一方で、文系の経営学部では情報システムと生産管理システムが教えられているが、数理統計や数理モデルの教育が不足し、生産管理システムが主要科目でないことが多いため、文系学生には魅力的に映っていないという現実がある。これにより、IEに詳しい人材が減少しているという懸念が生じている。
IEを組織に根づかせ、持続的に活用するためには、企業が若い世代にIEの理解と支持を促す具体的な施策が必要である。
例えば、小学生を対象にした遊びを通じてIEの基本概念を教える取り組みが効果的かもしれない。また、IEを知らずに入社する若いエンジニアや、モノづくりに興味を持って入社する文系出身者にIEの魅力を伝えるためには、企業や大学が若者の視点からIEを理解し、その魅力を伝える工夫が重要となる。そして、それが具体的な行動に結びついていくことが大切である。
また、中堅社員やベテラン技術者にはデジタル技術を取り入れた再教育やリスキリングの機会が必要である。こうした各階層でのIE理解の促進が、IEファンの増加につながるだろう。そのためには、経営者自らがIEを支持し、組織文化として醸成することが重要である。
本特集では、大学などの教育機関を含め、IEの魅力を伝える身近な事例を紹介することを目的としている。これにより、企業や社会全体でIEを活用する人材育成を推進し、IEファンを増やすための道筋を探っていく。
記事構成
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論壇
愛知工業大学の仁科健先生に、「原点回帰からの学び」と題して執筆いただいた。
本稿では、DXの推進においてムダな作業の自動化ではなく、基本原理への回帰が重要であると強調している。最新技術の学びとともに、基本を再確認することが人材育成やマネジメントに不可欠である。名古屋工業大学での「2S」(整理・整頓)の教育事例から、「安全」、「容易」、「見える化」の効果が示され、PDCAやSDCAといったマネジメントサイクルにも重要な役割を果たし、原点に戻ることが改善につながることが述べられている。さらに、品質管理ではプロセス管理と管理特性の選定が鍵であり、過去の経験や資料の振り返りが、今後の課題解決や改善に役立つと指摘している。現代においても、基本的な原理原則への回帰が重要であると結論づけている。 -
ケース・スタディ
- ①ブラザー工業の中世古浩司氏に、「モノづくりの本質を理解するキーマンの育成」と題して執筆いただいた。本稿では、工作機械業界が熟練者の退職に備え、1999年から進めてきた生産体制強化と教育改革の取り組みを紹介する。JIT生産やデジタル支援システム「B-PACS」、匠道場の導入により、組立リードタイムを60%短縮し、教育時間も大幅に削減した。匠道場では若手技術者の育成を進める一方、1級コース希望者の減少という課題があり、カリキュラムの見直しや講師体制の強化が求められている。
- ②スギヤスの山崎晶洋氏に、「企業活力を生み出すIoTの活用と人づくり」と題して執筆していただいた。本稿では、75年の歴史を持つ企業がリソース不足を克服し、IoTを活用してIE手法を自動化し、生産効率と持続性を向上させた事例を紹介している。IoTの導入を通じて、現場の稼働状況をリアルタイムで可視化し、標準作業の管理票をExcelで簡略化・自動化することで、従来の改善プロセスを大幅に効率化した。特にマイコンとクラウド技術を用いることで、進捗状況の把握や稼働率の向上が実現し、作業者のやる気や自主性も引き出された。その結果、若手の離職率が低下し、業務改善の成果が着実に現場の生産性や品質管理精度の向上につながっている。
- ③SBS東芝ロジスティクスの脇田哲也氏と小松原航氏に、「IE思想浸透における物流業『ならでは』の課題と創意工夫」と題して執筆いただいた。本稿では、日本の物流企業がIE手法を活用して現場改善や教育に取り組んだ事例を紹介する。同社は当初「モノづくり企業」の物流管理部門として設立され、4PL事業に発展した。トヨタ生産方式を応用した「TP運動」で効率化と標準化を進め、物流IE教育を通じて全従業員に学びの場を提供してきた。さらに、物流現場特有の課題を解決するため、動画分析を導入した。作業を撮影・分析することで、観測精度向上や心理的負担軽減を実現し、標準工数設定やロス特定を効率化した内容が紹介されている。
- ④水明館の瀧康洋氏に、「下呂温泉 水明館のトヨタ生産方式」と題して執筆いただいた。本稿では、日本三名泉の1つ下呂温泉の老舗旅館「水明館」を中心とした観光地域の活性化と経営効率化の取り組みを紹介する。瀧氏は観光協会の運営や地域住民の生活の質向上をめざすDMO活動を推進し、地域経済の発展に寄与している。さらに、トヨタ生産方式を導入してカイゼン活動に取り組み、7年間で業務効率の飛躍的な向上と、従業員の「カイゼンマインド」を定着させた。朝食会場では、料理の配置改善や導線の工夫で顧客満足度と効率の両立を実現している。
- ⑤東京理科大学の石垣綾先生、纐纈潤大氏、安井清一先生に、「主体的人材の育成に向けた大学生のためのIE体験プログラムの実践」と題して執筆いただいた。本稿では、大学生を対象にPCゲーム「Factorio」を活用したIE体験型学習の実践を紹介する。ゲームを通じて主体的な学びを促し、生産計画や設備管理など現実の課題解決スキルを育成することをめざした。専用MODを開発し、Excel支援ツールを提供し、ロケット打ち上げをめざすプロジェクト型プログラムを構築した。多くの学生が積極的に参加し、PBLの効果が確認されたが、参加者間の習熟度の差や難易度調整が課題と指摘されている。
- ⑥愛知工業大学の山田裕昭先生に、「産学による学生向けIE教育訓練」と題して執筆いただいた。本稿では、文科系学生向けIE教育訓練の実践事例を紹介する。愛知工業大学経営学部、コンサルティング会社カクゴ、自動車部品メーカー加藤精工が連携し、学生が現場改善に取り組む教育を実施した。カクゴから改善手法の指導を受けた学生が、加藤精工の梱包出荷作業を調査・分析し、改善策を提案した。学生は動画学習と現場調査を通じて梱包出荷作業を分析し、デジタル化や自動化を含む改善提案を行い、IEの重要性を認識するとともに、実践を通じて技能を習得する機会を得た。
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プリズム
- ①中央職業能力開発協会に、「若年者ものづくり競技大会」と題して執筆いただいた。本稿では、技能習得中の20歳以下の若者を対象にした「ものづくり競技大会」を紹介する。同大会は、若年技能者の育成を目的として2005年度から毎年実施されている。約200~400名が参加し、メカトロニクスや旋盤、フライス盤、ロボットソフト組み込みなど15職種で構成され、各競技では実際の製造現場を想定し、技能やチームワーク、創造力を競う。参加者からは、自身の技能向上や視野拡大への満足の声が寄せられている。
おわりに
【論壇】原点回帰からの学び
本稿では、DXの推進においてムダな作業の自動化ではなく、基本原理への回帰が重要であると強調している。最新技術の学びとともに、基本を再確認することが人材育成やマネジメントに不可欠である。名古屋工業大学での「2S」(整理・整頓)の教育事例から、「安全」、「容易」、「見える化」の効果が示され、PDCAやSDCAといったマネジメントサイクルにも重要な役割を果たし、原点に戻ることが改善につながることが述べられている。さらに、品質管理ではプロセス管理と管理特性の選定が鍵であり、過去の経験や資料の振り返りが、今後の課題解決や改善に役立つと指摘している。現代においても、基本的な原理原則への回帰が重要であると結論づけている。