社会課題解決の取り組みを探る
2025年3月 / 338号 / 発行:2025年3月15日
目次

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巻頭言
サステナビリティビジネスモデル実現に向けたモノづくりの進化
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2025年度の特集テーマについて
2025年度の特集テーマについて
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特集テーマのねらい(特集記事)
社会課題解決の取り組みを探る
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論壇(特集記事)
IEがサーキュラーエコノミーに貢献する未来像に関する試論
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ケース・スタディ(特集記事)
環境に配慮したレジリエンスな工場
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ケース・スタディ(特集記事)
事務機業界における共同物流の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
CO2吸収コンクリート「CO2-SUICOM®」
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ケース・スタディ(特集記事)
工程を人に合わせるからこそ強い
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ケース・スタディ(特集記事)
小さくて尖った企業がたくさんあれば世界は変わる
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ケース・スタディ(特集記事)
多角化をめざし“他にない商品”に挑戦 結果として社会課題解決につながる
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レポート(特集記事)
カーボンニュートラルをデザインする
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プリズム(特集記事)
IEと脱炭素
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プリズム(特集記事)
セカンドキャリアは国際協力で!
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会社探訪
究極の生産性をとことん追求する-(株)中村屋 武蔵工場-
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研究ノート
トヨタの「7つのムダ」とその順序に関する考察
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レポート
「本物のものづくり」について考える
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コラム(133)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
「企業の社会的責任(CSR)」という言葉が世に出て久しく、企業経営者はその重みを十分に認識しており、さらに「三方(売り手・買い手・世間)よし」の経営理念についても、その普遍性について良く理解しているはずです。ただし、ビジネス本業での利益が確保され、経営に余裕がなければ、その実現に着手できないということも本音かと思われます。一方、我々を取り巻く環境は激変しており、VUCAの時代と呼ばれるようにまったく先行きが見通せない状況です。持続可能な開発目標SDGsの2030年度までに「誰1人取り残さない」持続可能で多様性と方摂性のある社会を実現するという目標に対して現状は、非常に厳しい状況にあると言えます。SDGsには具体的目標が17ありますが、大きく分類すれば、経済・社会・環境の3つの課題に集約されます。
まずは、社会課題解決のための財源(投資費用)を確保するために、経済問題に触れてみましょう。Industry5.0でも提唱されているように、企業は、回復力・持続可能性の強化や人間中心のコンセプトに基づき、AI、IoT、DXを梃子に生産性向上に取り組む必要があります。労働力不足に対しては、協働ロボット導入の視点も重要です。グローバルな雇用も今後増加すると思いますが、人を大切にした動きも不可欠です。サプライチェーンにも目を配り、レアメタルなどの採掘に不当労働が強いられていないか、調達過程で人権侵害がないようチェックする努力も必要です。また、地域格差をなくし、日本全体が潤うような対策も重要です。地域特性を活かしたもの・ことづくり推進のため、行政が、地方銀行やコンサルタントと協力して活性化を図ることが必要です。
続いて、喫緊の課題は環境問題です。「地球沸騰化」、「日本の二季化」など、危機的な言葉が飛び交っています。地球温暖化については、以前から問題視されており、温室効果ガスが主因であることも共有されているのに、明確な対応ができていない状況です。気候変動の問題では、偏西風の蛇行や海水温度の上昇が原因とされますが打つ手がないように見えます。
そして、社会問題です。飢餓や貧困への対応は急務で、最早フードロスの実態は見過ごせません。余剰品の迅速な大量搬送を実現できないのでしょうか。また、安全な水で貧困の地を潤すことはできないのでしょうか。
本特集では、社会課題解決のケース・スタディを通じて、IE的考え方、アプローチ、提案、システム設計が、どのように組み込まれているのか、あるいは、今後社会課題の解決にIE的思考は、どこまで適応できるのか確認できる機会になればと考えます。そして、IE適用のねらいの1つが「豊かで実りある社会を築くこと」にあることを、再認識したいと考えています。
記事構成
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論壇
日本生産性本部の喜多川和典氏に「IEがサーキュラーエコノミーに貢献する未来像に関する試論」と題して執筆いただきました。欧州の環境政策であるサーキュラーエコノミー(以下「CE」)の概念を説明いただきました。CEを展開する場合、製品を売り切りにして使用済み製品を廃棄物としてリサイクルするだけでは、目標の達成が不可能であり、製品のライフサイクルをより管理しやすい設計をめざすこととなります。IErの進むべき方向についても触れていただきました。IEは元来、CEと密接したものであるし、工場で培われたIE的アプローチや思考を都市やユーザーの生活現場にまで拡張し適用することで、CEへの移行を広く社会に波及させることができるという視点は一考に値すると思います。 -
ケース・スタディ
- ①沖電気工業の松原隆史氏と関口守康氏には、「環境に配慮したレジリエンスな工場」と題して執筆いただきました。創エネ、エネルギーの見える化、機械学習による最適運転制御を軸にしたエネルギー管理で、カーボンゼロにめざす最先端の省エネ工場で環境にも配慮した工場です。災害時には72時間工場としての機能を維持でき、免震構造をも取り入れた強靭な仕様となっています。色々な省エネのアイデアが詰まっており参考になります。
- ②リコージャパンの松田和也氏には、「事務機業界における共同物流の取り組み」と題して執筆いただきました。製品の物流を“競争”から“共創”領域ととらえ、競合企業の壁を越えてつながりを構築することで、業界課題と合わせて社会課題の解決を実現した取り組みが参考となります。準備が整った会社、趣旨に賛同できる企業からスタートしたり、いつでも参加できるという柔軟な取り組みが奏功した要因でもあり、他の業界でも共有化できそうです。
- ③鹿島建設の坂井吾郎氏と取違剛氏には、「CO2吸収コンクリート『CO2-SUICOM®』」と題して執筆いただきました。製造時にCO2を吸収して固まることで、CO2の排出量をゼロ以下にできる「CO2-SUICOM®」を展開中であり、歩車道境界ブロックなどに適用されていますが、さらにより汎用性の高い製品として、コンクリート用埋設型枠を実用化しています。施工の省力化を実現し、生産性向上とCO2の削減を同時に実現できる技術として、適用実績が増加しています。
- ④日本理化学工業の大山隆久氏には、「工程を人に合わせるからこそ強い」と題して取材をさせていただきました。障がいのある社員のほとんどの人が定年までは働くことができるのは、本人の努力と社長はじめ周囲の社員の皆さんの協力だと思います。工程を人に合わせること、安全を重視すること、色による識別管理、褒める6S活動、そして創意工夫が随所に見られ、その1つ1つがユニバーサルに全体の作業効率の向上につながっていて、とても素敵な工場だと思います。
- ⑤andu ametの鮫島弘子氏には、「小さくて尖った企業がたくさんあれば世界は変わる」と題してお話いただきました。途上国でサステナビリティとラグジュアリーの両立を念頭において、ものづくりでは基本的に売り切るマーケティングを考え、大量生産ではなく適量を生産して商品や販促品などの余剰在庫をゼロにすることを徹底しており、起業してから一度も余剰品を廃棄したことはないようです。また、手裁ち、手縫い、アッセンブルなど1人の職人が1つの商品のすべての工程を担当するとのことです。まるで、つくり過ぎのムダとセル生産方式について意識しているようで、ビックリしました。
- ⑥ツジコーの辻󠄀昭久氏には、「多角化をめざし“他にない商品”に挑戦 結果として社会課題解決につながる」と題してお話いただきました。取引先だった大手電機メーカーの地元工場が海外に移転したことを機に多角化を進め、色々とチャレンジし、バタフライピーでニッチ・トップをめざし、そして地元や海外に雇用の場を確保する姿に敬意を表します。
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レポート
- 東京都市大学の大久保寛基氏とグリーンCPS協議会の中村昌弘氏には「カーボンニュートラルをデザインする」と題して執筆いただきました。CNのデザインには、業務オぺレーションの運営・管理方式を改革していくことが重要であり、製品ごとの計測によりCFP(カーボン・フット・プリント)を算定するとともに、業務全体をデザインすること、さらには業務運用をCPS(サイバー・フィジカル・システム)で最適化することを進めなくてはなりません。CNをデザインするためには、多くの協力と連携が必要となっています。
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プリズム
- ①ワイエムコンサルティングの原田慶治氏には、「IEと脱炭素」と題して執筆いただきました。IEとCNはいずれも、インプットを最小化し、アウトプットを最大化するいう観点で共通しており、IEの実践が排出量削減に寄与し続けるのではないかというエールをいただきました。
- ②日本生産性本部・国際協力部には「セカンドキャリアは国際協力で!」と題して執筆いただきました。企業で働いて得たノウハウを活かし世界各地の人材育成や企業振興の現場している事例や中小企業診断士の資格保有者が現地企業を訪れ経営指導している様子が紹介されています。
おわりに
執筆者の皆さまの取り組みに勇気づけられました。そして、どの分野も社会課題解決のためには、共創と連携が必要であることを改めて認識することができました。
また、IErの進むべき方向について示唆をいただき感謝申し上げます。随所にIE的思考を取り入れて生活することを意識していきます。